大学陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

法政大・坪井慧 誰よりもチーム思いの主将、最後の箱根で完全燃焼を

やわらかい物腰で、丁寧に取材に答えてくれた(壮行会写真撮影・杉山孝)

箱根駅伝でここ2年連続6位と健闘している法政大は今大会、さらに一歩進むつもりだ。佐藤敏也(4年、愛知)という柱を欠くが、狙うは4位。そのためにキャプテンとして、一人のランナーとして、坪井慧(4年、大垣日大)は持てる力を出し尽くす構えだ。

自分のことではなく、仲間を第一に語る

箱根駅伝のエントリーメンバーが発表された翌日、陸上競技部駅伝チームの選手たちは、多摩キャンパスで多くの学生たちの前で、午後の日差しを浴びていた。全日本大学選手権に出場するサッカー部とともに、壮行会に出席していたのだ。キャプテンの坪井はマイクを握り、よどみないスピーチで健闘を誓った。

理路整然と語る様子からは、主将らしい頼もしさが感じられた

物腰がやわらかく、理路整然。いかにもしっかり者のキャプテンという印象だ。坪田智夫監督は坪井について「もうあとは、チームをまとめるとかいうよりも、キャプテンらしい走りをしてもらいたいなと思います」と話す。

「一選手として集中してほしい」。坪田監督のそんなコメントを聞かされたキャプテンは、少し天然な一面を見せた。「敏也自身にもこの後の競技人生があるので、箱根で終わってほしくないです。僕たちも敏也に期待しているので、ここはしっかり我慢してもらって、次につなげてもらいたいなと」。直前まで話していた佐藤のことと勘違いして、自分のことは脇におき、仲間への思いを語っていた。

青木、佐藤と「3本柱」と呼ばれても

法政大を取り巻く一番の話題は、どうしても佐藤の欠場に集中した。昨年の1区で5位とチームを勢いに乗せ、今年の関東インカレ5000m、10000mの2種目で日本人トップとなった大黒柱の欠場は、確かに痛い。2年連続で山登りの5区に挑んだ青木涼真(4年、春日部)と並べ、法政の2大エースと紹介するメディアが多かった。

関東インカレ男子1部ハーフマラソンでは9位と、あと一歩で入賞を逃した(撮影・藤井みさ)

だが、法政大の広報誌1・2月号では、坪井も含めて「3本柱」と紹介している。「いやいや、そんなことないですよ。佐藤と青木がエースですから」。キャプテンはどこまでも謙虚だった。その広報誌の選手紹介で、学生たちはそれぞれ「頑張ります」「貢献します」などと意気込みを述べている。その24人の中でただ一人、「チーム目標を達成させます」と自分以外のことを語っている選手が坪井だった。

「山の法政」の立役者

ここ数年の「山の法政」の印象づけに、坪井は大きく貢献している。前々回は登りの5区・青木と下りの6区・佐藤で上位への足がかりをつくった。前回、5区・青木はそのままに、6区を引き継いだのが坪井だった。結果は、前年に佐藤がつくった法政大記録を19秒も更新する58分30秒。区間4位の好走で、前日の往路の流れを加速させた。

3月の学生ハーフマラソンでは1時間3分25秒と自己ベストを更新。一方で、チームのキャプテンにも就任した。「今年に入ってから、どうしても自分中心というよりは、チームのことをしっかり考えたいなというふうに変わりました」と新たな「負担」も加わっていた。

坪井は自分のことよりも、いつもチームのことを第一に考えている

夏場には、左ひざが悲鳴を上げた。好調だっただけに走れないことは悔しかっただろうが、「走りでチームに貢献したいなという思いがありました。それに、走っていないとチームの中でも言いづらいということがあったので」と、ここでもチームが先に立った。だからこそ、だろうか。「一選手として集中してほしい」と坪田監督は坪井の肩から重荷を下ろさせようとする。

チームのために、6区を走りたい

800m以上の高低差。上りの5区もつらいが、6区での一気の下りも相当に過酷だ。重力が全身を痛めつける。「走り終わった後、足の裏は大丈夫だったんですけど、ももの前などが……。合宿で走り込んでも、あそこまではないんじゃないかなと思います」。朝一番に走ったはずなのに、翌日になっても肩を借りないと歩けなかったという。

夏場の負傷の後、ようやくジョグを再開できるまでにひざが回復したのは、11月中旬だった。今は、本番までに何とか100%に戻したいという状態だ。それでも坪井は6区を希望する。「下りはひざに(負担が)くるんですけど、割り切って走ります。正直、怖いという思いもあるんですけど、チームのためにしっかり走りたいと思います」。キャプテンのハートにブレはない。

チームメイトになにか話しかけられ、笑顔を見せる坪井

昨年の6区では、区間新記録が誕生した。偉業を成し遂げたのは、4年連続で6区を走った青山学院大の小野田勇次(現・トヨタ紡織)だった。自分を追い抜いていった山下りのスペシャリストとの勝負は、いまも坪井の中に息づいている。「小野田さんがくるかなと思って、ちょっと(力を)ためようと思って若干ペースを落としたら、それが足が止まる原因になってしまいました。自分がそのままいったら最後に負けるかなと思ってしまったんですけど、(今回は)そういうことを考えずに、最後しっかり走りたいと思います」

やはり求められるのは、「己」への思いなのだ。

1、2年と、エントリーメンバーには入っていた。3年目は佐藤の記録を更新した。着実に成長してきたはずだが、「でも、佐藤と青木も同じように伸びてますから」と、坪井は穏やかな表情を変えることなく語る。

それでも、いや、そうであるならば。佐藤と青木の背中に食らいついた日々は、きっと坪井に納得の走りを遂げさせるはずだ。

最後の箱根、坪井の走りは、チームの走りでもある。

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