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山下健太×坪井翔 若きプロドライバーに聞くモータースポーツとeスポーツの世界

山下健太選手(左)と坪井翔選手 ©JRP

カーレース「スーパーフォーミュラ」や「SUPER GT」で活躍するレーシングドライバー、山下健太選手と坪井翔選手。スーパーフォーミュラではともにTOYOTA GAZOO Racingに所属し、チャンピオンを目指す良きライバルだ。今回はそのふたりにモータースポーツの魅力を聞くとともに、大学自動車部対抗のeモータースポーツ大会「GT Young Challenge 2021」で使用される人気ソフト「グランツーリスモ」について聞いた。

――同い年のおふたりは、どんな関係ですか?

山下健太(以下、山下) 僕は仲が良いと思っていますけど。
坪井翔(以下、坪井) ははは、仲良いよね。
山下 レーシングカートに乗っていた頃から知っていて、もともと意識はしています。今年のGT500(※1)の開幕戦でトップを争った影響もあり、まわりからライバル同士と見られることも多いです。所属するトヨタ(TOYOTA GAZOO Racing)でも同い年は坪井選手しかいないので、ライバルと言われればそういう関係だと思います。

※1 GT500:カーレースSUPER GTのなかのクラスのひとつ

――子どもの頃からレーシングカートを楽しんでいたおふたりが、スーパーフォーミュラを意識したのはいつ頃ですか。

山下 当時はフォーミュラ・ニッポン(※2)という名称でしたが、子どもの頃からレースをテレビで見ていた記憶があります。いつか乗れたらいいなと憧れていて、トヨタの育成機関に入ってからは現実的な目標になりました。
坪井 僕は大学時代のF3(※3)の頃ですね。日本のトップカテゴリーにいけるかもしれないと意識しました。

※2 フォーミュラ・ニッポン:1996年から2012年まで開催されていたレース。スーパーフォーミュラの前身
※3 F3:フォーミュラカーレースの1カテゴリー、現スーパーフォーミュラライツ

エンジン音が響くサーキット。2021年の富士スピードウェイでの開幕戦 ©JRP

――実際にスーパーフォーミュラに参戦されていかがですか。

山下 僕は参戦1年目の方が活躍できていて、やればやるほど難しさが見えてきています。参戦した5年前はプレッシャーも少なく、勢いで戦えていました。いまは踏ん張りどころという感じです。
坪井 たしかに知れば知るほど奥が深いですよね。とくに車のセットアップが一番大きいと思います。どの選手も運転技術が高い中から一歩抜け出すには、ドライバーを含めてチームで良い車を造ることが大事です。セットアップが1mmずれるだけで、速かった選手が次のタイムレースでは最下位ということもある世界です。知れば知るほど追求したくなるのですが、なかなか思ったとおりにはいきません。

2016年のマカオグランプリ決勝レーススタート前の山下選手と坪井選手 ©JRP

――車の研究も大事なのですね。山下選手はそのために大学で学んだと聞きました。

山下 東海大学の工学部動力機械工学科という、車に関するすべてを学ぶ学科に通い、構造や、溶接などの実技も学びました。設計や製図をおこなうプログラミングツールを使い自分で計算して、エンジンを造ったりしていましたね。レースの遠征で大学を休むこともあり、夏休みや冬休みを返上して大学に行き単位を取り、教授にもすごく助けてもらいました。

――おふたりともレースと大学の両立は大変だったのでは。

坪井 僕は4年生になる前にほぼ単位を取りました。学校がすごく応援してくれて、OB会からレース参戦の資金を集めてくれたりしました。その頃はレースを続けられるかどうかの瀬戸際だったので、本当にありがたかったですね。いろいろ面倒を見ていただいてすごく感謝しています。
山下 坪井選手と一緒にF3に出ていた頃の遠征はすべて車移動で、工場のある御殿場に集合してそこから6時間かけて自分たちで運転して岡山まで行ったりするんですよ。レース後は日曜の夜遅くに家に帰り、月曜朝から大学の授業。4年間よく頑張ったと思います(笑)。

――在学中の2016年に坪井選手もF3に参戦し、最後の大会まで山下選手とともに優勝を争いました。

坪井 F3にあがってチームメートになり、やっと追いついたという感じでした。でも最後のレースで山下選手がチャンピオンになって、また先に行かれちゃいましたね(笑)。
山下 僕はそのとき3年目で後がなく必死でしたね。歴代の選手を見ても、3年やってダメならアウトだと思っていましたから。そもそもトヨタの育成機関のオーディション開始時点からどんどん人数が絞られ、その後も結果が出ないと辞めることになります。僕は運良く結果が出ましたが、落ちたみんなの分まで頑張らないといけないなと思っている部分もありました。
坪井 セカンドチャンスが基本的にはないですからね。メーカーの育成コースで落ちると、上がってこられることはほぼありません。

