日体大レスリング鈴木絢大、インカレ優勝の先に見る東京五輪への大勝負
全日本学生レスリング選手権 グレコローマン60kg級
8月20~23日@東京・駒沢体育館
優勝 鈴木絢大(日本体育大3年)
学生日本一の座をかけて戦う全日本学生レスリング選手権(インカレ)で、今年6月にケガから復帰した日体大の鈴木絢大(あやた、3年、飛龍)が初優勝を飾った。試合後の鈴木は「今は率直にうれしいですね」と笑顔を見せた。
全試合無失点、驚異の強さ
昨年は左ひざのけがで欠場していたため、インカレは2年ぶりの出場だった。鈴木は全試合無失点のテクニカルフォール勝ちという驚異的な強さで優勝。ビッグポイントとなる反り投げも何度も決めた。
初戦から順当に勝ち進んだ鈴木は、準決勝で第1シードの藤波諒太郎(専修大4年、金沢北陵)と激突。6月の明治杯全日本選抜選手権3位決定戦と同じカードとなった。明治杯でもテクニカルフォールで勝利を収めてはいたが、そのときは動きが少し固かった。
「あの時は(全日本)初の表彰台がかかってたし、緊張しちゃった部分もあるんですけど、今回はしっかり自分から前に出て点を取り切ろうと思ってたので。明治杯のときよりはリラックスしてできたかなと思います」。その言葉通り、試合開始から積極的に仕掛け、次々とチャンスをものにする。本来の力を発揮し、文句なしの決勝進出を決めた。
同門対決に圧勝しても、喜びは控えめ
迎えた決勝は、大学の1学年下の稲葉海人(日体大2年、韮崎工)との同門対決となった。「同門なので、お互いやりにくい部分もありました」と本人も言うように、準決勝までに見せていた大きな投げ技は決まらなかったが、バックを奪ってそのままローリングを決めるなど、連続得点で稲葉を突き放した。
手の内がわかっている分、少なからず苦戦した部分はあったが「その中で自分の展開から点を取れたというのは、プラスにとらえられるところかなと思います」と、自身の戦いを評価した。最終的には試合時間が残り1分を切ったところで8点差をつけ、勝負あり。控え目なガッツポーズで優勝の喜びを表現した。
誰が見ても完璧と言える内容での優勝だったが、当の本人は満足していない。「全部無失点の全部テクニカル(フォール)で終われたのはよかった」としながらも、「やっぱりまだ点を取られそうなところとか、自分でしっかり決めきれない部分がありました。詰めの甘さというか、そういうところをしっかり修正して、次はもっと完璧な試合をしたいと思います」と、勝って兜(かぶと)の緒を締めた。
見すえるのは東京五輪、学生に勝って満足しない
なぜ、こうも高いレベルを求めるのか。それは、彼の見すえる先には、来年に迫った東京オリンピックがあるからだ。学生大会での優勝は、あくまでも通過点に過ぎない。
鈴木の戦うグレコローマン60kg級には、2017年世界選手権グレコローマン59kg級優勝の文田(ふみた)健一郎(日体大~ミキハウス)と、2016年リオデジャネイロオリンピックのグレコローマン59kg級で準優勝した太田忍(日体大~ALSOK)が双璧をなしている。世界で結果を残している両者を前に、その牙城を崩すことができていないのが現状だ。
日本代表選手になれるのは、各階級たったひとり。つまり、鈴木が東京オリンピックに出場するためには、何よりもまずこのふたりを倒して日本一にならねばならない。
昨年の夏、鈴木は練習の際に左ひざの靭帯を断裂。急手術を受けるほどの大けがだった。高3の秋には左手首の骨短縮手術を受け、半年間のリハビリを強いられた。気持ちが折れそうになるような長い道のりでも、鈴木は幾度となくけがやリハビリを乗り越え、マットの上に帰ってきた。そのたびに強さを増して戻ってくるのは、オリンピックへの並々ならぬ思いと強靭なメンタルを持ち合わせているからだろう。その芯の強さは、誰でも真似できるものではない。
左ひざのけがからの復帰戦となった今年6月の明治杯では、準決勝で太田に敗れた。目指している場所には届かなかったが、全日本の舞台で堂々とした戦いは見せた。
続く6月末の東日本学生春季選手権はグレコローマン63kg級で優勝、そしてインカレで優勝を飾り、完全復活を印象づけた。順調にコンディションを整え、調子を上げてきている。
「ふたりを食って、代表を取りにいく」
次の全日本規模の大会、12月の天皇杯が東京オリンピック代表選考でスタートラインに立つラストチャンスとなる。ここで優勝できなければ、可能性は限りなくゼロに近づく。厳しい状況にありながらも、鈴木がオリンピック出場をあきらめる様子はまったくない。「東京オリンピックのチャンスはなくなったわけじゃないので、そのわずかな可能性にかけて、12月に向けてしっかり準備していきたいと思います。あのふたりを食って、僕が代表を取りにいきたいなと思ってます」
鈴木は力強く、そして笑顔でそう語った。
自らの大逆転ストーリーを描くため、満を持して12月の大一番に挑む。