大学野球

「望むのは心・技・体に伸びしろを感じる選手」國學院大野球部鳥山監督が語る選手発掘

昨年のリーグ戦で、ベンチに戻る選手を迎える鳥山監督(撮影・佐伯航平)

大学スポーツでは毎年選手が入れ替わる。強く魅力的なチームを作るには新戦力の獲得が必要だ。大学への選手勧誘はどのように行っているのだろうか。東都一部リーグに所属する國學院大野球部の鳥山泰孝監督に、スカウティングに対する考え方や、コロナ禍による影響など、話をうかがった。

コロナの影響で機会が失われた無名選手の発掘

「いい選手を見つけた時は良縁に恵まれたと思いますし、『この選手と4年間一緒にやりたい』とワクワクした気持ちになります」

鳥山監督は選手発掘の醍醐味をこう語る。國學院大で主将としてプレーした鳥山監督は卒業年の1998年より同大のコーチとなり、2007年4月から務めた修徳高の監督を経て、2010年8月に國學院大の監督に就任。このシーズン、甲子園通算30勝の竹田利秋前監督(現総監督)が育てた選手を引き継ぎ、創部80年で初の東都一部リーグ優勝に導いた。以後も監督として手腕を発揮し、昨秋までの10シーズンを見ても上位に複数回食い込むなど、“戦国東都”で好成績を残している。

例年、國學院大では新戦力のスカウト活動を11月にスタートする。つまりあらかじめリストアップしている選手を高校2年の秋の段階から視察するわけだ。國學院大が特別早いというわけではなく「他大学さんもだいたい同じ時期から始めるようです」。そして春先までに意中の選手に働きかけ、中にはプロや他の進路を希望する選手はいるものの、4月になる頃には6、7割ほどが決まる。

鳥山監督の選手を見極める目は確かだ。“戦国東都”にあってチームは安定した成績を残している(撮影・佐伯航平)

今年もコロナの大きな影響はなく、3月の段階で半分程度固まっていたという。ただし緊急事態宣言もあり、3月27日から5月31日まで野球部としての活動を休止していたため、それ以降に返事をもらえる選手や、感染の状況が落ち着いたら視察する選手の対応がまだできていないという。再来年以降の戦力になる2年生についても対応が遅れている。通常であれば4月からリストを作成し始めるが、それも着手に及んでいない。

また、いつもの年なら4月以降は、春の大会から活躍し始めた選手や、ひと冬越して成長した3年生の見極めをしているが、それもできなかった。鳥山監督は「前年まではノーマークだった選手を見る機会が失われたのは痛い」と言う。
実は高校3年春に発掘した、前年までは注目していなかった選手の中には何人も、國學院大で活躍した選手がいる。その代表格がヤクルトの嶋基宏である。嶋は主将だった4年春(2006)、1993年以来となる東都リーグ一部昇格の立役者になり、秋は一部でベストナインを受賞。その年のドラフトで楽天に3位指名され、プロの世界でも花開く。これまで2度ベストナインに選出された他、人間性が評価されて日本プロ野球選手会の会長という大任も担った。

鳥山監督との出会いがヤクルト・嶋の運命を変える

鳥山監督(当時はコーチ)と、嶋が出会ったのは春の東海大会だった。嶋は中京大中京高の3年生で、主将兼二塁手として直前の春のセンバツに出場していたが、この時は全くの無名。前年秋は確固たるレギュラーでもなかった。鳥山監督も嶋が目当てではなく、中京大中京高の他の選手を視察するために東海大会に足を運んでいたという。だが、あるシーンが鳥山監督の目に留まる。

「試合前、第1試合というのもあったのか、中京大中京高が球場を自由に使って練習をしていましてね。グラウンドを見回したら、右中間にいた外野手とカットプレーの練習をしている選手がいた。球場の大きさを確認するなど、考えながら準備している子がいるなと、感心しながら名前を確認したら嶋だったんです」

