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特集:第68回全日本大学サッカー選手権

インカレはベスト8で終焉 それでも筑波大の“躍心”は終わらない

試合終了後、涙を流す筑波大イレブン

サッカー第68回全日本大学選手権

12月14日@東京・味の素フィールド西が丘
筑波大 2-1 びわこ成蹊スポーツ大
12月16日@同
筑波大 0-1 明治大

筑波大の今年のスローガン“躍心”は、「人の心を動かす存在」というビジョンの下に掲げられたが、そこには「タイトル奪還」の意志も込められていた。もちろん、インカレ優勝も目標の一つだった。

大学屈指の戦力誇るも今シーズンは苦戦

今年は関東リーグ戦でも苦戦し、最終節となった順天堂大戦でなんとかインカレ出場を決めた。引き分けながら自力で出場権を獲得し、関東第6代表となった一方で、今夏に実施されたユニバーシアード(ナポリ)にはMF三笘薫(4年、川崎フロンターレU-18)ら6人を輩出し、日本代表の優勝に貢献。第6代表とは言え、戦力は大学屈指を誇る。だからこそ、今シーズン最後となるインカレでは本領発揮が求められていた。

インカレには4年連続出場。昨年、一昨年こそベスト8にとどまったが、3年前には日本一に輝いた。当時を知る選手はいまの4年だけだ。DF山川哲史(4年、ヴィッセル神戸U-18)は「後輩たちに日本一の景色を見せたい。絶対に優勝する」と意気込んでいた。

阿部と山川の活躍で延長戦を制す

筑波大は2回戦から登場。初戦はびわこ成蹊スポーツ大と対戦し、延長戦の末に2-1で勝利した。この試合のサプライズは山川の2ゴールと、GK阿部航斗(4年、アルビレックス新潟U-18)の復帰だ。

両者ともにチャンスを生かせない中、沈黙を破ったのは山川だった。後半28分、右サイド深い位置で得たFKをMF山原怜音(2年、JFAアカデミー福島)が正確なキックを供給すると、これに山川が頭で合わせて先制した。しかしその後、後半終了間際に追いつかれ、延長戦に突入した。

延長12分、再び山原がFKからクロスを上げ、DF森侑里(大宮アルディージャユース)が頭で落としたボールを山川が豪快なボレーで合わせて逆転。4年間、関東リーグ戦では無得点だった男がゴールを量産し、チームを救った。

ヘディングでゴールを奪った山川

試合前のミーティングで小井土正亮監督は「(筑波大が優勝するには)大会が終わった後で『今年のインカレは○○の大会だった』と言われる選手が必要」と話し、そこで目が合った山川に「山川が点を取って『山川の大会』になるかもしれない」と語ったという。意図した発言ではなかったそうだが、山川は監督の期待に結果で応えた。「失点したことは反省しなければならないけど、自分の2ゴールでチームを勝利に導けたのはいい経験になった」と山川は言った。

一方、阿部はリーグ戦後期以降、「フィード面に問題があった」ことから控えに回っており、久々の公式戦復帰となった。試合前、阿部は「大学でこんなに出られなかったのは入学以来で、試合前は不安よりも早く(試合に)出たい思いが大きくてうずうずしていた」と口にした。

阿部は再三のビッグセーブで筑波大を後方から支えた。中でも特筆すべきは延長前半終了間際、勝ち越した筑波大に緩みが生まれた場面だった。相手選手がスルーパスから抜け出し、1対1の場面を作られたが、確実にコースを塞いで守り切った。「前へ飛び出して相手の嫌がるポジションを意識した。試合に出られなくなる前の自分なら止まっていたと思う」。阿部の活躍で筑波大は気を引き締め、延長戦を制した。

延長前半、勝ち越し直後に阿部がビッグセーブを見せ、勝利を手繰り寄せた

3バックの裏のスペースが課題に

試合後、勝利の安堵からか小井土監督は涙を流していた。それでも「何回も左サイドの裏を取られてしまっていた。そういったあと一歩の甘さが失点にもつながった」と冷静に指摘した。

左CBのDF角田涼太朗(2年、前橋育英)はビルドアップやオーバーラップで果敢に攻撃参加するため、どうしても裏にスペースができやすい。「自分たちがリードしているときは、リスクを冒さずセーフティなポジショニングができればよかった」と責任を感じていた。阿部も「マークのタイミングやカバーのポジショニングが課題」と分析し、次戦に向け修正が必至だった。

攻撃の起点となる角田。攻守で筑波大を支える「優勝請負人」

明治大戦、前半は「プラン通り」

MF高嶺朋樹(4年、北海道コンサドーレ札幌U-18)が「今年の明治を止められるのは筑波だけ」と明治戦への意気込みを語るように、今年の絶対王者に対して筑波大は臆することなく挑む気概を見せていた。

筑波大は守備をより重視するため、3バックの前に3枚のボランチ選手を配置。「これまでいろんなことにチャレンジしていたので、新しいフォーメーションでも動揺することなく意思の疎通ができていた」と山川。また、前試合で不発に終わった三笘はベンチスタート。「逆の立場なら、後から三笘が出てくるのは嫌だと思う」と小井土監督が話すように、三笘がジョーカー役となった。明治大も従来の3バックではなく4バックを採用。両者が互いにリスペクトしあった戦術で対峙した。

