「バスケエリート」納見悠仁をさらに成長させた青学バスケ部主将としての1年
全日本大学バスケットボール選手権 準々決勝
12月13日@駒沢オリンピック公園総合運動場
青山学院大 71-72 白鴎大
全日本大学バスケットボール選手権、準々決勝対白鴎大。青学にとって4年ぶりの4強入りのかかったこの一戦は、序盤から納見悠仁(4年、明成)とナナーダニエル弾(4年、横須賀学院)の2人が気を吐き、試合を優位に進めた。しかし、第4Qに白鴎大がじわじわと詰め寄ると残り5分でついに逆転。72−71と1点ビハインドで残り4.9秒。青学は最後のオフェンスに全てを託したが、赤穂雷太(3年、市立船橋)のシュートはリングに嫌われ、またも青学はベスト4の壁に阻まれた。納見はチームトップの26得点、目の上からの出血や、足をつるアクシデントがありながらも、青学の主将として矜持(きょうじ)を見せた。
「バスケエリート」の知られざる苦悩
学生バスケをフォローしている人なら、納見悠仁の名前は誰もが知っているだろう。明成高時代にはウィンターカップ3連覇を達成し、鳴り物入りで青学に入学。1年次の新人戦でいきなり優勝し、新人王も獲得した。しかし、そんな納見にも知られざる苦悩があった。
4年生になるまでの納見は、実力も経験もあり、チームの主力選手だった。しかし、「自分が何をしたいのかとか、どうすればいいのかというのが迷走していた時間もあった」と振り返る。どこか余裕がなく、本来の実力を考えるとなにか物足りなさがあったそうだ。その証拠に、スタメンや勝負がかかる場面で司令塔としてコートに立ったのは、決まって前主将の石井悠太(2019年卒、豊浦)だった。
そんな納見も4年生になり主将に就任。「チームを背中で引っ張る」と意気込んだ春に転機が訪れた。関東大学選手権、青学は準々決勝で対戦が予想されていた筑波大へのリベンジに燃えていた。昨年度、16点差を覆され敗れた因縁の相手だ。
ふたを開けてみると、ベスト8決めで日体大に敗れベスト16止まり。その時の納見はチームを引っ張ろうとするあまり、気合いが空回りしているように見えた。
例年よりも早く過ぎ去った春から、秋のリーグ戦に向けチームは徹底的にコミュニケーションを重ねた。
廣瀬昌也ヘッドコーチは納見の様子を「相当フラストレーションもあったんじゃないかな」と振り返る。高いバスケットIQを持つからこそ周囲とのギャップにも苦しみ、セルフィッシュな部分を名指しに近い形で指摘されたこともあったという。
悩みの先に、見えた成長
そんな悩み抜いた先に迎えた秋。関東大学リーグ戦の初戦、大東大戦でコートに立つ納見にもう迷いはなかった。得意とする3ポイントシュートはさえ、味方を生かすプレーも目立ち、21得点2アシストをマーク。最終的に優勝した相手に初黒星を付けた。苦しい時間には声を出し、積極的にコミュニケーションを取る。「4年目になって余裕が出てきた」と語る納見の姿は春とは明らかに違った。
この試合を皮切りに、納見は主将としてチームを引っ張った。周りを生かしつつ何度もクラッチタイムに勝負を決めるシュートを決めるなど、チームを勝利に導いた。インタビューでは度々「チーム全体で」という言葉を強調し、練習では同じガードの永野聖汰(2年、福大大濠)や川村亮汰(1年、明成)に積極的に声を掛けるなど、春の「背中で引っ張る」と意気込んでいた姿とはまた違った主将らしさが際立った。
特にハイライトとして印象に残ったのは、東海大から6年ぶりに勝利をあげた一戦だ。この試合も納見は27得点3アシストと大爆発。第4Qでは3ポイントシュートを立て続けに沈め、激闘にけりをつけた。「チームの頑張りがあったからこそ、いいシュートに持っていけた」と、自らのプレースタイルを貫きつつ、周りを生かし、司令塔としてチームを勝利に導いた納見のプレーは自信に満ちあふれていた。
青学は納見とナナー、同じ横須賀学院中出身のビッグ2を擁し、5年ぶりにリーグ戦準優勝を果たした。2人はそれぞれ、敢闘賞と優秀選手賞を受賞。表彰式では「この半年ですごく成長できた」と、その表情は晴れやかだった。
インカレこそ不完全燃焼に終わったが、この1年間で納見は殻を破り、大きな成長を果たした。Bリーグ・島根スサノオマジックとの特別指定選手契約を結んだことも発表された納見。青学の主将として、悩み、苦しみ、それを乗り越えていった経験を糧に、さらに羽ばたく次の舞台はもうすぐそこに広がっている。