大学アメフト

特集:第74回甲子園ボウル

ここで4年間負けて志した指導者の道 関学・鳥内秀晃監督のラスト甲子園デー

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関学アメフト・鳥内監督ラストイヤー
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試合前、グッズ売り場に自著を買い求めに来てくれた早稲田の高岡監督(左)と(撮影・安本夏望)

アメフト全日本大学選手権決勝・第74回甲子園ボウル

1215日@阪神甲子園球場
関西学院大(西日本代表、関西2位)38-28 早稲田大(東日本代表、関東)

アメフトの甲子園ボウルで、関西学院大が苦しみながらも早稲田大に勝ち、2年連続30度目の優勝を飾った。今シーズン限りでの退任を表明している関学の鳥内秀晃監督(61)にとってはチームを率いて15回目で、最後の甲子園。監督としての通算対戦成績を1131分けとして、指導者になるきっかけとなったボウルゲームに別れを告げた。

 試合前のグッズ売り場で「おい、ネタあるぞ」

 試合開始の3時間前、鳥内監督の姿は球場外の関学グッズ売り場にあった。甲子園ボウル恒例の風景だ。グッズを買ってくれた人、ときには何も買わない人とも写真撮影に応じる。撮影係の学生が手際よく撮っていく。監督は隣に並んだ人に対して、いちいちツッコんだ。 

「青ちゃいますやん」 

標準語に訳せば「あなた、青い服を着てないじゃないですか」。ファイターズのチームカラーである青の衣類を身につけていないことを、ツッコむ。まあ、これは監督にとってあいさつみたいなものだ。 

「おい、ネタあるぞ」。ニヤリとして私に言ってきた。「さっき、早稲田のディフェンスコーディネーターが、本買いに来たで。試合までに読めよ、言うといたわ」。本というのは監督退任を機に出版する『どんな男になんねん』だ。1224日発売だが、この日は特別に300冊、関学のグッズ売り場で販売していた。するとそこへ、もっとネタになる人がやって来た。早稲田の高岡勝監督(51)だ。鳥内さんの著書を購入し、写真撮影の列に並んだ。「試合までに読めるからな」。鳥内監督は、高岡監督にも笑顔で言った。

監督として最後の甲子園ボウルに勝った瞬間も表情は崩さなかった(撮影・北川直樹)

 QB奥野には電話で「自由にやれ」 

関学の選手だったときに甲子園ボウルで4年続けて日大に敗れ、「学生を勝たしてやりたい」と指導者の道を歩み始めた。特別な思い入れのあるボウルゲームだ。監督としての最後の甲子園ボウルが始まった。もう笑わない。いつも通り、にらみつけるように戦況を見つめる。気になることがあると、フィールドからサイドラインに戻ってきた選手に直接言葉をかけた。エースQBの奥野耕世(3年、関西学院)には前夜、電話で伝えてあった。「おまえらしいプレーができてない。もっと走って逃げて、投げたらええ。自由にやれ」。気持ちが楽になった奥野は、35回のパスを21回決め、212ydを稼いでWR阿部拓朗(4年、池田)へ二つのタッチダウンパスを通した。ビッグゲーム前には恒例の、前泊先での4回生とのミーティングでは「最後の学生同士の試合や、意地見せろよ」と言った。彼らにとっても最後の晴れ舞台で、4回生たちが要所で活躍した。何とか早稲田を振り切った。勝利の瞬間、鳥内監督は一切表情を緩めなかった。 

記念写真に写りに来るとき、主将の寺岡(左)が優勝カップを渡そうとしているのに応じない鳥内監督(撮影・北川直樹)

ウケた勝利監督インタビュー「ちゃんと考えてんねん」

試合直後のテレビ局による勝利監督インタビュー。最後の甲子園ボウルを戦うにあたってどんな思いだったかを聞かれ、「いや、普通ですわ」。一塁側の観客席を埋めた関学ファンがドッと沸いた。ウケた。普段から「笑いやったら負けへんで」と公言する監督だけに、最高の気分だったのだろう。会心の笑顔が出た。さらに話が新年3日のライスボウルに及ぶと、「おもろいことやろうと思います」。またウケた。私がインタビューを終えた監督に駆け寄って「ウケてよかったじゃないですか」と言うと、「ちゃんと考えてんねん」と言って、ニヤリと笑った。 

主将の寺岡(左)から優勝カップを渡されて笑顔(撮影・北川直樹)
仁王立ちで優勝カップを掲げる(撮影・安本夏望)

甲子園ボウル優勝記念の白いキャップをかぶった選手たちが、全体の記念撮影に応じていた。すると誰かが「かんとくー」と声を上げた。一緒に写真を撮りましょう、の意味だ。優勝カップを持ったまま、主将のDL寺岡芳樹(4年、関西学院)が鳥内監督を呼びに行く。表情を変えずに、監督がやってきた。寺岡からカップを渡されると、仁王立ちで甲子園の空にカップを掲げた。盛り上がる選手たち。最前列の中央でひざまずき、いい笑顔で学生たちと写真に収まった。珍しいシーンだと思った。長らく関学の試合を見てきたが、鳥内監督が学生と一緒に記念撮影したのはおそらく、2002年のライスボウルで関学が初優勝したとき以来だ。リーグ戦で神戸大に苦しめられ、立命に負けた。苦しいシーズンを過ごしてきた関学ファイターズが、鳥内監督を真ん中にして、やっとみんなで心から笑えた。いいサプライズだった。 

記念撮影のあと、学生たちに語りかける(撮影・北川直樹)

学生たちの前に立った鳥内監督は言った。「この一瞬のためにやってたんや。勝ててよかったな。次は社会人との試合があるけど、消化試合にならんように、気持ち作っていけよ」

 最高級の賛辞が出た「執念がちゃいますわな」 

報道陣による囲み取材。監督として最後の甲子園ボウルが終わっての思いを聞かれ、「泣きそうや」。真顔で即答したあと、やんちゃな笑みを浮かべて言った。「ウソやからな」。そして続けた。「ここに何回も来させてもうてる。ありがたいことですわ。主役はあくまで学生や。勝ってよかった。あの笑顔を見るために、俺も毎年頑張ってる。報われたな」 

ずっとふがいないと言い続けてきた4回生については、こうたたえた。「意地見せてくれたんちゃいますか。阿部のキャッチもそうやけど、執念が下級生とは違いますわな」。執念が違う。これまでさんざん鳥内監督を取材してきた中で、最高級の選手への賛辞だと思った。 

写真撮影でいい笑顔を見せてましたね? と問われると「別に。笑わなしゃあない。呼ばれたからな。いつもは呼んでくれへんから、入られへん」。ニヤリとした。

ライスボウルがほんとの最後になりますけど、特別な思いはありますか? 答えが分かっていて、私は質問した。「ないよ」。はい、そうおっしゃると思ってました。「やっと終わるわ。やっとホッとできるわ」と続け、またニヤリとした。

試合後、観戦に訪れた妻の美香(右)さん、三男の裕之さん(左)と(撮影・安本夏望)

 いざライスボウル 4回生、最後に監督泣かせよう

 1216日夜のジャパンエックスボウルで、13日のライスボウルの対戦相手が決まる。どちらにしろ外国人選手もいる社会人Xリーグ勢のレベルはとんでもなく高く、学生チームが勝つのは極めて難しい。だけど、関学頑張れ。とくに今シーズン苦しんできた4回生たちには、やりきってほしい。最後に鳥内監督を泣かせるぐらいに、やりきってほしい。