アメフト

佼成学園高・土屋天世 クリスマスボウル4連覇をかけ、小さな体で攻守に躍動

佼成学園の土屋(中央奥の31番)はこの春からディフェンスのLBになった(すべて撮影・北川直樹)

アメフト第50回全国高校選手権決勝・クリスマスボウル

 1222日@横浜スタジアム
佼成学園(関東、東京1位)vs 立命館宇治(関西、京都1位)

 

アメフトの高校日本一を決めるクリスマスボウルが1222日に横浜スタジアムで開催されます。2年連続で佼成学園と立命館宇治の顔合わせ。佼成学園には史上4校目の4連覇がかかります。早くも大学での活躍が楽しみになる選手がたくさんいる中、両校から4years.の注目選手を一人ずつ紹介します。まずは佼成学園のLB土屋天世(てんせい、3年)です。

去年のクリスマスボウルで粘りの走り 

昨年のクリスマスボウルはアツい試合だった。第1クオーター(Q)で0-21とリードされた佼成学園が追い上げる。それでも第4Qに入る時点でまだ19点差あった。それを最終Q25点を奪っての大逆転優勝だ。いくつも印象的な佼成学園のプレーがあったが、その中でも「うおーっ」という声の出てしまったのが、小さなRBのあきらめない走りだった。 

土屋(31番)は身長161cmと小さいながら、工夫して奮闘する

4Q、スコアは20-33。ゴール前13ydからの第2ダウン10ydだった。QB山﨑誠太郎(当時3年、現・関西学院大)はRB土屋天世(当時2年)へのショベルパス。これを受けた土屋がすぐ相手ディフェンスにタックルされ、ラグビーのモール状態になった。立命館宇治の選手には「ああ、止まった」とプレーをやめる選手も見られた。しかし佼成の31番はあきらめなかった。必死で足をかき、タックルをふりほどいた。密集を飛び出して6ydの前進。佼成の勝利への執念を見た。チームに勇気を与えるような粘りだった。そして佼成は直後のプレーで別のRBがタッチダウン(TD)した。 

ディフェンスに転向、でもRBでも登場 

あれから約1年。1123日の関東地区決勝を取材に行くのが楽しみだった。佼成学園(東京1位)と法政二(神奈川1位)との対戦。3年生になった土屋がどんな走りを見せてくれるのか。するとディフェンス第2列のLBにコンバートされていた。身長161cm、体重71kgの小さな体で動き回り、ラン、パスに対処していた。そうかと思うと7-7の第2Q7分すぎ、ゴール前2ydまで攻め込むと、土屋がRBとして登場。ボールを託されてエンドゾーンへ飛び込み、TD。その後もゴール前限定のRBとして何度か登場した。試合は35-14で勝ち、4連覇のかかるクリスマスボウル出場を決めた。 

土屋(中央)はゴール前のオフェンスではRBで出てくる

試合後、土屋に話を聞いた。チームの事情でこの春からLBになったが、言われなくても自分からコンバートを申し入れようと思っていたそうだ。「楽しそうだなと思って。ディフェンスが相手を止めると、チーム全体が盛り上がるじゃないですか。あれが気持ちよさそうで」 

とはいえ最初はまったく慣れず、練習試合でも結構やられた。ラグビーと違い、アメフトのディフェンスはタックルだけすればいいのではない。自分をブロックしにくる相手を処理してから、ボールキャリアーに向かわなければならない。土屋をブロックにくるOLは、ほぼ間違いなく全員が自分より大きい。「正面から当たってもダメだから、目線で相手を惑わせたり、体を動かしてブロックされにくくしたり。何とか優位に立とうとしてます。当たるときは低く、低くと思ってます。RBがどこを走りたいのかは、だいたい分かります」 

常にパスのインターセプトも狙っている。この春にLBになって、試合で最初にインターセプトを決めたときに、リターンTDまで持っていったという。「気持ちよかったです。誰もいない中、走る感じは初めてでした。あれで楽しくなりました」。RBとしても出してもらえるのは、本当にうれしいそうだ。「ゴール前のおいしいところだけもらってるから、絶対にタッチダウンしないと

 新宿シニアでセカンドの控え、野球はあきらめた 

土屋は中学校までは野球に打ち込んでいた。新宿シニアというチームで硬式球を握っていた。セカンドの補欠だった。「バッティングがダメで、もう野球はあきらめようと思いました」。違うスポーツでいい思いができたらと考えた。ちょうど4歳上の兄が、大学からアメフトを始めたところだった。自分もやろうと決め、その冬のクリスマスボウルに初出場初優勝を飾った佼成学園へ進んだ。同級生には小学校からフットボールに親しんできた仲間が多かった。「最初はそれなりに差があったんですけど、自分なりに努力して埋めました。高校から始めても遅くないって思います」。RBWRの間でコンバートを繰り返して、2年生の春にはRBのスターターをつかんだ。しかし、そのまま順風満帆とはいかなかった。徐々に出番がなくなっていった。 

そして昨年のクリスマスボウルだ。エースRB3年生がけがで出られなくなり、一気に土屋の出番が増えた。「フィールドに入ったとき、頭が真っ白になって、周りの音が聞こえなくなりました。先輩を信じて戦うだけでした」

相手の正面からタックルを決める土屋(31番)

今年も相手の方が強い、でも気持ちが強いのは佼成 

去年の粘りのランについて聞いた。彼のポジショニングが悪かったのが原因で、ショベルパスをもらってすぐにタックルされてしまったそうだ。「相手につかまれたんですけど、倒されるまでの感じじゃなかった。そしたらOLがそのタックラーにしつこくブロックにいって、はがしてくれたんです。ずっと足をかいてるうちに、抜けられました」。ポジショニングがよければ難なくゲインしていたプレーではあったが、粘って粘って前進できたことが、土屋の自信にもなった。 

昨年のクリスマスボウルで0-21からの逆転勝ちを経験したことで、相手にリードされていても決して焦らないチームになれた。「今年も相手の方が力は上だと思います。でも、気持ちが強いのは自分たち。最後まで課題を埋めつくして、練習をやりつくして戦いたいです」。佼成学園の31番は晴れやかな笑顔で、そう言った。1222日午後1時、横浜スタジアム。史上4校目の4連覇を目指す戦いが始まる。