王者・早稲田男子バレーを支える、藤中優斗たち4年生の結束
春季リーグ戦と東日本インカレをあわせた3冠に大手をかけた早稲田に、1差で追う筑波と日体。優勝争いは最終戦までもつれこんだ。日体にとってストレート勝ちが優勝への条件だったが、順天堂に3セット目を奪われて脱落。早稲田と筑波の直接対決で勝った方が優勝となり、最後に早稲田が笑った。
日体戦の敗北がきっかけに
早稲田は副将でセッターの#2小林光輝(4年、創造学園(現・松本国際)が効果的にボールを散らし、#3鵜野幸也(うの、4年、早稲田実)や#8武藤哲也(3年、東亜学園)が得点を重ねる。25-17、25-12と出だしの2セットを連取した。しかし、筑波もこのままでは終わらない。第3セットは筑波の主将である#1樋口裕希(4年、高崎)が立て続けにスパイクを決めて21-21と追いつく。ここからこの日初めてリードし、このセットを奪った。
4セット目は筑波が先に主導権を握ったが、一進一退に。早稲田は#14村山豪(2年、駿台学園)のクイックとバックアタックが決まり出し、リードを広げた。最後は筑波のサーブがアウトとなり、決着がついた。早稲田は10勝1敗で3冠を達成。主将の#1藤中優斗(4年、宇部商)が最優秀選手賞とレシーブ賞を獲得し、小林がセッター賞、村山が会長特別賞を受けた。
連戦連勝だった早稲田は9月30日の日体戦を1-3で落とした。日体には首位の座も明け渡した。小林は「モヤモヤしたものがあって、練習に身が入らないときもありました。でも、一度底辺まで落ちたので、『やるしかない』という気持ちでここまでやってこられたと思います」と振り返った。
早稲田の松井泰二監督は、この敗戦がターニングポイントだったと見ている。「プレッシャーから解き放たれて、自分たちの持ってるものを出しきれるようになったんじゃないですか」。翌週は順天堂にストレート勝ち。常勝神話が崩れ、シンプルに力を出しつくすことに集中できるチームになった。
同じ場所に立てたいま、できること
筑波との最終決戦で、チームに勢いをもたらしたのが鵜野だった。キレのあるスパイクで、何度もいい流れを持ってきた。試合後のインタビューの第一声は「気持ちが弱いので、すごく緊張していました」。堂々たるプレーを目の当たりにした直後だっただけに、私はちょっと驚いてしまった。
昨年の全日本インカレ優勝メンバーの中で唯一の4年生だった加賀優太が抜け、鵜野は新チームからスタメン入りを果たした。バレーはメンバーがひとり変わるだけで、チームは大きく変わる。常勝チームの新しい顔になることへのプレッシャーは大きかっただろう。春季リーグ戦でのスタメン初試合について、「緊張してたことしか覚えてないです」と言う。ガチガチの鵜野をほぐしてくれたのは、同期の小林だった。「自分のプレーが決まったら、(小林)光輝が『よかったよ』って声かけてくれて。まわりの助けがあって、しっかりプレーできました」。同期の気遣いに感謝した。
鵜野と藤中と小林は普段から仲がよく、一緒に過ごす時間も長いという。藤中は1年から、小林は3年からスタメンとして活躍していた。そんなふたりを見て、「すごいな。自分も試合に出て活躍したい」という思いが鵜野にはあった。苦手だったサーブレシーブの練習に力を入れ、スタメンとして同じコートで戦える日を待ちわびた。
同じ場所に立ってからは、ふたりが感じてきたであろうプレッシャーを実感するようになった。「いまになってみれば、ふたりは心の面が難しかったんだろうなって思うんですよ。あのころ自分は練習するしかなかったけど、そういうことに気づかず、声をかけてあげれなかったな、って」。普段は藤中と小林がおっとり系の鵜野をイジるという関係だそうだが、試合になると鵜野は一変する。「チームメイトとして心強いです」と藤中は言う。去年は藤中や小林を支えてやれなかったという負い目も、鵜野はこの1年のプレーにぶつけてきたのだろう。彼ら4年生の話を聞いて、私はそんなことを考えた。
11月27日には、彼らにとって大学最後の公式戦となる全日本インカレが開幕する。早稲田には大会2連覇と4冠がかかっている。藤中は「いまのままだと絶対に優勝できない。レセプションの返球率やスパイクの決定率が低いし、サーブも弱い。いくつも課題が見えたので、これからチーム一丸となって一つひとつ取り組んでいきたいです」。まだまだ早稲田は成長するつもりだ。
秋季リーグ戦の中盤で松井監督に話を聞いた際、「リーダーとなるべき4年生が成長しきれていない」と表情をくもらせていた。優勝決定後は、「練習もいい雰囲気でやれてて、組織がうまく機能しています。こちらが何か言うまでもなく、4年生がチームをつくりあげて最終日に臨めました」と語った。お互いに支え合う4年生が束になり、チームを支える。常勝早稲田の強さは、ここにある。