陸上・駅伝

駿河台大エース吉里駿 強い覚悟で臨む予選会、箱根を走る姿を仲間に見せる

吉里は大牟田高校で鍛え、徳本監督の駿河台大にやってきた(すべて撮影・小野口健太)

いよいよ10月26日、箱根駅伝の予選会(東京・立川)が開催される。今年は43校が出場し、本戦出場の10枠をかけてハーフマラソンで競う。駿河台大は、法政大時代に箱根駅伝のスターだった徳本一善(かずよし)監督(40)の下で力を蓄えてきた。ケニアからの留学生であるブヌカ・ジェームス・ナディワ(2年)と吉里(よしざと)駿(3年、大牟田)がチームを引っ張る存在だ。吉里は「チームとしてはまだ本戦にいけなくても、(関東)学生連合チームに入るのはエースとして最低条件だと思ってます」と言いきる。

「いつか世界で戦える選手を育てたい」 駿河台大駅伝部・徳本一善監督4完

強豪校でもまれ、最後の都大路で力以上の力を発揮

福岡県北九州市出身の吉里は、全国高校駅伝(都大路)の常連である大牟田高校で鍛えてきた。陸上を始めた中学生のときは福岡県の大会でも入賞できなかったが、「いつか都大路を走ってみたい」との思いはずっとあったという。すると大牟田から声がかかった。「まさか自分に声がかかるなんて」と、当時を振り返る。

仲間と競い合う大牟田での日々。「いま振り返ると、次のステップに進むために大牟田ってわけじゃなくて、大牟田で活躍するのが目標でした。そのときは先の進路のことを考えてませんでした」と吉里。あこがれの都大路には1年生のときからエントリーメンバーに入ったが、走れず。2年生のときもエントリーメンバーに入っただけだった。

最後の都大路でやっと4区(8.0875km)を走れた。チームの目標は上位入賞だったが、1区で38位と大きく出遅れた。「もう、楽しもう」という気持ちで駆け出し、吉里は区間3位の快走でチームを25位から16位に引き上げた。「自分の力以上に走れたんです。いまでもそのときの『楽しい』という感覚は残ってます」と、いい笑顔で話した。

しかし高校時代をトータルで見れば、けがが続き、思うような結果は残せなかった。5000mのベストは14分32秒。吉里に駿河台大の徳本監督が声をかけたのは、3年生の夏だった。徳本監督からは「絶対に箱根にいくためのプロセス」を語られ、スポーツ特待生での受け入れを提示された。吉里自身、ランナーとしての実績やツイッターでの発信内容などから、徳本監督に教えてもらえることに魅力を感じたという。

ただ、大牟田の赤池健監督に「駿河台大に行きたい」という意志を伝えると、どうも賛同してくれていないような感じがあった。その後、徳本監督から赤池監督に話をしてもらったところ、赤池監督は「ちゃんとした指導者だから大丈夫だろう」と言ってくれた。

勝負のレースを風邪で棄権、徳本監督に大目玉

駿河台大での陸上生活は高校時代に比べて何が違うのか尋ねると、「選手の自由度」という答えが返ってきた。「高校のときは朝から晩まで全部決められた生活でした。でもいまは任されてる部分が大きいです。徳本さんが選手一人ひとりに声をかけるというよりは、『どんどん聞いてきてくれ』と、構えてくれてます。練習メニューは徳本さんがつくるけど、僕らも一緒にメニューをつくっていくって感じです」

徳本監督(左)からは厳しい言葉を投げかけられることもあるが、「普段はとてもフランク」と吉里

埼玉県飯能市のキャンパス内にはタータンの400mトラックがあり、すぐそばには寮があり、徳本監督も一緒に暮らしている。監督について吉里は「とてもフランクです。珍しいぐらい選手とコミュニケーションをとってます」と言った。一人で走ろうとしていたら、「俺も走るから」と監督も一緒に走り、陸上についていろいろと話しかけてくれる。また寮では相談役として、選手たちの悩みにも向き合ってくれるそうだ。

徳本監督は選手たちに「5000mで14分、10000mで29分を切れたら言うことを聞くよ」と公言していて、この記録を切った選手は練習のほか日常生活でも、自分の裁量で行動できる。吉里は今年4月に5000mで13分57秒56をマークしたが、「みんな守ってるんだから」と、それ以前と変わらない毎日を過ごしている。ただ、そのタイミングで2人部屋から1人部屋に変えてもらい、より快適にはなった。

6月23日の全日本大学駅伝関東地区選考会を風邪で棄権したときは、徳本監督に大目玉を食らった。レースの数日前からずっと微熱があった。それでも我慢して走ってきたが、当日、熱が39度まで上がってしまった。「一番肝心なときにエースが走れないってどういうことだ! 」と、徳本監督に叱られた。さらに20校中17位という惨敗が重く吉里にのしかかった。仲間たちが団結して走る中で、自分が力になれなかったのが悔しかった。それ以降は普段の生活から気を引き締め、大学に行くときはマスクをするようになったという。

東海大・鬼塚先輩のように箱根で1区を走りたい

箱根駅伝予選会を前にして、チームの雰囲気はこれまでにないほど盛り上がっていると吉里は感じている。その原動力になっているのが1年生の頑張りだ。誰かが抜群に速いというわけではないが、みんな練習からもいい走りをしていて、上級生が刺激を受けているという。

徳本さんが監督になって臨む8度目の予選会で、チームは15位以内を目指している。20kmからハーフマラソンに距離が変更となった昨年の予選会、吉里は64分42秒で個人108位(チーム3位)だった。今年は63分30秒で走っての学連チーム入りを最低の目標としている。「自分が箱根駅伝を走ることで、チームに与えられる影響は大きいと思うんで」。その言葉から、エースとしての強い覚悟が伝わってきた。

「自分はまだまだ。これからもっと伸ばせるかは自分次第」と吉里

箱根駅伝を走れるとしたら何区がいいですか? 吉里は迷いなく「1区」と答えた。今年の箱根駅伝で大牟田の1学年先輩である東海大の鬼塚翔太(4年)が走る姿を見て、「やっぱり1区っていいな」という気持ちが強くなった。

大牟田という高校駅伝強豪校出身の吉里にとって、いまの環境に物足りなさを感じることも少なくない。それでも「チームのレベルを引き上げていくことが、僕のこれからの責任なんだろうなとは思ってます。あまり強いことは言えない性格なんですけど、来年は最上級生になるわけだし、そんな存在を目指せたらいいのかな」と前を見る。

さあ、予選会だ。駿河台大学のエースとしての走りを、仲間たちに見せたい。