4年生たちの思いが詰まった最高のギフト 関大主将・小松原柚貴が作ったONE TEAM
始まりは、涙だった。関西大学リーグA-Bリーグ入れ替え戦直前、目を潤ませながら入場してくる関西大学の選手たち。涙の裏には、試合前のロッカールームでの出来事があった。それは、ユニフォームに袖を通すことのできなかった4年生たちからの、熱い思いが託された言葉だった。「入れ替え戦には全員の思いを背負って戦った。アップ前から泣いてしまったし、それくらい思いが強かったんだなって」。Bリーグのほとんどの試合で3桁得点を叩き出すなど、チームのスローガンでもあった「IMPACT」を与え続けた関西大ラグビー部を牽引(けんいん)してきたSO小松原柚貴主将(4年、東海大付第五高)は振り返る。これは、涙から始まった男の物語。
スタンドで誓った1年前の決意
スタンドからピッチへ一縷(いちる)の望みを託した1年前の冬。あと2点が及ばなかった。Bリーグ降格が決まった瞬間、けがで欠場していた小松原はスタンドで悔し涙を流した。「Aリーグに絶対昇格して、次の代につなげようとその瞬間から思った」。ここから、チーム小松原の怒涛(どとう)の1年が始まることとなる。
キャプテン就任時には、度重なるけがに苦しめられ、チームを離脱することが多かった小松原。「このチームをちゃんと引っ張っていけるのか、Aリーグに上げられるのかって悩んだりする時期があった」。チームの士気は十分ではあったが、チームを引っ張っていけるのか自身に不安を感じていた。
菅平で迎えた夏合宿。過酷な練習に取り組みながら、チームを引っ張っていくというハードスケジュールの中、小松原はプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。言葉で自分の思いを伝えるのが苦手な小松原は、「僕はしゃべるのがうまくないから、言葉でうまくまとめて伝えられてなかった」。そんな主将を救ったのは、チームメートだった。「チームのみんなには助けてもらってばかりだった。本当にみんなには感謝しかない」と、仲間への思いを口にする。
みんなで作り上げたONE TEAM
特に高校時代からの7年間、ずっと支えあってきた副将・No.8上村彰太(4年、東海大付第五高)の存在は大きかった。高校時代には、上村が主将、小松原が副将を務め、二人三脚でここまで歩んできた。夏合宿のときにも、「彰太(=上村)は、言葉で伝えるのがうまいから、そういうところはほとんど助けてもらった」。小松原がけがで入院中、上村は毎日のように病室に訪れ、他愛(たわい)のない話を交わした。そうしたことが励みになり、小松原の不安は掻き消されていた。「副キャプテンの重みっていうのかな。そういうものを感じた。ほんとに大きくてありがたい存在」と、上村と積み上げてきた2人の絆がそこにはあった。
次世代へ“Aリーグ昇格”という最高のギフトを手渡した4年生。小松原は、「もちろん関西制覇、そして選手権出場」と後輩へ懸ける期待は大きい。「思うようにいかないときは頼ること。そして、自分の思いを伝えられる環境を作っていくことが大切。僕たちはみんなでそんなONE TEAMを作っていけたから」。新チームにこうエールを贈り、選手生活に幕を閉じた。