サッカー

J甲府内定の明治大サッカー部・須貝英大主将 大怪我にも前を向き最後の舞台へ

12月22日に開かれた記者会見で、須貝はプロへの意気込みを語った

JR東日本カップ2020 第94回関東大学サッカーリーグ戦1部 第22節

12月20日@味の素フィールド西が丘
明治大(勝ち点48) 3(1-0)3 桐蔭横浜大(37)

じとっとした初夏から、あっという間に凍てつく冬へ。約半年の間にわたって開催された関東大学サッカーリーグ戦1部は、明治大の創部初の連覇で幕を閉じた。

最後に見せた王者のプライド

首位の座を争う早稲田大が12月19日に敗れ、優勝が確定。翌日に迎えた桐蔭横浜大との最終節では後半に3点を奪われるも、FW小柏剛副主将(4年、大宮アルディージャユース)の2ゴールで食らいついて引き分けた。「1段階ギアを上げることができた」(栗田大輔監督)。最後に黒星を喫することは、王者のプライドが許さなかった。

試合後の表彰式では歓喜に沸いたイレブン。しかし、中心にいるはずだった男の姿は、ピッチにはなかった。DF須貝英大主将(4年、浜松開誠館)は、リーグ終盤戦に左足首骨折の大けがを負い、離脱を余儀なくされていた。「とりあえずは一つ、タイトルを取ることができてよかった」。安堵の表情を見せた須貝だったが、ピッチに立たずして迎えた晴れ舞台をいかに捉えていたのか。激動の1年を振り返ってといまの心情、直近のビジョンに迫る。

確かな熱を持って迎えたシーズン

新チームが始動した今年2月。リーグ、都トーナメント、アミノバイタルカップ、総理大臣杯、インカレの5冠を達成した「最強明治」の主将に須貝は任命された。「プレッシャーはありました。でもそれを跳ね返すくらい広い視野を持って、一人の選手としてチームを引っ張っていきたい」。前主将のFW佐藤亮(現ギラヴァンツ北九州)からも掛けられた「お前ならできる」の言葉。確かな熱を持って、シーズンを迎えた。

豊富な運動量で、WB、SBともに柔軟にこなす須貝(右)

その熱は、未曾有のコロナ禍でも切れることはなかった。チームが一時解散した4〜6月の間は、各自でトレーニングに励みつつ、須貝ら4年生が中心となってオンラインでのミーティングを開催。「学生内でやるべきこと、考えを統一できていた」。7月に開幕したリーグ戦では開幕6連勝でスタートダッシュを飾ると、後期も早稲田大とのデッドヒートに一歩も退かず。チームの先頭に立ち、常に戦うメンタリティを部に浸透させた。

個人のプレー面に目をやると、3バック、4バックと自在に切り替わるシステムのWB、SBとして柔軟に対応しつつ、豊富な運動量でピッチを駆け回った。課題に挙げていた攻撃でも、本人は「まだまだ質が足りない」と語るが、第15節の慶應大戦では2得点を挙げ勝利に貢献。「一人の選手」として、攻守ともに申し分のない活躍が光った。

リーグ第15節・慶大戦では、PKを含む2得点でチームを勝利へ導いた

さらに、8月には故郷のJクラブ・ヴァンフォーレ甲府への加入が内定。9月26日のアルビレックス新潟戦では、90分間フル出場で堂々たるプロデビューを飾った。「動きを予測する部分で苦労しつつも、持ち味の守備は自信を持ってできました」。こうして振り返っても、飛躍の1年だったことには違いない。

サッカー人生で初めての大けが

リーグも終盤に差し掛かった第20節の立正大戦。順風満帆だった須貝に悲劇が訪れた。前半終了間際、足をひねった際「今までに経験したことのない痛み」に襲われた。下された診断は左足首内果の骨折、および軽度の靭帯損傷。復帰までにかかる期間は、およそ3カ月。それは在学中の大学サッカーへの復帰が絶望的だということも意味していた。

リーグ第20節・立正大戦。前半終了間際、須貝を「今までに経験したことのない痛み」が襲った

「もう試合に出ることができないんだ、という悔しさもあったけれど、それよりもチームに申し訳なかった」。延期日程が重なった5連戦の頭に起こった出来事。大きな衝撃と無念を残し、ピッチを去った。

「ヒデのために」。もとよりチームが抱いていた優勝への意識は、背負うものが増えてより強くなった。離脱後の駒澤大戦、中央大戦では、同期の4年生が計9得点。「4年間戦ってきた仲間が最後にいなくなってしまうのは悲しい。彼の思いもキャプテンマークに乗せて戦う」と副主将のMF住永翔(4年、青森山田)。大黒柱が抜けようとも、目の前の勝利にこだわる姿勢は変わらない。日頃からの積み重ねをベースに、着々と勝ち点を積み上げていったイレブン。結果として、創部初の連覇という形に結びついた。

自らがプレーせずに迎えたリーグ優勝。須貝は最終節を「不思議な気持ち」でスタンドから見守った。「チームとして結果を残せたことは間違いなくうれしい。けれど、個人としてもキャプテンとしてもピッチに立って優勝を迎えたかったし、最後まで戦いたかった。チームの優勝の方がうれしいと言えばうそになる。不思議な気持ちです」。サッカー人生を通して、初めての大けが。整理のつかない部分こそありつつも、確かなのは「うれしさと悔しさ、どちらの感情も強い」ことだと話す。

最後まで自分の役割を全うする

リーグ最終節を終えての写真撮影。中心にいるはずだった須貝の姿はスタンドにあった

4年目の最終盤での離脱。普通の選手なら、その時点で全てを投げ出し、折れてしまうこともあるだろう。それでも須貝は、最後まで自分の役割を全うしようと務める。「日本一の組織を目指しているので、ピッチ内で圧倒的な存在になることはもちろん、発言や立ち振る舞いなどの人間性の部分を伝えていきたい。明治はいろんな部分で大学サッカーを引っ張っていかなければいけない存在。自分たちが1年生から教えられてきたことなので、先輩として伝えていきたい」。練習中に気づいたことは即座にアドバイスし、学年問わず部員それぞれとのコミュニケーションも欠かさない。「全員が同じ熱量で取り組む」部のモットーを、主将の立場から誰よりも体現している。

残るは1月の全国大会。選手としては活躍できないかもしれない。それでも今の自らの立場からの意気込みを、インタビューの最後に尋ねると、須貝はきっぱりと言い切った。「復帰まで考えると現実的には難しいかもしれないけれど、もう明治でプレーできないとは全く思っていない。その気持ちはなんとしてでも持ち続けたい」。選手・須貝英大の大学サッカーはまだ終わってなんかいない。その目は前だけを向いていた。