筑波大柔道部・明石ひかるの挑戦 「柔道が好きだから」今できる練習をひたすらに
新型コロナウイルスの影響でさまざまなスポーツの大会が延期や中止に追い込まれている。学生柔道もその一つだ。8月12日、9月の全日本学生体重別選手権大会と10月の全日本学生体重別団体優勝大会の中止が発表された。「試合は自分の成長を確認し、同時に成長に必要な課題を発見する機会。それを失ったのはかなり痛い」筑波大柔道部の明石ひかる(3年、渋谷教育学園渋谷)はこう話す。
明石は、相手に合わせて戦い方を柔軟に変えられるのが持ち味だ。得意とする技は背負投と内股。昨年9月の全日本ジュニア体重別選手権63kg級で準優勝、今年2月のベルギー国際大会では5位を勝ち取った。
果たせなかった団体戦の雪辱
昨年10月に開催された全日本学生体重別団体優勝大会。筑波大は決勝に進むも東海大に負け準優勝に終わった。明石は当時、決勝まで進めると思っておらず、東海大と戦うには準備不足だった。そのため訪れたチャンスをものにできなかったという。
優勝を逃した悔しさをバネに、日々練習中に選手同士で「皆で優勝したいね」と声を掛け合いチームワークを高めてきた。一方、団体戦は一人ひとりの試合が勝敗に直結する。筑波大女子は「手堅く試合をする」ということを目標に、各部員が抱える課題と向き合い、練習に取り組んできた。
明石は「試合が中止になり無念さが残る。団体日本一を目指せるメンバーが揃っており、今年がチャンスだった」と悔しさをにじませる。
「個人でも優勝を目指していた」
一昨年の全日本学生体重別選手権大会57kg級では3回戦進出、昨年は63kg級で3位と明石は個人戦でも徐々に順位を上げてきた。
だが昨年は対戦相手に優位な試合運びを許した。また、トーナメント戦という試合形式から、1日に多くの選手と戦わなければならず、体力が持たなかった。
試合を通して発見したこれらの課題。臨機応変な試合運びと体力さえ克服できれば今年は優勝できるはずだと意気込んで、体幹や筋力トレーニングに力を入れ、体力が持続するよう取り組んだ。
「普通に」柔道ができることが必要だった
筑波大柔道部は新型コロナウイルスの影響を受け、4月6日から全体での活動を停止した。再び柔道ができるようになるまでの間、部員たちは自宅で各自が考えたトレーニングを行っていた。
一人でトレーニングをする中、明石が痛感したのは「柔道は練習環境が極めて重要」ということ。柔道で必要な筋肉は、直接柔道をすることでしか鍛えられないからだ。
現在は、ウイルスの感染予防を徹底しながら、大学内の道場で練習を行っている。部内からは、「試合ができなくて何のために練習しているか分からない」といった声が漏れることもあった。明石は「もちろんやりきれない思いは拭えない。でも、自分がなぜ練習をするのか問い直したとき、柔道が好きだから頑張れていることに気づいた」と話す。
差をつけるのは今
明石は10月31日、11月1日に開催予定の講道館杯を見据え、「一本を取る柔道」を目指している。実感として、対戦相手たちが年々筋力をつけているため、技が決まりにくいと感じている。現在は、威力の強い技をかけ続けるため、45秒の間をはさんだ5分の試合形式の練習を連続して行っている。
「練習では、果敢に攻めて自分から山場を作るようにしている。本番でも臆さず技をかけられるようにしたい」。成長を確認できる場が失われても、明石は現状を冷静に見つめている。「ここで頑張れるかどうかが勝負。他の人と差をつけるのは今だと捉えて柔道と向き合っている」と口にする。
講道館杯での優勝を目指し、今できる練習にひたすらに取り組むことで前を見続けている明石。再び大会の場に立つとき、彼女はどんな成長を見せてくれるのだろうか。