大学アメフト

特集:第73回ライスボウル

関学出身の富士通WR松井理己から後輩へ「同じ気持ちで来たら、勝たれへんよ」

ライスボウル進出を決めた試合後、笑顔で語った松井(すべて撮影・北川直樹)

アメフト日本選手権・第73回ライスボウル

1月3日@東京ドーム
関西学院大(学生)vs 富士通(社会人Xリーグ)

新年13日のライスボウルで2019-20年シーズンの日本一が決まる。関西学院大ファイターズが2シーズン連続で富士通フロンティアーズに挑戦する。4連覇のかかる富士通は、昨シーズンは逆の立場でライスボウルに出た男がいる。85番のWR松井理己(りき)だ。

社会人1年目、Xリーグ王者を決める試合で三つのキャッチ

 関学が甲子園ボウルに勝ってライスボウル出場を決めた翌1216日、社会人Xリーグ王者を決めるジャパンエックスボウルがあった。富士通が28-26でパナソニックに競り勝ち、4シーズン連続の社会人王者となった。その試合直後、松井に話を聞いた。 

この日は3回のキャッチで30yd。学生時代と違ってインサイドのレシーバーで起用されることも多くなったが、スピードとキレのある走りで相手のマークをかわし、パスを受けていた。自分のことよりまず、後輩のことについて口を開いた。 

接戦となったジャパンエックスボウルに勝った喜びをかみしめる

「阿部が甲子園ボウルのMVPをとったのを知って、嫉妬しました。寮の部屋のテレビがBSは映らなくて、ずっとツイッターの速報をチェックしてたんです。そしたら阿部、阿部、阿部って。普通、あんなにパス飛んできませんよね」。それを私に同意を求められても困るのだが、確かにそう思ってしまうほど甲子園ボウルの前半はWR阿部拓朗(4年、池田)にパスが集中したので、「まあ、そうやね」と答えておいた。阿部は結局、10回のキャッチで135ydを稼ぎ、二つのタッチダウン(TD)。「ライスボウルでは阿部より活躍します!」。松井はまるで大人げなく、真顔でそう言った。 

外国人選手が入るようになってから社会人と学生の力の差が出始め、過去10シーズンのライスボウルはすべて社会人の勝ち。松井は言う。「後輩たちは正直、キツいと思ってるかもしれない。でもこの1年やってきたことを信じて、いい試合ができたらと思います」 

鳥内監督の予想外の高評価に悩まされた

彼は市立西宮高(兵庫)でアメフトを始め、関学に進んだ、長身WRとして期待され、鳥内秀晃監督(61)は松井が1回生の秋のシーズン開幕を前に言った。「アイツは関学史上ナンバーワンのWRになれる可能性ありますわ」。松井にとってこの評価は「重荷でしかなかった」という。「先輩のレシーバーもいっぱいいるのに、僕が何で試合に出るのか分からなかった。悩んで、一時は味覚障害も出たりしました。でも、あの言葉のおかげで1回生の最後のころは、いままでで一番練習しました」 

2回生から勝負どころのキャッチが目立つようになった。しかし日大と対戦した3回生の甲子園ボウルで、試合開始早々に大けがを負った。エースWRを欠いたチームは日大に負けた。松井が戦列に復帰できたのは、4回生の秋のリーグ戦後半からだった。でも、思うように体が動かない。ライスボウルでは最後に自分に飛んできたTDパスが捕れず、東京ドームで泣いて、ファイターズでの4年間が終わった。 

そして富士通でのフットボール人生が始まった。この9カ月あまりで痛感したことがある。社会人だって本気だ、という事実だ。「練習の回数が学生より少ない分、1回の練習にかける気持ちが違う。シーズンが深まってきたら、ハドルで泣きながら話をする人もいる。僕が関学時代に思ってた何倍も、このチームの人たちはフットボールにしっかり向き合ってます。僕の関学時代の気持ちのまま後輩たちがライスボウルに来るとしたら、勝てないと思います」 

学生時代とは違い、富士通ではインサイドレシーバーに入ることも多い

いまも思い出す個人面談

松井はいまでも、関学時代の鳥内監督との個人面談を思い出すことがあるという。「監督に『お前から聞きたいことあるか?』って言われて何も言わないのはありえないんです。それで必死で考えて自分なりの質問をしたら、『そんなん知らんわ』って返されて……。ええー、って」 

4回生のときの西日本代表決定戦の試合前のシーンも忘れられない。松井たちは、鳥内監督と一緒に前泊して、その宿泊先からバスに乗り、試合会場へ着いた。バスから降りて4回生たちの前に立った鳥内監督が、泣いていた。泣きながら「この試合の責任は俺が背負ったるから」と言ったそうだ。松井が約1年前の振り返りながら、言う。「4回生になって毎日苦しんで大事な試合を迎えたとき、監督にこう言ってもらえるのが、どれだけありがたいか。今日は絶対やったろうと思いました。監督の言葉で、僕らのプレーが変わるんです」 

社会人のアメフトにかける思いに驚いた

その恩師のラストゲームに、敵として参加する。「幸せなことだと思います。監督に成長した姿を見せたいです」と松井。鳥内監督の最も嫌いな赤いユニフォームに身を包み、後輩たちの前にでっかい壁として立ちはだかってみせる。