硬式野球部を支える「影の立命戦士」、2人の学生コーチの思い
特集「うちの大学、ここに注目 2020」。今シーズン注目のチームや選手を、選手たちをいちばん近くで見ている大学スポーツ新聞のみなさんに書いてもらいました。立命スポーツ編集局からは、硬式野球部を陰で支える2人の立命戦士についてです。
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立命館大学には約60の部活があり、関西はもちろん全国や世界でも優秀な成績を収めているスポーツ強豪校だ。さまざまな場所で活躍する「立命戦士」は人々を勇気づけてくれる。そして私達立命スポーツ編集部もその姿に勇気づけられ、選手のみなさんからあふれんばかりのパワーをもらってここまでやってきた。その中でも大学スポーツならではの視点から紹介したいのは、硬式野球を支える学生コーチの2人だ。
学生コーチとして臨むラストイヤーで悲願の日本一を
学生コーチは、大学野球ならではの役職といえる。選手の練習メニューを一から考え、練習を進めていくのが主な仕事だ。渡邉理玖(4年、東大津)と山中大輝(4年、明豊)の2人は選手から転向し、学生コーチとして日々競技に取り組んでいるが、ここに至るまでの道のりは大きく違っている。
渡邉は県立東大津高校出身で一般入試での入学。最初の1年は、バッティングピッチャーや球拾いなど雑用ばかりの日々だった。しかし、コツコツと努力を積み重ねて自分で設定した目標を着実にクリアしていった。
彼の頑張りが認められ、3回生の春リーグでは初のベンチメンバー入り。勢いは止まらず、自慢の俊足と堅実な守備、バッティングでも調子のよさを発揮し1番センターの座を勝ち取った。リーグ優勝にも大きく貢献し、全日本大学野球選手権大会のスタメンとしても出場するなど、この3年間ですさまじい成長ぶりを見せた。
渡邉とは対照的に、山中は大分の名門・明豊高校出身。甲子園にも出場しスポーツ推薦で入学した。しかし、大学1、2回生では試合のメンバーに入れず、推薦の選手から遅れをとっていた。
モチベーションが上がらず、野球に向き合わないこともあったという。山中は「1、2回生のときにもうちょっとちゃんとやっておけばよかったと、今この立場になって思う」と振り返った。それでも、2回時の夏の東海遠征では必死のアピールが成功し、秋リーグで初のメンバー入り。ベンチに入って試合に出ることで野球の楽しさ、面白さを再認識。一生懸命がむしゃらに取り組んできたことが形となり、3回生は春秋通じてベンチから外れることは一度もなかった。代打での出場機会が多かったが、スタメンとして起用されることもあり復活を遂げた。
新シーズン始動のタイミングで覚悟を決めて
例年学生コーチは、早い段階で決められるが、この学年は3年のシーズン終了まで不在の状況だった。シーズンが終了し、新チーム始動直後に「この代から2人学生コーチを出す」と決定事項の連絡が入る。
最初に呼び出されたのは、山中だった。監督から「日本一を目指すためにも学生コーチとしてチームを引っ張っていってほしい」とお願いを受ける。しかし、社会人野球を考えていた山中は一度この話を断った。
監督との話し合いで、「どうしてもお前の力が必要や」と熱い思いを受ける。それと同時に、高校時代の一つ上の主将の「自己犠牲を大切にしろ」という言葉が浮かんだ。山中は、「今の状況はこのことなんかなと思った、自分がチームのために何か協力できれば」と学生コーチ就任を決意。チームのために何とかしよう、学生時代で味わったことのない日本一を学生生活最後の年で経験したいという思いがぐっと膨らんだ。
新チーム最初の大会となる奈良県知事杯優勝のあと、監督から渡邉に声がかかった。渡邉は、「『やっぱりそうか』という感じだった。新チーム始動時から覚悟を持って練習していたので不満はなく納得できた」という。また、渡邉は「実績もない僕がこの野球部にいることが奇跡だと思っている。強豪校出身の選手たちの中で練習できると思ってなかった。監督さんが学生コーチとして期待してくれるならそういった道もありかなと思った」と感謝をかみしめ学生コーチを引き受けた。こうして、彼らは新しい道を歩み始めることとなった。
選手時代とは違った感情
学生コーチの立場になり、2人は選手時代とは違った感情を抱くようになった。やはり、練習でやってきたことが試合に直結する。試合で勝ったときはこの上ない喜びを感じ、負けたときは選手時代よりも大きな責任を感じるという。
チームの勝利のために本当にこれでいいのか、もっと違うことをしなければいけないのではないかと悩むことも多い。しかしこれまで試合で活躍してきた2人はチームメイトの信頼も厚い。選手のみんなは2人の考えに賛同してくれる。彼らは周囲とのコミュニケーションを大切にし、選手が試合で最高のパフォーマンスを発揮できるように日々の練習で全力を尽くすのみだ。
また、学生コーチはチームを客観的に見ることができるので、選手時代には気づけなかった発見がある。2人は今も野球を日々勉強中で野球の奥深さを痛感している。
リーグ戦まであと1カ月を切った。2人の日本一への思いは人一倍強いものがある。渡邉は、「日本一を目標にずっとやってきたし、取りたいからこそ選手を諦めて学生コーチにもなったのでそこに関しては譲れない。リーグ戦に入るまでのこれからの時期が大変なので、時間をかけて指導陣とも相談しながらリーグ戦初戦から流れに乗れるようにしていきたい。また、メンタル面でもサポートしていきたい」と胸の内を語った。
山中は、「今後野球をすることがないかもしれないので、まずはリーグ戦で勝ってその上で日本一を取りたい。今年のスローガンである『全心全霊』のようにチームにとってプラスになることは何でもしていきたい。責任ある行動と言動を持って取り組んでいきたい」と意気込んだ。
去年は春リーグでは優勝を果たしたものの、全日本選手権では一回戦敗退。秋リーグでは3位と思うような成績を残すことはできなかった。今年は、「躍進~全心全霊~」をスローガンに掲げてみんなが日本一という目標に向かって突き進む。試合での活躍が期待される選手にはもちろん注目してほしいが、その活躍を陰で支えている学生コーチやマネージャーにも今年は注目してほしい。一つひとつの勝利の星をチーム全員でつかみにいく。