アメフト

同志社の主将・笹尾健「笑って引退する」 14日に10年連続の入れ替え戦

同志社大の主将である笹尾はリーグ最終戦で初勝利を挙げ、観客席を見上げた(すべて撮影・安本夏望)

アメフト関西学生リーグ入れ替え戦

1214日@神戸・王子スタジアム
同志社大(17位)vs 甲南大(22位)

甲子園ボウル前日の12月14日、これはこれでアツい戦いがある。入れ替え戦だ。関西学生リーグ1部の同志社大は、実に10年連続の入れ替え戦に臨む。

 リーグ最終戦、劇的な逆転のフィールドゴール

 同志社にとって119日は長い一日になった。

 5敗1分けで迎えた関西学生リーグ1部の最終節。同志社は、すでに最下位の8位で入れ替え戦行きが決まっていた龍谷大と対戦。試合残り1分を切って12-13と逆転されたが、あきらめず攻めた。ゴール前26ydまで進み、残りは7秒。フィールドゴール(FG3点)での逆転を狙って、キッキングチームが出てきた。専任キッカーの大槻晋之介(4年、同志社香里)ではなく、主将でディフェンスのLBが本職の笹尾健(4年、近大付)がキッカーの位置についた。

龍谷大戦の試合終了間際、43ydのFGにトライする笹尾(右)
劇的な逆転FGを決め、喜ぶ笹尾(5番)

 意外だった。今シーズン、笹尾が決めたのはこの日の第2クオーター(Q)の30ydFGが初めてだった。それも、当たり損ねで何とか入った。第3Qのタッチダウンのあとのキックは大槻が蹴っていた。「さっきのFGを見る限り、43ydは決まりそうにないで」。正直、私はそう思った。しかし笹尾が右足を振り抜くと、ジャストミートしたボールがまっすぐにゴールへ向かっていった。成功。15-13と残り2秒で試合をひっくり返し、勝ちきった。同志社サイドはお祭り騒ぎになった。 

負ければ即入れ替え戦出場が決まるところだったが、これで続く関大―近大の結果次第となった。近大が敗れて同志社と151分けの6位で並んだ。直接対決の結果が引き分けだから、抽選で入れ替え戦へ進む「7位相当」を決めることになった。笹尾が引いた封筒の中に、「7位相当」と書かれた紙が入っていた。笹尾は言った。「1部でやってきたプライドにかけて、勝って笑って引退してやろうと思います」。入れ替え戦の相手は、昨年は逆の立場で対戦した甲南大に決まった。 

LBとしてリーグ最終戦でタックルする笹尾

それにしてもあのリーグ最終戦の場面、なぜ笹尾が43ydと長いFGを蹴ったのか。それが、笹尾なりの腹のくくり方だったのだ。

 キッキングチームにも声をかけるため、キッカーを始めた

 笹尾は中学まではサッカーで、近大付属高校からアメフトを始めた。同志社でアメフトを続けて4回生になり、主将となった。そのとき考えた。ディフェンスリーダーを務める一方で、スペシャルチームのメンバーにも密にコミュニケーションをとっていけないか、と。接戦になったとき、最後に試合を決めるのは彼らだ。「繊細で大事なポジションのスペシャルチームにも、しっかり声をかけられるキャプテンになりたかったんです」。笹尾の出した答えは自分自身がキッカーになり、その輪に入っていくことだった。 

3回生までは1度もボールを蹴ったことはなかった。メインの練習時間はディフェンスの練習に没頭。練習前、練習後の時間に、同期の大槻とボールを蹴り合った。

10月15日に京大に負けた試合後、誰もいないところで泣く笹尾

 勝てない、勝てない、笹尾は人知れず泣いた

 秋のシーズンが始まった。関学、立命に負けたあと、7-19で関大に負け。続く近大とは14-14で引き分けた。勝てない。このころの笹尾は試合後のハドルを終え、コーチと話し込んだあと、いつも泣いていた。「つらかったし、何がアカンのかって悩みました。泣くとこはみんなに見せたくなかった。変なプライドがあって」と笹尾。このあと京大に14-21で負けた。キックの調子が上がってきていた笹尾はこの試合、フットボール人生7年目で初めて試合でFGを蹴ったが、弾道が低くてブロックされた。さらに神戸大に0-12で負け、龍谷大とのリーグ最終戦を迎えていた。

 龍谷大戦の最後の場面、ボールオン25ydより長いFGは大槻が蹴ることになっていたが、26ydなのに笹尾が出ていった。「俺がいく、って言いました。負けたら入れ替え戦が決定だったので、責任は自分が取ろうと思いました。足を振り切ったら、どっちに転ぼうと、もうええって」。笹尾は尊敬するLBの先輩の4回生のときのスタイルをまねて、金色のハイカットのスパイクを履いている。ハイカットだから足首がまっすぐ伸びにくく、安定したキックは蹴りにくい。それでも「気持ちで蹴る」と右足を振り抜き、すばらしい弾道で逆転のFGを決めた。

リーグ最終戦で初勝利し、同じポジションの後輩に抱きつかれる笹尾(奥)

 「リーグ戦で1勝できたのはめちゃくちゃ大きいと思います。家族より長い時間、濃い時間をすごしてきたみんなと、入れ替え戦は必ず勝ちます」。笹尾はそう言いきった。