東洋大・今西駿介 最後の箱根で「人間じゃねー」超えも「小野田さんのほうが強い」
第96回箱根駅伝
1月2、3日@大手町~箱根の10区間217.1km
10位 東洋大 10時間59分11秒
6区 2位 今西駿介(東洋大4年) 57分34秒(区間新)
「4年間、いろいろなことがあったけど、特に下級生のときはいろいろうまくいかないことが多くて、それで掴んだ箱根、最後3km、4年生としての役目もあるし完全燃焼していこう」
運営管理車からの酒井俊幸監督の声かけに、今西駿介(4年、小林)は腕を上げて応えた。「最後、出し切ろうと思って」。6区(20.8km)残り3km。下りの傾斜が平地となり、スピードが落ちたと錯覚してしまう場所だが、今西はさらにスピードを上げて小田原中継所まで懸命に駆け抜けた。57分34秒、区間新記録。前回の自らの記録(58分12秒)、そして小野田勇次(青山学院大~トヨタ紡織)の持つ区間記録、57分57秒も上回った。
小野田に負けて名言「人間じゃねー」で一躍有名に
前々回から今回まで、今西は3回連続で6区を担当した。前々回、2位の青山学院大に36秒のリードをもってスタートしたが、後ろから小野田に猛追を受け逆転され、52秒の差をつけられた。中継所に倒れ込んだ時に小野田の走りに対して発した「人間じゃねー、あれ」がテレビ中継に流れ、今西を一躍有名にした。
前回は青学との差は5分30秒あったため、小野田との直接対決はなかった。今西は自らの記録を1分以上縮める好走だったが、小野田が初の57分台の区間新記録でさらに上回ってきた。「俺もういいよ6区」と発した言葉もまたテレビに流れ、ファンの間では「今西は今度は何を言うのか」と注目される存在になった。
4年生の今年は副将として、主将の相澤晃(4年、学法石川)を支えた。天然なのかわざとなのか、珍発言も多くチームのムードメーカー的存在にもなった。昨年12月の壮行会の際に、また6区を走るとしたら目標タイムは? と問われると「58分30……」と答えてすかさず酒井監督から「なんで(前回より)下がってんの(笑)」とツッコミを受けた。
「人間になりたい」とも言っていましたね? との質問には「自分の横にいる相澤が『人間じゃない人間』なので、他の選手は人間として気楽に走りたいと思ってます」とここでも迷発言。そしてこう続けた。「小野田さんは人間じゃなかったので恐怖とかあったんですけど、今年は落ち着いて走れるかなと思ってます」。酒井監督も「あんまりプレッシャーをかけると固くなって自滅してしまうので」と言いつつも「『下りの神』になってほしいですね」と期待を寄せた。
追う心理で快走、でも「小野田さんには勝てない」
迎えた1月3日、過去2回はトップでのスタートだったが、今回は首位の青学とは7分59秒差の11位でスタートした。「(過去2回は)自分でラップを刻むという感じだったけど、今年はラップというより『前を追う』。それが心理的に(いい結果に)結びついたと思います。追うほうがタイプ的に合ってます」と振り返る。
入りの5kmは15分台で入った。酒井監督は「最初から気持ちの入った走りだった」と評価する。前を行く拓殖大をすぐに捉えると、27秒差あった早稲田大にも追いつく。「予想以上に追いついていったので、あれ? 自分速いのかな、って思いました。でもきつくなくて、もう行っちゃおうと思って。上りもそんなに上げてるつもりはなかったけど、どんどん追いついていって、追う心理ってすごいなと思いました」。
結果的にそのさらに前の創価大、帝京大も捉え、7位に浮上。東海大の館澤亨次(4年、埼玉栄)に区間賞は譲ったが、区間新記録、区間2位で小田原中継所での襷リレーを終えた。酒井監督は「57分30秒台、よくやったと思いますよ。自分で自分になんて言うんですかね」と笑顔で今西をたたえた。
57分34秒は小野田の記録を23秒上回る。しかし今西はタイムは流れで出た、小野田を超えたとは思っていない、という。「小野田さんが今日走ってたらもっと速かったと思います。一緒に走ったのを経験してきて、あの人のすごさを一番知ってるので、勝てないなと思います」。今西にとって、小野田はあこがれの存在であり続ける。
すべてが足りなかった今年、後輩たちに希望を託して
今西の快走そして相澤、宮下隼人(2年、富士河口湖)の区間新があったが、結果的に東洋大は11年連続だった3位以内が途切れ、総合10位で終えた。チームとしてこの箱根駅伝はどうでしたか、と聞かれると「やっぱりもう、どん底見ちゃったんで。東洋としては2位も10位も一緒だと思うんですけど、今回3年生以下に個人としても悔しい結果が多いと思うんで、ここで変わるチャンス、きっかけを作ってくれれば来年は勝つチャンスがあるのかなと思います」
あえて聞いた。このチームに足りなかったものは何だと思いますか? 今西は少し悩んで言葉に詰まってから「すべて……」と答えた。「結果がすべてなんで。負ければ……。全日本が終わって、変わらないといけないって4年生で話し合って、変わってきたつもりだったんですけど、結果として出なかったので。それが間違ってたのかな。だめだったのかなと思います」
最後は4年生として、反省点と課題を語った今西。その思いは3年生以下、これからチームを担う選手たちに引き継がれていく。数々のファンの記憶に残る選手となった、今西の箱根駅伝が幕を閉じた。