スポーツアナリストになるには? 3日間の「アナキャン」リポート
試合から収集したデータを分析し、チームに対して価値を提供するスポーツアナリスト。プロ野球やJリーグ、オリンピックの日本代表チームなどでの活躍で、職業として知られるようになった。近年では学生スポーツの現場でも、広まりつつある。ただ、現在第一線で活躍するアナリストが第一世代で、その人たちの知見やスキルはまだ体系化されているわけではない。
アナリストを志して集まった23人の学生
「スポーツアナリストになりたいけど、どうすればいいの?」。そう思っている学生は決して少なくない。アナリストら約300人が会員となっている「一般社団法人日本スポーツアナリスト協会(JSAA)」にも、そんな声は届いていた。次世代アナリストの育成を事業の一つとして掲げる中、初めて実践的なスキルや考え方を学生に教える試みとして「スポーツアナリスト養成キャンプ(通称・アナキャン)」が8月30日から9月1日にかけて東京都内で開催された。
志望動機などをもとに選考を通過し、集まったのは23人。北は北海道から南は広島まで、高校生1人、大学生19人、大学院生3人となった。分析したい競技はバスケットボール、野球、サッカー、バレーボール、ラグビー、バドミントン、ラクロス、アメリカンフットボール、(アルペン)スキーと並んだ。いま関わっている部活動などでもっと活躍できるようになりたいという学生もいれば、将来の職業として考えている学生もいた。
法政大学2年生の山口朝さんは女子ラクロス部にアナライズスタッフとして所属する。「コーチングを勉強する中で、自分の武器がほしいと思ってました。アナライズは武器になるって周りから言われてましたけど、うまく先輩に伝えられないし、課題も解決できない」。そんな悩みを抱えていたところ、このキャンプのことを知った。
また筑波大学1年生で、蹴球(サッカー)部のアナライズ班とデータ班に所属する梨本健斗君もやってきた。2017年の天皇杯で筑波の蹴球部が次々とJリーグチームを破ったという報道で知ったスポーツアナリストという職業を志望して進学したという。まだ入部して半年足らず。自分のスキルや分析眼を養いたい、と応募した。
四つのステップに取り組む実践的なキャンプ
やや緊張した雰囲気で始まった最初の講義は、日本スポーツアナリスト協会代表理事で日本バレーボール協会女子日本代表ディレクターの渡辺啓太氏が担当した。
スポーツアナリストの仕事は大きく分けて、情報の収集評価、分析、加工、提供活用と四つのステップがある。キャンプの構成もこれに沿ったものだった。初日はビデオカメラが用意されて撮影技術と動画編集を学んだ。今回の特徴の一つは、実際の作業をやってみる時間が設けられていることだ。
また、Bリーグ千葉ジェッツふなばしビデオアナリストの木村和希氏は、大学時代からアナリストとしての活動を始めて、プロになった道のりを聞かせてくれた。初日の夜にあった交流会では、自己紹介の時間になると一人ひとりがここに来た思いをしっかり聞こうと、歓談の雰囲気から一変、静かになった。梨本君は「全国から集まった同じ志の仲間とつながれたことが大きいです」と話してくれた。
2日目は分析と加工を中心に学んだ。スポーツを題材に統計学の基礎を教わり、千葉洋平・日本フェンシング協会アナリストからは、分析に手をつける前に構造化してみる重要性が伝えられた。ビデオ分析ツールでデータベース化する方法を習う時間も、たっぷり3時間。参加者自身が撮影した試合や練習の動画を場面ごとに分類したり、特定の場面の数を数えたりした。3日間の内容について山口さんは「どうやったら教えてもらえるのかと自分の中で思っていたことを、的確に教えてもらえました。専門性は高いけど、本当に基礎のところから。充実感がありました」と、笑顔で話した。
伝える力の重要性も学んだ
山口さん、梨本君ともに大きな学びとして挙げたのが、コミュニケーションや伝える力の重要性だった。その部門の講師として招かれたのは、プレゼンテーションに関する著作も多い西脇資哲氏(日本マイクロソフト株式会社エバンジェリスト 業務執行役員)。体の使い方、視線の動かし方、話し方など、実例を見せながらテクニックの数々を教えてくれた。
そして3日目の最終課題は、受講生一人ひとりによるプレゼンテーション。自分のチームの監督に依頼されて、6分間の説明時間が与えられたという設定で、自分が持ってきた動画をビデオ分析ツールに入れて何らかの事実を見つけ、それをもとに発表していく。山口さんは部のミーティングで自チームの課題をとりあげるような内容で構成した。スライドの作り方、発表の構成など、習ったことはできるだけやってみた。「プレゼンテーションの講義で、伝える力が本当に大きいことがひしひしと伝わりました。アウトプットできる場をちゃんと用意してくれていて、ありがたかった」と、感想を話してくれた。
梨本君はある試合を題材に、自チームと相手チームの映像やデータを比較し、どうすべきだったのかを伝える内容だった。どちらのサイドからどのように攻められているのかなどを数字で示し、失点シーンの映像なども加えて分かりやすくした。筑波大蹴球部にはアナリストの先輩もいて、環境としては恵まれているだけに「選手とのコミュニケーションという点を意識して取り組んでいきたい」と梨本君。中身の濃い3日間を終え、修了証を受け取った表情は晴れやかだった。
(文:日本スポーツアナリスト協会広報委員 早川忠宏)