大学で鍛えられた新人は、Jリーグで旋風起こせるか 大きな期待の背景は
中断、延期していた2020年のサッカーJリーグで、大学サッカー部で4年を過ごした新人たちがちょっとしたブームを起こすかもしれない。2月のJ1開幕戦で、4人が先発フル出場でプロの一歩を踏み出し、途中出場も3人いた。なぜ、「大卒新人」は歓迎されるのか。日本のサッカー事情も透けてみえる。
鳥栖の森下龍矢ら2月のJ1開幕戦には7人が登場
明治大からサガン鳥栖に入団したDF森下龍矢は、川崎フロンターレとの開幕戦で、激しく、献身的なプレーを存分に発揮した。「1年目だとか関係なく、チームの戦力になる」との決意通り、劣勢での引き分けに貢献した。同じ明大から横浜FCに加わったMF瀬古樹は、ヴィッセル神戸戦に先発でリーグ初出場、初得点を決める最高のデビューを飾った。昨季の全日本大学選手権で10年ぶり3度目の優勝を飾った明大は、総理大臣杯、関東大学リーグと合わせ史上初の3冠を達成。2人のほかFC東京で清水エスパルスに快勝した開幕戦に先発フル出場したDF中村帆高や、開幕戦はけがで出場できなかったが同じFC東京で存在感を放つMF安部柊斗ら主力の多くがプロ内定選手でタレント軍団と呼ばれた。
川崎の旗手怜央や三笘薫も注目
鳥栖との開幕戦で途中出場した川崎のFW旗手(はたて)怜央は、順天堂大から加入し東京オリンピックの日本代表候補にも挙がる。同じく川崎で途中出場の三笘薫は筑波大から入ったMF。J1に復帰した横浜FCのMF松尾佑介は仙台大学から正式に加わり、引き分けた神戸戦に先発フル出場した。FC東京の紺野和也も開幕戦にFWで途中出場。紺野は法政大3年の2018年度、全日本大学選手権でチームを42年ぶりの優勝へ導いている。
7人ものJ1開幕戦デビューは異例の多さ。過去3季は、開幕戦でピッチに立った大卒新人は2→3→2人。今季は、6人が開幕デビューした2014年以来の「大卒当たり年」かもしれない。
新人の当たり年になるか
大卒新人にとって、かつては早期にJ1デビューする壁は高かった。まずはJ2以下のカテゴリーで「修業」。彼らにとっては出場機会がもらえ、資金力の劣るクラブほど、年俸が安く、若く、土台もしっかりした大卒は戦力として魅力的、との双方のニーズが合致。その傾向は今も変わらないが、あるJ2クラブのスカウトは「ここ数年、J1の上位クラブも大卒の獲得に積極的になった。我々は、より『隠れた原石』を探す必要が出てきた」と明かす。
Jリーグの新人研修対象者(在学中のプロ契約者なども含む)をみると、J1~3の大学出身者は今季、116人と00年以降で初の3桁になった。そのうち24人がJ1へ進み、これも14年以来の20人超えだ。
背景には若手の海外進出
その背景の一つは、力ある若手の海外進出にある。欧州では20歳前後のスター発掘に余念がなく、J1クラブにとって、海外に送り出す選手が若いほど入る移籍金は多くなる。東京オリンピック世代の日本代表候補では、安部裕葵(ひろき、鹿島アントラーズ→バルセロナ)が20歳、中山雄太(柏レイソル→ズウォレ)は21歳、三好康児(川崎→アントワープ)が22歳で、海を渡った。
一方で、20代前半の選手層が薄くなる。その穴を埋めることを期待されるのが、大卒新人だ。
スプリント力や持久力磨かれた大学生に期待
サッカーの質そのものの変化を挙げる声もある。福岡大の乾真寛監督は「現代サッカーは攻守の切り替えが早く、スプリント力、持久力といった要素が重視される。となれば、ベテランよりも動ける若手」。この傾向は今後も続き、大卒新人のチャンスは広がっていくとみる。
永井謙佑や仲川輝人に続けるか
もちろん、選手のレベル自体も上がっている。近年のJ1をみても、2009年、福岡大の総理大臣杯初優勝に貢献した日本代表FW永井謙佑(FC東京)や、専修大で関東大学リーグ得点王になり、昨季MVPのFW仲川輝人(横浜F・マリノス)ら、大卒選手の活躍も目立つ。彼らに続く選手が、再開後のリーグ戦でも出て来るか。