陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

東海大・館澤亨次 「黄金世代」の主将、覚悟の走りで驚異的な6区区間新

走り終わり、思わず倒れ込む館澤(すべて撮影・佐伯航平)

第96回箱根駅伝 

1月2~3日@大手町~箱根の10区間217.1km
2位 東海大 10時間48分25秒(新記録)
6区区間1位 館澤亨次(東海大4年) 57分17秒(区間新記録)

昨年けがで苦しんだ東海大の館澤亨次(4年、埼玉栄)が、箱根ラストランで主将の意地を見せた。山下りの6区に当日変更で起用されると、57分17秒のタイムで区間新を達成。昨年青山学院大の小野田勇次(現・トヨタ紡織)が作った記録を40秒も上回る力走だった。

初の6区もしっかりとレースプランを描く

「黄金世代」を代表する存在だった館澤は1年時より、5区、8区、4区と3度箱根を経験している。昨年は区間2位の好走で初優勝に貢献した。ただ6区は初めて。昨年12月の合同取材では「どこの区間を任されようと結果を出すだけ」と言っていたが、6区は特殊区間。スタート後、約4kmは上りが続くが、そこから箱根湯本駅までの約13kmは一気に駆け下りていく。スピードが出る分、平地以上に負荷がかかるといわれる。

館澤は昨年8月はじめにけがが判明した後、11月10日の世田谷ハーフまで長く実戦から遠ざかっていた経緯がある。それだけに、果たして……という向きもあった。だが百戦錬磨の主将はしっかりとレースプランを描いていた。

「どこの区間を任されようと結果を出すだけ」。主将として有言実行した

「下りはあまり得意ではないので、そこでは抑えて走り、前半の上りと、後半のフラットのところで勝負するつもりでした」

精神的なアドバンテージもあった。6区とは反対になるが、1年時には5区を走っている。コースの特徴や風景は脳裏に刻まれていた。

足が壊れてもいいと思って走った

復路の号砲が鳴ってから3分22秒後。小田原中継所に向けて4番目に駆け出した館澤は、前半の上りから快調に飛ばした。もともと上りは得意とするところだ。走り始めてまだ500mに達していない地点で、3位の東京国際大・大上颯麻(1年、豊川)を追い抜く。すると下りでも故障明けを感じさせない走りを見せた。しかし実情は違った。館澤は大会後の取材でこう明かした。「正直言うと、走れる状態ではありましたが、完治はしてません。故障個所(ハムストリングス)にもまだ痛みはある」と。

足が壊れてもいい。すべてを出し切った

それでも主将としての、「黄金世代」の支柱としての走りをしたかった。館澤には長期離脱で主将らしいことができず、チームに迷惑をかけた強い自責の念があった。

「足が壊れてもいい。そのくらいの気持ちで走りました」

3年連続で6区を走り、今回は館澤に次ぐタイムで走った東洋大・今西駿介(4年、小林)は意識していたものの、初の箱根区間賞、そして区間新は狙っていたわけでない。主将としての意地が最高の結果を引き出した。館澤は前を行く青山学院大との差を1分1秒縮め、逆転優勝を狙うチームに大きな勇気を与えた。

切磋琢磨してきた同級生たちに感謝

主将の魂がこもった走りがのろしとなり、東海大は復路優勝を果たした。一方で総合2位で終わり、目指してきた連覇は逃した。館澤は「うちは誰もミスをしていない。それだけ青山学院大さんがすごかったということでしょう」とライバルを称える。

もちろん悔しさはある。それは勝てる可能性がありながら、勝ち切れなかった悔しさだという。駅伝で勝ち切るためには何が必要か? 後を託す後輩たちにはそれと向き合ってほしいと思っている。館澤が期待を寄せるのは3年生だ。「塩澤稀夕(きせき、伊賀白鳳)、西田壮志(たけし、九州学院)、名取燎太(佐久長聖)の3人もいるし、実力的には自分たちの代より上」と口にする。3年生は主将の走りから次につながる何かを感じ取ったに違いない。

穏やかな表情でインタビューに答える館澤。彼の最後の駅伝が終わった

「黄金世代」が走る最後の舞台が幕を閉じた。学生ラストイヤーで目標に掲げていた「駅伝三冠」も箱根連覇もならなかったが、館澤は同期に感謝している。「すごい同級生たちと切磋琢磨できたから、ここまで来れた」。今春入社予定の横浜DeNAランニングクラブは駅伝から撤退しており、館澤は1500mに専念する。記録にも記憶にも残る“駅伝ラストラン”を手土産に、今度は世界に挑む。