陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

先輩に恩返しをしたい 新・東洋大、駅伝のキーパーソン前田義弘

再構築を図る東洋大には大きな重要人物がいる。箱根で8区を任され、区間6位でタスキをつないだ身長190cmの1年生、前田義弘(東洋大牛久)だ。チームの総合順位は10位という結果に終わった大学1年目。涙を流し、チームを背負う4年生の姿を見た前田は「自分たちが総合優勝して恩返しをしたい」と来年度の活躍を誓った。

学年で一番早く三大駅伝デビュー

2019年の春に入学した前田は、入学直後から「三大駅伝に絡む走り」を目指し多くの記録会に出場。4月の平成国際大記録会では初挑戦の10000mで集団を引っ張る積極的な走りを見せ、自身の第一目標である関東インカレのB標準を突破した。

前主将の相澤晃(4年、学法石川)は、「見ていて頑張ってほしいと思う選手」と期待の1年生として入学時から前田に注目していた。そしてついに11月の全日本大学駅伝で6区を任され、この学年で一番早く三大駅伝デビューを果たす。

先頭と19秒差の2位でタスキを受け取った前田が考えていたのは、前との差を詰めることだけ。プラン通り序盤から突っ込むも、粘り切れず後半で失速し順位を5位へ落としてしまった。

三大駅伝に絡む走りの他に、4年生への恩返しという目標ができた。年始には箱根の8区に選ばれ、そのリベンジに挑み、前を走る駒澤大を抜き去った。途中、帝京大にかわされたが、激戦の中で順位をなんとか7位のまま保ちタスキをつなぐ。しかしチームは最後まで大きく流れを変えられず、総合10位。4年生の表情は晴れなかった。しかし、全日本での悔しさを経て、使命を持って箱根路を駆け抜ける姿は、とても頼もしかった。

箱根後、4年生の言葉を胸に刻む前田(左から2人目)

果たせなかった恩返しにかえて

前田の強さの要因は、真っ直ぐに自分を見つめる自己観察力の高さと、反省を反映する速さだ。「悔しい思いをしてよかった。これをバネに今後4年間活躍したい」とほろ苦いデビュー戦となった全日本も冷静に分析した。

そしてその翌週の世田谷ハーフマラソンでは、全日本の反省を生かし落ち着いたレースを展開。不安要素を確実に潰し、自分の走りを身につけていった。年末からはスタミナとフィジカルの強化を行い、箱根の長い距離に対応した。全日本から箱根までの約2カ月間にも、前田の強さがよく現れている。

前田の入学直後からの止まらぬ勢いは、チーム内にも大きな刺激を与えている。「先輩として負けられない」と練習中から存在を意識するのは、今年の箱根駅伝で5区区間新記録を樹立した2年生の宮下隼人(富士河口湖)である。また同じ1年生や先輩の3年生の複数の選手からも「イチオシの選手」として名前が挙がり、陸上以外のあらゆる面においても学年の垣根を超えて影響を及ぼしていることが分かる。

春からは大エースの相澤をはじめ、安定感の光る4年生が卒業し新体制となる。「4年生が抜けた後の戦力になれたら」と前田。1年生ながら2つの大きな駅伝を走り着実に成長を遂げているその足は、今後の東洋大を牽引するだろう。果たせなかった恩返しを、もう一度。大きなジャンプアップで関東インカレ、箱根駅伝の優勝を次の目標に掲げた前田は、既に来シーズンを見つめている。