ラグビー

特集:第56回全国大学ラグビー選手権

初V狙う天理大の主将・FL岡山仙治 世界を知る男、小さな体でタックルにかける

天理大の主将、岡山は小さな体で先頭に立って体を張る(撮影・谷本結利)

ラグビー 第56回全国大学選手権 準決勝

1月2日@東京・秩父宮
天理大(関西1位)vs 早稲田大(関東対抗戦2位)

「タックルでは誰にも負けない」。身長168cm、体重87kgという小兵FL(フランカー)は、悲願の大学選手権初優勝を目指す「黒衣軍団」天理大の主将として、先頭に立って体を張り続ける。それが岡山仙治(4年、石見智翠館)の生きる道である。

 前回は決勝で明治に敗退

昨シーズンは決勝で明治大に敗れて大学日本一に届かなかった天理大だが、今シーズンも好調を維持する。関西大学Aリーグでは全試合で50点以上を挙げる爆発力を示して、部の歴史を変える4連覇。6大会連続の大学選手権出場を決めた。 

天理大にとって大学選手権初戦となった準々決勝は、帝京大(関東対抗戦3位)を倒して勢いに乗る流通経済大(関東リーグ戦3位)と対戦。前半こそ17-21と苦戦したが、「後半は修正して守りから(ペースをつかんで)アタックできた」という岡山の言葉通り、彼自身のトライも含めて6トライを重ね、58-21と快勝。昨シーズンに続いてベスト4に進んだ。 

花園での準々決勝で入場してくる岡山(撮影・谷本結利)

関西4連覇を達成した日、コーチ時代から天理大を率いて四半世紀以上となる小松節夫監督(55)は「(岡山は)少し吹っ切れたかな」とつぶやいた。今年は、日本でワールドカップが開催されため、関西大学Aリーグは9月中旬から中断し、11月最初に再開。リーグ戦の前半と比べて、後半の岡山のパフォーマンスは明らかに変わっていた。 

あこがれはマイケル・フーパー

きっかけの一つはワールドカップを現地で観戦した2試合も含め、たくさんの世界レベルのラグビーに触れたことだった。岡山のあこがれは、昔からオーストラリア代表のキャプテンでFLのマイケル・フーパーである。「ワールドカップの試合を見て、このレベルにならないと(世界では)戦えないと思って、もっと前に出ようと決めました」 

密集の中で踏ん張る岡山(中央、撮影・谷本結利)

岡山はキャプテンになってから「引っ張らな、引っ張らな」というプレッシャーのあまり、プレーに集中できていなかった。天理大にはほかにもFL松岡大和(3年、甲南)やSO/FB松永拓朗(同、大阪産大付)といったリーダーがいる。「自分が何もかもしなくてもいい」と気づいたのも大きかった。 

「昨シーズンより強い」と小松監督

岡山は、個人だけではなく、チームの成長も大いに実感している。昨シーズンの準優勝に輝いたチームは主力に4回生が多かったこともあり、周りからは「去年のチームより力が落ちた」という声も聞こえたという。しかし、岡山は言う。「新チームが始まったときは劣ってたかもしれないんですけど、今シーズンは自分で考えられる選手が多いので、去年より手応えがあります」。小松監督も「昨シーズンよりも強い」と語気を強める。 

とくにアタックでもディフェンスでも、セットするスピードや空きスペースにしっかりと攻められる力は昨シーズンより上だ。岡山も「アタック力には自信があります」と言いきる。 

「悔しい思いをするなら、痛くても止めたい」

岡山は、中学からラグビーを始めた。球技は苦手だったそうだが、ラグビーは「パスが上手くなくてもボールを持って前に出られるし、タックルでも前に出られる。それが楽しかったんです」と、すぐに虜(とりこ)になった。中学時代からタックルは得意だった。負けず嫌いという性格もあって「抜かれて恥ずかしい、悔しい思いをするなら痛くても止めたい」と、小さな体でタックルを繰り返した。 

中学時代は大阪選抜Bチームに入り、高校は誘ってくれた石見智翠館(島根)に進んだ。花園にも出た。そして尊敬する高校の先輩であるHO内山友貴(現JR西日本)が進んだ天理大へ。「本当にいいラグビーをするチームだと思ったので」というのが大きな理由だった。 

力強くボールキャリーする岡山(左、撮影・安本夏望)

岡山は体格差をものともせず、激しいアタックとタックルで頭角を現し、2回生でレギュラーに定着。さらにU20日本代表にも選出され、世界の舞台でキャプテンとして桜のジャージーも着けた。その経験は、いまも生きている。「世界のラグビーから感じたのは、スコアや時間を始め、いろんなことをずっと考えながらプレーしてゲームの流れをつかむことが大事ってことです。キャプテンはチームを勝たせることが仕事だし、責任があります」 

U20日本代表でタックルのスキルも向上した。京都産業大でFWコーチを務める元日本代表の伊藤鐘史さんに「先に足を踏みこむことを意識すると、いいタックルができる」とアドバイスを受けた。「踏み込みを磨いたら、本当に力の逃げないインパクトのあるタックルができるようになったんです」と、笑顔で振り返った。

準々決勝でタックルを決める岡山(左から2人目、撮影・谷本結利)

鬼のフィジカルトレーニング

大きな相手に負けないようにフィジカルトレーニングにも力を入れた。ベンチプレスはひじをケガした影響で150kgほどだが、本人も「自身があります」と口にするスクワットは、チームで3番目の240kg。体幹の強さがタックルやボールキャリアーとしての力強さにつながっているというわけだ。 

天理の悲願である大学チャンピオンまであと2勝だ。「日本一になってトップリーグでも試合に出たい」と岡山。「ロースコアになる可能性もありますが、少しでも負けると思うと相手に流れがいってしまう。勝つと信じることが大事」と、自分に言い聞かせるように話した。小兵キャプテンは世界を舞台に磨いてきたタックルを武器に、天理を初の大学王者に導けるか。

天理ラグビーの総力で、あと2勝をもぎとる(撮影・斉藤健仁)