同志社大・友野一希 「一歩一歩の子」が、前だけ見て狙う北京オリンピック
12月22日に幕を閉じたフィギュアスケートの全日本選手権は、男子の羽生結弦(ANA)、宇野昌磨(トヨタ自動車)、そして髙橋大輔(関大クラブ)の3人の競演で盛り上がった。私はある大学生に注目していた。同志社大の友野一希(3年、浪速)。2022年の北京オリンピック五輪を目指す一人として、友野がどこまで上位に食い込んでいけるのか。その真剣勝負を追った。
11位に沈んだSP、吹っ切れたフリー
全日本開幕前の公式練習。報道陣に囲まれた友野は、まっすぐ前を見て言った。「調子は上がってきてます。不安もなくなってきた。あとは出し切るだけです」と。目標は表彰台に上がって、世界選手権の代表をつかみ取ること。すっきりした気持ちで本番を迎えた。
しかし、甘くはなかった。ショートプログラム(SP)は2本の4回転ジャンプを失敗。11位と出遅れた。「不安要素もなく、入りもよかったのに、ジャンプの直前で集中力が途切れた。自分を信じられない気持ちです」。声に力はなく、落胆を隠せなかった。
2日後。フリーの本番には、吹っ切れた友野がいた。「SPはいままでで一番ヘコみました。逆にあのSPがあったからこそ、できたと思う」。冒頭の4回転-3回転の連続トーループジャンプを決めた。続く4回転サルコーにも成功。今シーズン2戦出場したグランプリ(GP)シリーズでも4回転ジャンプ2本をそろえられていなかっただけに、会場からは盛大な拍手が沸き起こった。鮮やかな2本の4回転ジャンプは出来栄え点(GOE)で2.5点以上を引き出した。
まだまだ止まらない。3本目のトリプルアクセル(3回転半)からの連続ジャンプも決め、得意のステップで会場を盛り上げた。後半にジャンプのミスなどはあったが、フィニッシュポーズを決めると、ガッツポーズ。「ミスがあったのでガッツポーズはやるかどうか迷ったんですけど、やりたいことはできたので」と友野。フリーは4位で、総合6位まで順位を上げた。得点を待つ「キス・アンド・クライ」ではコーチと抱き合って涙を流すほど、感情の高ぶりを抑えられなかった。
友野の肩にのしかかるプレッシャーの主な要因は、昨年の「世界選手権5位」という看板だ。それに見合ったパフォーマンスを常に自らに課し、昨シーズンは追い込みすぎて本来の演技ができなかった。「日本代表のプレッシャーが……」とマイナスな発言ばかりが口をついて出て、すっかり自信を失っていた。
「実力を出しきる第一歩は踏み出せた」
今シーズンは違った。GPシリーズで失敗があっても、前向きな言葉で発信するケースが多かった。胸の内に「練習ではできてる」という自信があったからだ。そして、練習でできているジャンプを全日本選手権という大舞台で決めた。ようやく、本番で力を出せた。そんな充実感があったからこそ、フリーのあとは「もっとできると思ってます。自分の実力を出しきる第一歩は踏み出せた。前を向いて、もっと高みを目指せます」。誇らしげに言った。
幼いころから友野を指導する平池大人(たいじん)コーチ(41)は「彼はいきなりは変わりません。一歩一歩の子です」と語る。SPもフリーも4回転2本の構成になり、友野自身も言うように昨シーズンより確実に成長している。来年の世界選手権と四大陸選手権は補欠だが、「4回転ループを組み込みたい」と、プログラムの難度を上げる方向性を口にした。
夢の北京オリンピックに向け、もう前しか見ない。