野球

特集:駆け抜けた4years.2021

青学野球部主将・西川藍畝 悲願の1部昇格に流した涙と、後輩に託した「日本一」の夢

2部優勝は西川(右)には通過点のはずだった

青山学院大学硬式野球部は、昨年の秋に2016年春以来の2部優勝、2014年秋以来の1部昇格を決めた。

近年の青学は2部常連校へと低迷しているチームといっても過言ではなかった。しかし、2019年に安藤寧則氏が監督に就任すると春、秋ともに2位。どちらも「あと1勝」していれば入替戦にいけた、そういった中で2020年度、西川藍畝(らんせ、4年、龍谷大平安)は主将を務めた。

スタンドで感じたもどかしさ

西川は龍谷大平安高時代3番ショートとしてセンバツベスト4に貢献してきた。堅実な守備の他、打力にも定評があった。青学入学後も2年秋、3年春とリーグ戦でセカンドのスタメンの座をつかんでいた。しかし3年秋はひじの故障からベンチを外れた。

つかんでいたセカンドのレギュラーも当時1年だった山田拓也(2年、東海大相模)の台頭もあり、徐々に遠ざかった。3年時秋のリーグ戦で、勝利すれば2部優勝が決まっていた専修大学戦もスタンドから見送った。「スタンドで何もできない自分に情けなさやもどかしさを感じた」と当時を振り返る。

悔しさを晴らすため主将に立候補

「自分が主将になって足りない部分を潰していけば、必ず2部優勝して1部昇格もできる」と確信し、3年秋のリーグ戦終了後、西川は自ら主将に立候補した。当時「1部昇格」としていた目標も「日本一」へと変えた。「やはり青学大は1部に上がって満足してはいけない。1部でも優勝して選手権大会や神宮大会で優勝しなくてはならないチーム、そのくらいでないと1部にすら上がれない」という思いで新チームをスタートさせた。

2部優勝できなかった悔しさを経験している選手が多かった。だからこそ、冬の練習も妥協しなかった。逃した「あと1勝」のためには練習では最後までやり切ることを徹底。グラウンド整備、あいさつといった日常生活も改善し、「駄目なことは駄目とお互いに言い合えるチームを作ってきた」という。

2020年春にはオープン戦でその成果も現れた。課題だった打力も向上し、社会人の強豪JFE東日本にも勝利するなどチーム状態は上がってきていた。

無念の春季リーグ中止

しかし、新型コロナウイルスの影響で東都大学野球の春季リーグは中止になった。安藤監督から知らせを聞き、西川は涙を流した。西川たち4年生にとって春季リーグの中止は、秋季リーグに神宮でプレーする夢が断たれたことを意味するからだ。

国全体が苦難の状況となり、寮にいた部員の3分の1は帰省した。しかし、チーム全体が悲観することは決してなかった。寮に残った部員をはじめとした選手たちは全体練習ができないぶん、自主練習を徹底した。当時のことを安藤監督は「選手たちは一人ひとりが自立していた」と振り返る。

青学は伝統的に自主性を重んじるチーム。決して腐ることなく、置かれた状況で何ができるか、それを自分で考えることができるチームであった。

取れなかったスタメンの座

秋季リーグ初戦、スタメンに4年生の名前はひとりもなかった。それだけに下級生の力が大きく、ベンチ入りをした4年生も西川を含め、たったの3人だった。

悔しくないはずがなかった。グラウンドでチームを鼓舞していたのは3年で遊撃手の泉口友汰(3年、大阪桐蔭)や外野手の井上大成(3年、日大三)といった高校時代からトップレベルの活躍をしてきた後輩たちであった。試合に出られない悔しさを抑え、西川はベンチから声を枯らした。

際立ったのは3カード目の専修大戦。2試合とも中盤まではリードを許す展開で、何度もチャンスを潰すことがあった。そのようなときでも「我慢や!」「次や!次!」とチームを鼓舞し続ける西川の姿があった。近年何度も苦しめられた専修大相手にこのリーグで2連勝を果たす。

主将として見せた気迫のプレー

代打で出場し意地の一発を放ちガッツポーズ

7連勝して迎えていた国士館大学との2回戦。チームは3-6とリードされた状況で追い詰められていたが、7回に代打で出場した西川はレフトスタンドへ意地の一発を放った。この試合は敗戦したものの、最後まで諦めない姿勢をチームに見せつけた。

最後まで諦めない姿勢をプレーで見せた西川

その次の拓殖大学との1回戦でも粘り強く戦うも勝利できなかった。しかしリーグ最終日、2位の日本大学の試合結果から青学の2部優勝が決定した。

拓殖大との最終戦ではタイムリーを放つ

順位に関係ない拓殖大学との最終戦であったが、来年日本一を目指すチームとしては負けられない試合。西川は4回から試合に出場した。この試合、自身の1打席目では三振に倒れるも、8回のチャンスではセンターへのタイムリーを放った。このタイムリーにはベンチ全員が歓声をあげていた。

2部優勝が決まった最終戦を終えた西川だったが目には涙(中央)

最終戦は7-0で勝利。試合後、後輩たちに囲まれ、「藍畝さん、ありがとうございました!」そう言った声がたくさんかけられていた。感極まった西川は最後に涙を流した。

受け継がれる神宮の切符と日本一への夢

西川は大学野球をもって野球を引退する。日本一への夢は後輩へと託された。

優勝旗を受け取った西川(左)、夢の続きは後輩に

新主将に就任したのは大学野球界屈指の守備力を誇る泉口。西川にとっては和歌山日高ボーイズ時代の後輩でもある。西川の思いを誰よりも受け継ぐ新主将を中心に、青学野球部は今春、神宮で躍動する。