伝統校らしい走りで上位を狙う順天堂大、束になって挑む箱根路
12月11日にあった順天堂大の共同記者会見。箱根総合優勝11回の伝統校復活に向け、シードではなく、上位を狙うことを報道陣の前で誓った。
4年生だけのミニ合宿が転機に
昨季まで、順大は「個」の力が際立つチームだった。4年連続で箱根の2区を担った大エース・塩尻和也(現・富士通)の存在は大きかった。塩尻は4年時に10人抜きを演じ、日本人最高タイムをマーク。その走りでシード権獲得へとけん引した。
塩尻が抜けた穴は大きく、塩尻に代わる強烈な「個」も見当たらない。だが、現チームには前年にはなかった「束で戦う力」がある。記者会見の冒頭、就任4年目の長門俊介監督は、自信をのぞかせながらこう言った。「小粒ではあるが、底上げができている。(エントリーメンバー中、10000mのタイムが)28分台が8人。これまでにないレベルのチームだと思います」
チームの総合力を引き上げたのは4年生だ。エントリーした6人だけでなく、マネジャー2人を含む14人の4年生がその中心となった。ただし、そこに至るまでは時間を要したという。長門監督は「もともと調子の足並みが揃わない学年で(苦笑)。個性的な学生が多いのもあり、まとまりもなかったですね」と振り返る。
転機となったのが7月下旬に実施した4年生合宿だ。駅伝シーズンを控え、このままではいけないと、4年生全員で2泊のミニ合宿を開いた。ミーティングで建設的な意見を言い合い、箱根ではシードではなく、上位を目指すことを共通認識に。そのための取り組みがここから始まった。
4年生の姿勢が3年生以下にも伝わる
長野・菅平での夏合宿では、実業団合宿に参加した主将の藤曲寛人(加藤学園)と副主将の橋本龍一(法政二)が不在だったが、他の4年生が練習を引っ張った。3年生以下は4年生の意識変革を感じ取り、チーム全体の練習の雰囲気が変わった。長門監督は「このあたりから(箱根駅伝優勝11回の)伝統校にふさわしい、目線が高い集団になってきた」と話す。
一方、走力を高めるのに一役買ったのが、昨年10月にキャンパス内にできたクロスカントリーコースだ。この不整地で1人3kmのミニ駅伝などをこなし、足腰を鍛えるとともに、「思い切り」を身に付けた。
チーム全体で心技体を高めた成果は箱根の前哨戦でも表れている。出雲では8位止まりだったが、全日本では6区終了時点まで2位と、攻めの走りを見せた。上位を目指すチーム作りは整いつつある。
主将としての自覚がタイムの向上を後押し
チームの先頭に立つのは藤曲だ。同期の主務・榑沼達也(横須賀大津)が「人間的に欠点がなく、後輩からも慕われている」と評す優等生の主将は今季、トラックからハーフまで5種目で自己ベストを更新。駅伝では出雲こそ、レース直前に体調を崩したことで2区8位に終わったが、5区を走った全日本では区間2位(区間新)とエースの役割を全うした。成長を後押ししたのは主将としての自覚だ。長門監督によると、3年生までは自分の色を出していなかったが、主将になってから言動も変わったという。
卒業後に入社予定のトヨタ自動車九州での合宿では、在籍している大先輩の今井正人さんと話をする機会も得た。大学時代「山の神」と称された今井さんと長門監督は同級生。ともに4年時(2007年)には、箱根の総合優勝を経験している。長門監督は「今井は主将だったので『主将とは何たるか』という話も藤曲にしてくれたはずです」と察する。
箱根では2区を任されるのが濃厚だ。塩尻の後を継ぐ格好になるが、「レベルも走りのスタイルも違うので」とそこは意識していない。「冷静に走れるのが自分の強みなので、箱根でもそれを発揮できればと。タイム的に68分台でまとめられれば、続く選手が補ってくれるはずです」
一皮むけたチームのきっての元気印
そして、藤曲とともに推進力となるのが、1年時から箱根を経験している橋本だ。チームきっての「元気印」は全日本2区で区間新の5位と、今季も存在感のある走りを見せている。練習でも常に前向きだが、榑沼主務は「4年になって幅が出てきた」と明かす。きっかけは6月の教育実習だ。大学近くの印西市立印旛中で3年生を担当。先生として中学生と接したことが、変化をもたらしたようだ。
教育実習では最終日に生徒たちからメッセージ入りの赤い鉢巻をもらった。「印旛中のみんなに頑張っているところを見せたい」と、橋本はこの赤い鉢巻を出雲から巻いている。全日本ではつけ忘れる一幕もあったが、箱根では必ず頭に巻くつもりだ。ともすれば1人で突っ走る傾向があった橋本に、「誰かのために走る」という思いが加わった。4度目の箱根路では一皮むけたところを示す。
チームの課題は山上りの5区か。3年連続区間5位以内の山田攻(現・警視庁)が抜けた穴も小さくない。しかし長門監督は「奇数区間がポイントになるのは確かですが、いい結果になるオーダー配置はいくつかイメージできている」と不安を感じていない。
伝統校の復活へ。箱根ではその足掛かりになる結果を刻む。