試合は圧倒的に明治大ペース。だが、筑波大は全員が守備意識を統一し、体を張って守り続ける。懸念事項だった左サイドの裏スペースも、角田の危機管理や、左ウイングバックで起用されたMF三浦雅人(1年、東京ヴェルディユース)の献身的な守備が光った。特に三浦は出色のできで、チームの危機を何度も救ってみせた。前線もFW和田育(1年、阪南大)がロングボールを呼び込んで全力で裏に走りこんだり、奪われてもプレスに奔走したりとスプリントを仕掛け続けた。

ゴールこそなかったが、守備、ポストプレー、フリーランなど多くのタスクをこなした和田は賞賛に値する

結果的に筑波大は前半こそシュートを打てなかったものの、前半を0-0で折り返すことに成功。高嶺も「失点0で試合を進められたのはプラン通りだった」と振り返った。だが前半を終え、体を張った代償として山原が無念の負傷交代。「無理すればプレーできたけど、100%の状態ではなかった」と悔しさをにじませながらピッチをあとにした。筑波大はプレーメーカーを欠いた状態で後半に臨まざるを得なくなったものの、ハーフタイムには阿部らが中心となり「このまま(後半も)同じ展開になるかもしれないけど、我慢して戦おう」と鼓舞して後半に臨んだ。

痛恨のPK失敗、そして遂に失点

後半、先にチャンスを作ったのは筑波大だった。後半9分、MF知久航介(3年、國學院久我山)のロングボールをMF加藤匠人(2年、柏レイソルU-18)が落とし、走り込んだ和田がPA内で倒されPKを獲得。明治大に勝つための「固く守って一発を狙う」プランを遂行する絶好のチャンスが訪れた。

高嶺がキッカーを務め、冷静に右に蹴ったが相手GK加藤大智(4年、名古屋グランパスU-18)に止められてしまった。「決めなければいけなかった。申し訳ない気持ちでいっぱい」と高嶺は話した。チームはすぐに切り替え、再び強度の高い試合へと戻っていった。

PKを止められ失意に陥る高嶺。「これがプロになるためのいい経験になる」と小井土監督は背中を押していた

防戦一方の筑波大は徐々に疲弊し始めていたが、明治大は勢いが落ちなかった。流れを変えるために小井土監督は後半17分、三笘を投入した。「カウンターからの1点を狙うため、前でプレーしようと心掛けた」と三笘。その後、筑波大は三笘がドリブル突破を仕掛けるなどして相手ゴールに迫ったが、激しいマークや、時には3人がかりの守備に遭うなど苦戦し、シュートに至らない。

何とかチャンスを探る中、後半39分、遂に筑波大の堅守が陥落してしまった。右サイドをMF中村健人(明治大4年、東福岡)に突破され、簡単にクロスを挙げられ、大外でフリーの中村帆高(明治大4年、日本大藤沢)にヘディングを決められ遂に失点。後がなくなった筑波大は、山川を前線に上げるなどパワープレーにも出たが実らず0-1で惜敗。ここで、今年のインカレが終戦した。

負けてはしまったが、間違いなく今シーズンの筑波大のベストゲームだったと感じる。終盤までは「固く守って一発を狙う」というプランを継続できており、戦術的に守備を構築することにも成功していた。だが「明治大は圧倒的にチャンスを作っていたし、決定的なミスもなかった。明治が勝つべくして勝ったと思う」と三笘が語ったように、筑波大のシュート本数が4だったのに対し、明治大は13。差は歴然だった。阿部も「勝負どころでの強さが明治大にはあった。PKですら止めてしまう。さすが王者だなと思った」と相手を称賛した。

途中出場した三笘は激しいマークに苦しんだ

「筑波らしさ」を取り戻す。“躍心”は終わらない

明治大戦前、角田は今年の筑波大を「(試合の)最初はよくても追いつかれてから段々勢いがなくなることが多かった」と振り返った。びわこ成蹊スポーツ大戦こそ逆境を跳ねのけられたが、明治大戦はもろに角田の指摘した悪い意味での「筑波らしさ」を露呈した。

この3年を振り返ると、インカレは3年連続ベスト8止まり。関東リーグ戦は1位から2位、そして6位と、絶対王者としての誇りが失われつつある。選手が口に出す「筑波らしさ」も、今期は強さの象徴ではなく、勝負弱さを表す言葉となってしまった。それでも山川や阿部ら4年生は口をそろえて「後悔はない」と言う。チームの頼みの綱だった三笘も今大会をもってチームを去る。「この悔しさを糧に、結果を残せるプレーヤーになりたい」と三笘も前を向く。

インカレ登録メンバー32人のうち10人が4年生と、戦力ダウンは必至だが、来年度に向けて明るい材料は存在する。山原や角田のように、2年生ながらユニバーシアード代表を経験した選手たちは、より一層筑波大を引っ張っていくことになるだろう。山原は「昨年は試合に出ているだけの選手だったけど、今年は少しずつチームを勝たせられるような選手になれた。来年以降はもっと勝利に貢献したい」と強く意気込む。

また、和田や森侑里のように、インカレを主力として経験した下級生も多い。角田と森侑里と3バックを形成していた山川も、「2人とも頼もしい。来年以降楽しみだと思わせてくれる」と期待を寄せる。角田も「自分はインターハイを優勝して筑波大にきた。その経験を生かすことも役割だと思っている」と語る。

一丸となって応援し続けた筑波大学蹴球部部員ら。彼らがいれば、必ず「筑波大らしさ」を取り戻せるはずだ

来年こそ、これまでの悔しさを晴らす「筑波らしい」プレーを見せてほしい。記者としてだけでなく、筑波大学蹴球部のいちファン、サポーターとして願っている。来年こそタイトル奪還へ。筑波大サッカーの“躍心”は終わらない。