東海大・鬼塚翔太 最後の箱根で「スピードスター」の真骨頂を
入学当初からずっと「スピードスター」が代名詞だ。東海大の鬼塚翔太(4年、大牟田)は今年、納得できる走りはできていない。それでも「足踏みもこれからの陸上人生の糧になる」と前向きだ。最後の箱根では「スピードの鬼塚ここにあり」という走りで、チームを引っ張る。
1区を走るのは鬼塚しかいない
箱根駅伝に向け、12月18日にあった東海大の記者会見。登壇したエントリー選手16人が、順に希望区間を言っていく。中には「ありません」との選手もいたが、複数の区間で希望が重なった。ただ「1区」と言ったのは鬼塚だけだった。どうやらチームには「1区は鬼塚しかいない」という暗黙の了解があるようだ。
会見後の個別取材でそう水を向けられた鬼塚は「どうなんですかね。みんなから信頼されてるなら、うれしいんですけど」と照れ笑いを浮かべたが、箱根の1区には強いこだわりがある。「1年、3年とこれまで2度走っている、というのもありますが、1区はスピードに自信がある選手がそろう区間なので」
入学以来、ずっとスピードを求めてやってきた。10000mの自己ベストは「スピードの東海大」にあって、チーム2位。東海大の「黄金世代」の先頭に立ち続けてきたスピードスターとして、自負もある。
「(日本インカレ5000m優勝の)東京国際大のイェゴン・ヴィンセント(1年)がエントリーしてくる可能性もあるので、そうなったらよりハイペースになりそうですが、攻めの走りをするつもりです」
胸中は複雑だった全日本V
高校時代から注目され、鳴り物入りで入学してきた鬼塚は、三大駅伝でも好結果を残してきた。2年生の出雲では4区で区間賞。区間2位が3度(1年出雲1区、1年箱根1区、3年全日本5区)ある。今年の全日本は左アキレス腱を痛めていたことから欠場。その全日本では鬼塚とともに「黄金世代」の中心となってきた館澤亨次(埼玉栄)、關颯人(佐久長聖)、阪口竜平(洛南)も欠場。それでも塩澤稀夕(伊賀白鳳)、西田壮志(九州学院)、名取燎太(佐久長聖)の3年生トリオが活躍し、チームは16年ぶりに伊勢路を制した。鬼塚の胸中は複雑だったという。
「優勝できたのはもちろんうれしかったです。ただ、自分たちがいなくても勝てるんだなと思うと、悔しさがあったのも確かです」
今年はトラックシーズンでも悔しさが募った。5000mに照準を合わせ、マラソン日本記録保持者の大迫傑(すぐる、ナイキ)とアメリカ・アリゾナ州のフラッグスタッフで2度の高地合宿を張ったが、「思うようにタイムが伸びなかった」と鬼塚。日本選手権では9位で、2年生のときに出した自己ベストの更新もならなかった。その原因は何なのか? 鬼塚はメンタル面にあると考えている。
「もともとメンタルには自信があるんですが、振り返ってみると、レースでキツくなったときに弱さが出てしまっている。それがタイムに影響してます。練習で取り組んできたことは、間違ってないと思ってます」
最後に「黄金世代」の底力見せる
集大成の1年にふさわしい結果を出せず、我慢を強いられているが「必ず今後に生きてくる」と、ポジティブにとらえている。確かに競技人生はまだまだこれからだ。卒業後はDeNAに入社予定。5000mと10000mの走りに磨きをかけながら、2024年のパリオリンピック出場を目指すという。
3年生の台頭で「黄金世代」の輝きがやや失われている感もある。しかし箱根連覇のためには4年生の力が不可欠だ。鬼塚も、それはよくわかっている。11月23日の八王子ロングディスタンスでは、10000mを28分37秒36で走り、もうアキレス腱に不安がないことを証明した。学生最後の大舞台。「黄金世代」の先陣を切り、スピードスターの名にふさわしい走りで締めくくる。