2002年夏、愛知大会での嶋(左)。無名だった彼を鳥山監督が見出した(撮影・朝日新聞社)

感心するとともにこうも感じた。「野球は“間”のスポーツですからね。いかに準備するか、いかに予測するかはとても大事。それは相手に立ち向かっていくことにもつながりますが、嶋には備わっていると」

國學院大に進んだ嶋は、甲子園通算30勝の竹田利秋監督(当時、現総監督)に捕手としての資質を買われ、1年時より二塁手から“司令塔”に。鳥山監督は「嶋がプロで活躍しているのも竹田監督の指導があったから」と強調するが、もし鳥山監督との邂逅(かいこう)がなければ、捕手・嶋も生まれていなかったかもしれない。

プレー以外のところに凝縮されている

一部校の二部降格が珍しくない東都リーグにおいて、國學院大は2012年秋から1度も降格することなく一部の中心勢力であり続けている。これはすなわち、スカウティングが上手く回っているということだろう。反対に言えば、コンスタントに好成績を残しているから、有望な高校生が國學院大で野球をしたいと思うのだろう。

しかしながら、スカウト活動はいつも成功するとは限らない。選手の将来を見越すのはとても難しいことである。鳥山監督はコーチ時代も選手を見定められなかったことがあったと明かすが「竹田監督は私が進言した選手は積極的に獲得してくれました」。竹田監督は自身の教えをもとに動いていた鳥山監督を信頼していたのだろう。國學院大は現在、鳥山監督と上月健太コーチの2人でスカウティングを行っている。「上月コーチの目は私の目だと思っているので、いいと言ってきた選手は必ず受け入れています」

試合以外の時間にどんな過ごし方をしているか。そこまでしっかりと知る(撮影・佐伯航平)

スカウト活動は新戦力の勧誘が大きな目標だ。チームの力になる技量を持った選手が望まれる。しかし鳥山監督はいくら技術的に優れていても、人間性に疑問符がつくような選手には声をかけないという。プレーだけではわからない内面を探るため、むしろプレー以外の部分に注目する。例えば、凡打した後にどんな態度を取るか? 捕手であればベンチのどのあたりに座っているか? ベンチ前の円陣ではいつもどこにいるか?

グラウンド以外で見せる素顔もチェックする。チームバスのどのあたりに座っているか? 試合後の後片付けや荷物運びは後輩任せにしていないか?

「細かいところではありますが、こうした姿にその選手の伸びしろが凝縮されているような気がします。1日のうち実際は、野球以外のことをしている時間のほうが長いですしね。あと、できればご両親のことも知りたいですね。どんな親御さんで、どんな教育をされたのか? このあたりが人としてのベースにもなっていると思います」

大学の文化に合っているかどうかもポイント

選手を見定める際は、國學院大学野球部の文化に合った選手かどうかもポイントになる。「選手の特徴によって合う大学は異なります。相性はあると思います。ウチの場合ですと、誠実に真摯に野球に取り組んでくれる選手、そういうタイプに来てほしいです」

また國學院大は全国各地の高校とパイプを持っているが、「つながりのある高校さんはウチに合う選手をよくわかっていますから、そういう選手を推薦してくれます」。むろん望まれて入ったとしても、全員がレギュラーになれるとは限らない。それでも4年間、自分のため、チームのためにやり通してほしいと、鳥山監督は願っている。

例年にない状況だが、真摯に選手たちと向き合っていく(撮影・佐伯航平)

選手を入れるということは、大きな責任も伴う。「その分の入学枠を使うということなので、学校に対する強い責任を感じながらスカウト活動をしています」

例年であれば、7月8月ともなると、入学予定の3年生はすでに固まっている。本来なら2年生に目を移している時期であるが、今夏は各都道府県の独自大会や、甲子園の交流試合での3年生のプレーに注目するという。コロナ禍の中、大学野球部のスカウト活動においても特別な夏になりそうだ。