2017年のルマン24時間レースを訪れた坪井選手 

――そんな厳しい世界でも競技を続けるのは、なぜですか。

坪井 レースが好きで楽しいという気持ちが一番大きいですね。つらい時期も多いんですけど、その分、勝ったときやチャンピオンになったときの喜びを超えるものは、自分の人生の中で見つかりません。
山下 僕はそもそも車が好きで、運転も好きでした。サーキットで車を走らせることができて、さらにお金ももらえるなんて最高じゃないかと、高校生の頃に思いました。それに、モータースポーツはチーム戦というところもおもしろいです。いくらドライバーが頑張っても車が良くないとダメ。車を造るメカニックや、エンジンを造るメーカーの方とか何十人何百人と関わっています。協力して速い車を造って勝ったときにみんなで喜ぶ感じも、モータースポーツの醍醐味だと思います。

――なかでもスーパーフォーミュラの魅力は何ですか。

山下 スーパーフォーミュラの車はとても速いし摩耗が少ないタイヤを使うので、車の限界まで出し切るレースができるところにあると思います。ドライバーはその車で60周くらい走るので過酷ですが、やりがいがあります。
坪井 スーパーフォーミュラはタイヤやエンジン、エアロとかどのチームも同じものを使用するので、チームやドライバーの技術やセットアップで勝負が決まります。見ているお客さんにとっても、どのドライバーが、どこのチームが速いのかシンプルにわかりやすいところも魅力ですね。

2019年、全日本スーパーフォーミュラ選手権第6戦にて近藤真彦監督と山下選手 ©JRP

――最近ではレーシングドライバーがeスポーツに参戦することも増えていますが、山下選手は「グランツーリスモ」でレースを楽しまれ、坪井選手は「スーパーフォーミュラ・ヴァーチャルシリーズ」で優勝されていますね。

山下 国体のeスポーツの部で予選を通過できて、「こっちの世界でもいけるのかな?」と思ったんですが、最近は本当に速い人がたくさん出てきて、レベルがすごく上がっていますね。
坪井 僕は運良く勝てたのですが、最近のシミュレーターは優秀でリアルのレースとリンクする部分も多くあります。F3でマカオに行く前も、シミュレーターでマカオのコースを走って練習していました。 
山下 本気で勝つには戦略専門の担当者が必要になると思います。「ヴァーチャルシリーズ」に僕も参加しましたが、ピットインのタイミングや周りの動きを考えて、ピットアウトした時に集団に紛れず自由に走れるように計算しました。そういう戦略を立てて戦うには、チームワークが重要になると思います。

――eスポーツからリアルレーサーに転身する選手もいますね。

山下 どちらも操作するのはハンドルとアクセルとブレーキと変わりありません。最近のシミュレーターは本物と同じ感覚で扱えるので、速く走る作業は実車でも変わりません。もちろんG(体にかかる重力加速度)などまったく違う部分もありますが、体力があって恐怖も克服できたら、リアルでも活躍できると思います。
坪井 恐怖やGに慣れるのは時間がかかりますけど、そこに適応できたらすぐに速く走れると思いますよ。

レース中の坪井選手 ©JRP

―― 一般の人にもグランツーリスモがスーパーフォーミュラへの興味の入り口になりそうですね。

坪井 グランツーリスモでレースに興味をもったら、ぜひ一度サーキットに来てほしいですね。スタート直前にエンジン音が高まってレッドライトが消える瞬間の緊張感やレースの興奮は、リアルのほうが観る方にも伝わると思います。
山下 一度見ると、また行きたいと言ってくれる人は多いです。グランツーリスモをプレーしている人は多いので、バーチャルからリアルに来てもらえたらすごくうれしいですね。

――大学自動車部が参戦するグランツーリスモの大会「GT Young Challenge 2021」の予選大会が10月30日、決勝大会が12月19日に行われますが、おふたりと同じように、日本一という夢を追う学生たちに、アドバイスをお願いします。

山下 日頃の成果をみんなで競い合うのは、すごく良いことだと思います。負けても上には上がいると思い、もっと頑張らないといけないと思えるでしょう。競走相手や来場者がいると、ひとりでレースをするよりもやりがいがあると思うので、そういうものを体験して楽しんでほしいですね。
坪井 日本一を目指す領域にいる人たちに必要なのは、最後は気持ちだと思います。それに最後まで諦めないこと。ゲームでも実車でも、レースはチェッカーフラッグを受けるまで何が起きるか分かりません。とにかく気持ちを込めて頑張ってほしいと思います。

〈profile〉
山下健太(やました・けんた)
/1995年、千葉県生まれ。東海大学卒。2014年にF3に参戦し、2016年に全日本F3王者に。2017年にスーパーフォーミュラにステップアップし、また2018年にはSUPER GTにも参戦し、2019年にGT500シリーズでチャンピオンに輝く。

坪井翔(つぼい・しょう)/1995年、埼玉県生まれ。駿河台大学卒。2016年にF3に参戦し、2018年にシリーズ制覇。2019年にスーパーフォーミュラとGT500に参戦し、2020年にはスーパーフォーミュラシリーズ3位となる。

「GT Young Challenge 2021」

世界中で愛される人気ソフト「グランツーリスモ」を舞台に、全日本学生自動車連盟に所属する大学自動車部が大学の頂点を決める大会「GT Young Challenge 2021」。予選大会は10月30日に、決勝大会は12月19日に開催予定だ。前回大会では中央大学自動車部が初代チャンピオンに輝いたが、今回はどんなドラマが待ち受けているのか、見逃せない。


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