陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

東洋大・相澤晃が2区で史上初の1時間5分台 東国大・伊藤達彦と競り合って大記録

中継所まで全力で「1秒を削り出す」走りをした相澤(すべて撮影・藤井みさ)

驚くべき記録が誕生した。1月2日の第96回箱根駅伝往路の2区(23.1km)で、東洋大の相沢晃(4年、学法石川)が1時間5分57秒の区間新記録を樹立した。2009年に山梨学院大のメクボ・モグスが樹立した1時間6分4秒を7秒更新し、史上初めて1時間5分台に突入した。

15km近く併走し、前を追った

東洋大の1区は昨年まで2年連続区間賞の西山和弥(3年、東農大二)。今年は苦しい走りになって14位。相澤はトップと2分2秒差で襷(たすき)を受けた。相澤は3km付近で13位に、4.2km付近で12位に上がると、5km過ぎで東京国際大の伊藤達彦(4年、浜松商)に追いつく。ここから大エースの二人は20km付近まで。順位を7位と8位にまで上げた。

襷リレーのあと、思わず座り込む

相澤はラストで一気にギアを上げ、伊藤を置き去りにした。顔をゆがませながら坂を上り、残り1kmで運営管理者の酒井俊幸監督から「5分台が出るぞ!」と声をかけられると、さらに力を振った。走り終わったあとは、相澤には珍しく地面にへたり込んだ。

一緒に走れたからこそ、この記録が出た

レース後、相澤は伊藤と20kmまで走れたのがこの結果につながったと言った。「追いついたときに(後ろに)つかれるかと思ったんですが、横に並んでくれて『一緒に追いかける』という気持ちなんだなと思いました。15kmから20kmで伊藤君から『前に出よう』という気持ちが伝わってきましたが、20kmから仕掛けられました。いいレースができたんじゃないかなと思います」

いったん15km付近で相澤は伊藤を離しかけたが、伊藤が離れなかった。「また来るか、と思いました。伊藤君の魂のこもった走りをすごく感じました。自分も一瞬でも負けると思ってしまったら勝てないと思って、『絶対負けない』という気持ちで走りました」

伊藤(左)と走ったことがこの記録を生んだ

ともに走った伊藤は、相澤とのレースを「楽しかった」と振り返った。「テレビに映ってないときも10回ぐらい駆け引きがあって、相澤君が横目でちらちら見て、何回も仕掛けてきて。自分も何回も仕掛けたんですけど、そういうレースだったんで楽しかったなと思います」。仕掛け合いはキツかったが、それがあったからこそタイムが出たと伊藤も口にした。

学生ナンバーワンになりたいと言っていた伊藤だが、最後に相澤が出たタイミングでは、ついていけなかった。「そこが自分の課題だと思ってます。今後はマラソンにも挑戦したいと思ってるので、終盤の粘りを身につけていければいいかなと思います」

「1秒を削り出す」を体現する東洋スピリット

とくに最後の3.1kmは「誰にも負けない」という気持ちで走ったという相澤。それは「1秒を削り出す」という、相澤の中に刻まれた東洋大スピリッツの体現でもある。しかし最初の5kmを14分11秒、その後もハイペースで押していったため、15km付近からすでに足が棒になりそう、と思うぐらいだった。「ハム(ストリングス)、とくに右足がキツくて。最後までもってよかったです」。ラスト1kmは、いままでで一番キツかったという相澤。その状態で最後まで力を出し切ったことが大記録を生み出した。

キャプテンになって、改めて多くの人に支えられているとわかった、と口にする

12月13日の箱根駅伝壮行会・事前取材のときには「2区を走るのであれば、日本人最高タイムを出したいですし、モグスさんの記録にも迫りたい」と言っていた。目標としていたタイムは1時間6分30秒。「何分差で来ても先頭で渡すと決めていたので、それができなかったのが悔しいです。全体的にレベルが高かったと思います。でも自分の目標としていたタイムより40秒以上よかったので、役割を果たせたと思います」と口にした。

今シーズンはキャプテンとして、エースとしてチームを引っ張り続けた1年だった。いままでキャプテンを務めたことがなかったため、はじめは「どうしたらいいんだろう」と迷ったという。そんなときに支えてくれたのが同期たち。そしてほかの多くの人たちに支えられていまがあるということを、改めて感じた。「だから、走れるという気しかしなかったです」。3度目の箱根駅伝だったが、「4年間で一番緊張しました。朝起きたとき、手が震えてたりとか……。それでも走れました」。たびたび口にする「強い気持ち」を持ち続けて、ここまでたどりついた。

3月の東京マラソン出場の可能性も

今後はまず、トラックでのスピードを磨き、東京の次、2024年のパリオリンピックのマラソン日本代表を目指す。箱根駅伝は「いまとなっては通過点」と表現した。「これをステップにしてマラソンで活躍していきたいです」。箱根の経験はマラソンに生きますか? 「キツくなってからが勝負というところは同じだと思うので、今回そこを頑張れて、いい経験になったかなと思います」。コンディションが整えば、3月の東京マラソンを走るつもりだ。

箱根から世界へ。その言葉を体現するランナーになるのは間違いない

伊藤は言った。「相澤君と一緒に陸上界を引っ張っていけるようなランナーになりたい」。学生最強の相澤に食らいついた。彼もまた1時間6分18秒で、前回大会で塩尻和也(順天堂大~富士通)が樹立した1時間6分45秒の2区の日本人最高記録を上回った。「自分こそナンバーワン」と信じる二人の戦いは、これからも続いていく。