アメフト

特集:第73回ライスボウル

「戦力外」からはい上がった関学・松本紘輔「小さくてもアメフトには生きる道がある」

甲子園ボウルの西日本代表決定戦で、関学のDB松本(中央)は立命館にとどめを刺すインターセプトを決めた(すべて撮影・安本夏望)

アメフト日本選手権・第73回ライスボウル

1月3日@東京ドーム
関西学院大(学生)vs 富士通(社会人Xリーグ)

 新年1月3日、アメフトのライスボウルで関西学院大学ファイターズは社会人Xリーグ王者の富士通フロンティアーズと戦う。関学の4回生、そして1992年からチームを率いてきた鳥内秀晃監督(61)にとってのラストゲーム。その輪の中に、どん底からはい上がってきたDB(ディフェンスバック)がいる。20番をつける松本紘輔(4年、関西学院)だ。

 2回生の秋に受けたスタッフ転向の打診

今シーズン、関学ディフェンスの最後方からランに対してすばやく上がり、激しいタックルでしとめる小さな男が輝きを放ってきた。一心不乱。この言葉がぴったりのプレーぶり。それが身長168cmの松本だ。関学の中学部からフットボールを始め、高等部時代を通じてLB(ラインバッカー)やDBでプレーしていた。大学進学を機にDBの中でも最後尾を死守するSF(セーフティー)を希望した。80kgあった体重も5kg減らし、75kgになった。SFはディフェンス全体のバランスを保つ「司令塔」のような役割もある。誰よりも深くチームの戦術を理解し、相手の出方に応じて味方にポジショニングの指示を出す。プレーでは絶対に抜かせない確実なタックルが求められる。 

12月27日の記者会見でライスボウルへの思いを語った

そんな難しいポジションにあって、松本は伸び悩んだ。2回生の秋のシーズンが始まる直前。コーチからスタッフ転向の打診を受けた。事実上の「戦力外通告」だ。「実力が足りないのは分かってましたけど、悔しいという気持ちが先にきました」と松本。

先輩は言った。「あきらめるな、逃げるな」

裏方に回るのか、選手を続けるのか。決めきれないまま、12月の甲子園ボウルを迎えた。17-23で日大に負けた。試合後、当時の4回生でDBのパートリーダーだった小椋拓海(たくみ、現・富士通フロンティアーズ)に言われた。「絶対にあきらめるな、逃げるな」 

目が覚めた。「自分の努力が足りなかった。自分にしかできないことを見つけて、生きていこうと思いました」。松本は選手を続ける道を選んだ。「身体能力は高くないし、体も大きくないので、アサイメント(戦術)の理解を深め、オフェンスに対してしっかりアジャストできるようにしようと思った」。目の色を変えて取り組んだが、3回生のころはけがもあり、ほぼ1年を棒に振ってしまう。

今年の夏からOLの選手に頼んでタックルの練習台になってもらってきた

 OLの大男相手にタックルの自主練習

4回生になり、志願してパートリーダーになった。「いちばん努力する存在じゃないと、下級生もついてこない」。松本は一つのことをやり続けると決めた。練習前の午後3時すぎにはグラウンドに出た。ひたすらタックルだ。夏からは自分よりもはるかに大きいOL(オフェンスライン)に練習台になってもらった。毎日5、6本、腰より下を狙ってフルタックル。そのあと、ダミーを持ってもらってパックするところまでの練習を30分ほど。これを毎日続けた。OLのスターターである松永大誠(4年、箕面自由学園)も付き合ってくれた。「嫌がられはしましたけど、やってくれましたね」と笑う。毎日185cm120kg級の男にぶち当たっていると、当たりに対する一切の恐怖心がなくなった。4回生になって初めてスターターになり、西日本代表決定戦では試合を決めるインターセプト。甲子園ボウルではやられる場面もあったが、しぶとくタックルし続けた。 

ライスボウルで戦う富士通フロンティアーズには、松本のフットボール人生を変えてくれた恩人がいる。日大に負けたあと、声をかけてくれた小椋さんだ。「もう1度アメフトを頑張ろう、という勇気をくださった先輩です。学生最後の試合で、成長した姿を見せたいです」 

身長168cmの体で、どんな大きな相手にも激しいタックルにいく

来春、松本は不動産会社に就職する。高等部時代からの先輩で、1回生のときのSFの4回生だった岡本昂大さんと同じ会社だ。岡本さんは現在、社会人XリーグのLIXILで競技を続けている。岡本さんも松本と同じ身長168cmで、戦術理解の面でチームの信頼を勝ちとり、3回生からスターターになった。ふたりの姿が重なって見える。「ストイックな岡本さんをすごく尊敬していて、同じ道を歩いてきました。岡本さんと小椋さんには感謝しかないですね」。松本自身は卒業後もアメフトを続けるかどうかは決めていないそうだが、きっとこれも岡本さんと同じ道を行くことだろう。

僕はビビったプレーはしません

 学生最後の試合が目前に迫る。ライスボウルでどんな姿を見てほしいか、聞いた。「小さくてもアメフトはできると思ってもらえたらうれしいです。小さくても生きる道はあります。いちばん後ろを守る責任を持っている中でも、僕はビビったプレーはしません」。松本は目を輝かせ、力強く言った。ライスボウル4連覇を狙う富士通の強力オフェンスに、信念の男が食らいつく。