ボクシング

東洋大が初の大学日本一 主将の木村蓮太朗は地元静岡から世界王者を目指す

全員勝った東洋大が初優勝。主将の木村を胴上げ(すべて撮影・北川直樹)

ボクシング 第73回全日本大学王座決定戦

12月26日@東京・墨田区総合体育館
東洋大(関東) 11-0 大商大(関西)

ボクシングの全日本大学王座決定戦が12月26日にあり、関東王者の東洋大と関西王者の大阪商業大が対戦した。7階級11人の団体戦で争い、東洋大が11-0の全勝で初優勝を飾った。

監督、コーチに次いで蓮太朗が宙を舞った

表彰式を終えると、リング上は東洋大のボクシング部員でごった返した。記念撮影を終えて三浦数馬監督、田中智博コーチの胴上げが始まり、興奮は最高潮に達する。お祭り騒ぎの中、どこからか大きな声があがった。

「キャプテン、蓮太朗蓮太朗

主将の木村蓮太朗(4年、飛龍)は笑みを浮かべながら小走りで歓喜の輪へ。仲間に身を任せて、気持ちよく3度宙に舞った。リングを降りても、余韻はしばらく残っていた。自然と声も弾む。「最高の瞬間でしたね。一生の思い出に残ります。最終学年で日本一になれて、いい締めくくりになりました。みんなのおかげです」

東洋大ボクシング・堤駿斗 村田諒太、井上尚弥の人間性を追いかけて

「お前のやりたいようにやってこい」

ライト級の試合前、ロープをくぐるときに部員たちから多くの声援を受け、感慨にふけった。「東洋の仲間と一緒に戦うのはこれが最後なんだ、って。寂しい思いがこみ上げました。団体戦は大学限りです。プロにいけば個人の戦いになりますから」

それでも第6試合のゴングが鳴れば、すぐにファイターの顔に戻った。4年間の思いをぶつけるように強烈な左を上下に打ち分けていく。勢いのある大商大の加藤一輝(1年、札幌白陵)の突進を冷静にいなし、初回からペースを掌握。2回には相手の打ち終わりに強烈な右ストレートを叩(たた)き込んでダウンを奪う。3回の開始前には、セコンドから大学時代最後の指示が出た。「お前のやりたいようにやってこい」

木村(右)にとって学生最後の試合だった

プレッシャーを強めてじりじりとロープ際に追いやり、猛烈なラッシュをかける。パンチをもらう場面もあったが、お構いなしに持ち前のパワーで押しきった。最後は反撃もままならなくなった相手に得意の左フックを叩き込んだところで、レフェリーが試合を止めた。

3回1分47秒、RSC(レフェリーストップコンテスト)勝ち。相手を圧倒する内容に対して技能賞が送られた。本人も納得する大学のラストマッチだった。「最後は倒しにいきました。もともとそういうスタイルなので。相手は疲れてましたし、これはいけるなと思いました」

大好きな先輩のため、堤駿斗もリングに

この日、メディアからもっとも注目されたのは、続く第7試合に登場した東洋大の2年生だった。木村と同じライト級の堤駿斗(はやと、習志野)である。彼は東京オリンピック予選の代表選考を兼ねた全日本選手権の57kg級で優勝し、来年2月のアジア・オセアニア予選にフェザー級日本代表として出場する。リング上ではオリンピック金メダル候補の評判に違わぬ技術力の高さを見せつけた。圧巻の3回RSC勝ちを収め、最優秀選手賞も獲得。試合後は多くの報道陣に囲まれた。オリンピック予選を控えるホープは、けがに細心の注意を払いながら、あえてリングに上がった理由を口にした。

「木村蓮太朗君の大学最後の大会でしたから。僕も優勝に貢献して、キャプテンにいい思いをしてもらいたかったんです。高1のときからお世話になってて、大好きな先輩です。あの人がキャプテンだったからこそ、今シーズンの東洋はここまでまとまったんだと思います」

「キャプテンにいい思いをしてもらいたい」。その思いで堤(中央左)はリングに上がった

木村にとっても、堤は特別な後輩だ。高校時代に代表合宿で一緒になり、しのぎを削りあってきた。2学年下であっても、すぐに打ち解けた。木村が高3のときには「一緒に東洋にいこうよ」と誘ったほど。そして木村の後を追うようにして、堤も東洋大に進学。体格がほぼ同じで、スパーリングで拳を交えることも多かった。

「年下だけど、学ぶべきところはありました。ディフェンス面は僕の方が下ですし、アイツはポイントを取るのが本当にうまい。その点については、僕から聞くこともありました。あいつのおかげでこの2年間、成長できたと思ってます」

けがで絶たれた東京五輪への道

木村も東京オリンピックを目指していた。夢の舞台につながる今年11月の全日本選手権で、堤と同じ57kg級に出る予定だったが、けがの影響で欠場した。「本当はハヤトと決勝で戦いたかったです。でも仕方ありません。僕はハヤトが優勝してくれてめちゃくちゃうれしかったです」

東京オリンピックの夢こそ絶たれたが、木村が大学で残した実績は輝かしい。2、3年生のときには関東大学リーグで階級賞に輝き、4年生ではタイトルを総なめ。関東大学リーグの初制覇に大きく貢献し、最優秀選手賞を獲得。茨城国体でも成年男子のライト級で優勝した。注目のトップアマは、首都圏の大手ジムを選びはしなかった。生まれ育った静岡に戻り、高1のときにボクシングを始めた駿河男児ジムでプロキャリアをスタートさせる。「地元から盛り上げて、全国を巻き込んでいきたいんです。静岡から世界チャンピオンを狙います」。木村に迷いはなかった。

ボクシングの原点である静岡のジムから、世界チャンピオンを目指す

東洋大のOBであるWBA世界ミドル級王者の村田諒太(帝拳)からは、いつも刺激を受けている。小2から続けてきた極真空手からボクシングに転向したのも、プロのファイターとして世界一を取るためだ。「バンバン倒す、華のあるボクサーになりたい。つまらない試合はしたくないです」

深く踏み込んで放つ左右のフックは豪快そのもの。魅力あふれるサウスポーのプロデビューが、いまから待ち遠しい。