サッカー

筑波大・山川哲史 プロの道を断った日から4年、二つの自信胸にヴィッセル神戸へ

山川はヴィッセル神戸の下部組織で育ち、筑波大を経て、古巣に戻ることになった(すべて撮影・杉山孝)

筑波大学蹴球部からは2020年、5人のプロ入りが内定している。DF山川哲史(ヴィッセル神戸U-18)は筑波での確かな積み上げを持って、古巣でプロとして歩み出す。

筑波大の三笘から日本の三笘へ 大学4年間の感謝とこれからの思い

トップチーム昇格の誘いにも「自信がない」

身長186cm、体重81kgの堂々たる体格。金メダルを獲得したユニバーシアード代表にも選ばれた実力者ながら、プロへ進む5人の記者会見で小井戸正亮監督に「ずる賢さが足りない」と紹介されると、照れくさそうに笑った。

中学生年代のジュニアユースからヴィッセルに所属し、ユースへと進み、さらにはトップチームへも昇格できる話になっていた。だが、山川は自ら断りを入れた。プロになれると評価されながら、自分のことを信じられなかったのだという。

好きで始めたサッカーだったが、中高6年間ですっかり付き合い方が変わってしまった。「小学校のときはチームでいちばんだったんですけど、兵庫県以外からもうまい人が集まったヴィッセルのジュニアユースでは最初、ベンチにいることも多かったです。当時はまだ自覚してなかったんですけど、そこからサッカーに対する自信がなくなったというか、『自分はこんなものなのかな』と思ってしまって……。プロとして生きていくということが、具体的に思い描けなくなりました」

ユース昇格も、トップチーム昇格の誘いも「驚いた」というのが本音だ。この時点では自信がなかった。教員免許取得も考え、筑波大に進んだ。

大学の授業で自覚した「根拠のない、真の自信」

大学でも高い壁が待っていた。1学年上には鈴木大誠(現・徳島ヴォルティス)と小笠原佳祐(現・ロアッソ熊本)という高校日本一を経験した先輩たちが、センターバックのコンビとして君臨していた。二人の偉大な先輩に挑戦する日々。「二人に勝って試合に出る。それを2年間ずっと考えてやってきました。自分自身では1、2年生のときに、選手として大きく成長できたと感じてます」

山川は1、2年生のとき、二人の偉大な先輩に挑み続け、力をつけた

もう一つ、大きな出会いがあった。人ではなく、言葉である。教職免許取得を目指しただけに「周りよりはだいぶまじめに授業に出てました」と笑う山川はある日、スポーツ健康心理学という授業で、教授の一言にはっとした。

教授は自信には二つの種類があると説いた。一つは勝利といった結果に裏付けされた「条件付きの自信」。もう一つが「根拠のない、真の自信」なのだという。大学に上がり、二人の先輩に食らいつき、いつしか出場機会を得られようになった。一つ目の「条件付きの自信」は得られたという確信があった。

もう一つの「根拠のない、真の自信」を聞いたとき、高校時代の1シーンがフラッシュバックした。トップチーム昇格の話を断ったと告げたとき、寮長が山川に言った。「根拠のない自信を持て」。当時はこの言葉に首をひねったが、いまなら言える。

「『根拠のない、真の自信』というのは、うまくいってないときに自分を突き動かしてくれるものではないのかな、と自分の中で納得できました。それが分かったのも、大学に来たからこそだったと思います。いまでも勝負による自信もありますけど、『根拠のない、真の自信』の方が、自分の土台になってますね」

自分を支えてくれる人たちのために

ほかにも、大学に入って気づいたことがある。自分を支えてくれる人たちの存在だ。たとえば一人暮らしをしている自分を金銭的にも援助してくれる家族、ともに励まし合う仲間たち。もちろんそれだけではない。

「広報担当としてスポンサー獲得活動をしてくれる同期もいます。近所でごはんを食べてても、『頑張ってね』と声をかけてくれる人もすごく多いんです。応援されてサッカーができてるんだ、と感じているからこそ、僕はサッカーでそういう人たちに元気と勇気を届けないといけないと思います。そう考えられるように人間としての幅が広がったからこそ、どんなチームに行っても、人として生き残っていけると思います」

プロ選手が存在できる理由そのものも、明確に理解できるようになった。

山川(後列中央)を含め、筑波大から5人の4年生がJリーグクラブへ進む

自分がサッカーをやる楽しさよりも、周りの応援してくれる人たちが喜んでくれることへのうれしさの方が大きい。そんな優等生的な発言をしたのが、1学年上の鈴木先輩だった。「最初はまったく分からなかったけど、4年間やってきて、そういうプレーをすることがプロとしての仕事につながると気づきました」。プロになる準備は整った。

世界のトップが相手でも、いまは挑んでいける

ヴィッセルには現在、元スペイン代表のアンドレス・イニエスタをはじめとする世界の名手たちが所属している。プロ1年生となる山川のポジションであるセンターバックには、FIFA世界ランキングで首位に立つベルギー代表のレギュラー、トーマス・フェルメーレンがどっかりと居座っている。その世界トップの選手からポジションを奪い取るか、隣に並び立つ存在にならなければ、プロとして生き残れない。

4年前はプロでやっていく自信がなかった。だがいまは「ここでやってきたことに自信があるし、どうなるかは入ってみなくちゃ分からない、という思いがあります」と言いきれる。

筑波大蹴球部は2019年、「心を動かす存在」というビジョンを追って、日々を生きてきた。「チームを勝たせることと、人の心を動かすということを意識していれば、結果はあとからついてくると思いますので、頑張りたいですね」
たくさん与えてもらったものを、今度は還元する番だ。