アメフト

特集:第73回ライスボウル

関学の主将だった富士通・山岸明生 どんな男になったか、恩師のラストゲームで示す

ライスボウル進出を決めたあと、喜ぶ山岸(ゲーム写真は撮影・北川直樹)

アメフト日本選手権・第73回ライスボウル

1月3日@東京ドーム
関西学院大(学生)vs 富士通(社会人Xリーグ)

1月3日のライスボウルで2019-20年シーズンのアメフト日本一が決まる。4連覇を狙う社会人Xリーグ王者の富士通フロンティアーズは学生王者の関西学院大ファイターズと戦う。ファイターズ出身で、富士通ディフェンスの要になりつつある男がいる。大学時代と同じ47番をつけるLB(ラインバッカー)の山岸明生(あきお)だ。 

自分がチームを勝たせるんだ

プレー前、仲間に声をかける山岸(47番)

関学が早稲田大に勝った甲子園ボウルの翌日。私は社会人Xリーグ王者を決めるジャパンエックスボウルの取材に行った。富士通とパナソニックインパルスの対戦。両チームには関学出身の選手がたくさんいて、関学の4回生である私は楽しみだった。結果は富士通が28-26で競り勝ち、4連覇。私は試合後、富士通のサイドラインへ大男たちをかき分けて行った。山岸さんはすぐに声をかけてくださった。「いつも記事、読んでるよ」。私やファイターズの4回生たちが1回生のときの4回生で、主将。ひよっ子の学生記者だった私のことを、3年経ったいまでも覚えてくれていた。えらそうな言い方になってしまうが、山岸明生とはそういう男なのだ。 

この日、山岸は前半の終了間際に豪快なロスタックルを決めた。パナソニックのファンブルリカバーによって始まったオフェンスの最初のプレーだった。横パスを受けたRB(ランニングバック)ミッチェル・ビクターに目がけて猛スピードで寄り、低いタックル。5ydのロスを奪った。山岸は雄たけびを上げてガッツポーズ。「今シーズンは苦しい試合も多かったです。ディフェンスでいかれることも多くて、反省しながら自分なりにやってきました。『自分がチームを勝たせるんだ』という思いで取り組んだ結果が出たと思います」。社会人3年目となった今シーズンからスターターとして定着。その集大成ともいえるプレーを最高峰の舞台で見せた。 

いまの4回生が入学したときの主将だった

相手の横パスに反応よく切れ上がり、タックル

いまの関学の4回生にとって、山岸は特別な存在だ。彼らがファイターズに入ったシーズンの主将だった。その2016-17年シーズンは、甲子園ボウルの西日本代表を決める枠組みが変更された最初の年だ。2年連続の甲子園ボウル出場を狙った立命館大に2度勝って、甲子園へたどり着く。そこで早稲田大に勝って学生日本一に返り咲いた。いまの4回生たちはそこから毎年、聖地に立っている。彼らは山岸が主将だったシーズンのことをよく口にしていた。今回のライスボウル前の記者会見でも、OL(オフェンスライン)の森田陸斗(4年、関西学院)が言った。「あこがれの存在でしたし、圧倒的な存在でした。僕が4年間ファイターズでやってきて、どこまで通じるのか、挑戦しにいきたい」。すがすがしい表情だった。山岸としても「彼らの成長した姿を楽しみにしてます。感慨深いですね」と受け止めている。 

ジャパンエックスボウルの試合前、東京ドームのフィールドに入ってくる山岸

山岸が関学の主将だった年の秋のシーズンは、序盤からスッキリしない試合が続いた。鳥内秀晃監督(61)がことあるごとに4回生の甘さを指摘していた。シーズンが終わったあとに、山岸はどんな部員のことも最後まで見捨てなかったという話を聞いた。関学の4回生として甘い部分のある仲間でも、リーダーとして切り捨てはしなかった。そのことについて尋ねると、「やる、っていう意志のあるヤツのいいところを引き出そうと思ってました。それでチームが一つになるなら必要や、って考えてました」。自分のそんな方針が正解なのかどうか分からない苦しみもあった。それでも山岸は信念を曲げず、仲間とともに戦った。 

4回生のとき、チームが一つになる経験をした

同期の頼もしさを感じた瞬間があった。4回生のときの西日本代表決定戦で立命館に対して前半で20点のリードを奪ったが、追い上げられ、第3クオーター(Q)を終えて6点差。当時の副将でDB(ディフェンスバック)の岡本昂大(現LIXIL)がディフェンスメンバーを必死で盛り上げようとしていた。みんながまったく動揺していないのに、必死でそうする岡本の姿に、ディフェンスの4回生たちは思わず笑いそうになったという。大一番の最も苦しいはずの場面で、チームに余裕が生まれた。苦しみを「楽しい」と思えていた。そのときのことについて山岸は「絶対に負ける気がしなかった。チームが一つになってました。俺が何も言わなくても、仲間が頼もしかったです」と振り返る。最高の同期たちに囲まれて、ファイターズでの4年間を終えた。 

ジャパンエックスボウルに勝ったあと、山岸の目が少し潤んだ

「どんな男になんねん」。このライスボウルを最後に勇退する鳥内監督の言葉を、社会人になった今でも心に留めている。常に問いかけられているような気がするそうだ。「フットボールだけではなくて、仕事をするときにも意識してます」。いま、どんな男になろうとしているのか聞いてみた。「人に価値を与えられる人になる」。チームメイト、職場の人たち、応援してくれている人たちに何か返すことができたら、という思いを持っている。 

互いの思いをぶつけ合うゲームに

ジャパンエックスボウルの日、鳥内監督の著書である『どんな男になんねん』を、大学時代の知人からプレゼントされた。「監督、ライスボウルまでに読みますね」。山岸は本を手に、そう言ってニコッと笑った。恩師のラストゲームに、敵として東京ドームのフィールドに立つ。「社会人でも続けてやってきたので、フットボーラーとして真剣勝負して勝ちたいな。互いの思いをぶつけ合いたいです」。山岸の口調は、関学で主将だった3シーズン前と変わらぬ熱を帯びていた。「どんな男になんねん」。若手OBとしての現状での答えを、後輩たちにぶつける。

恩師である鳥内監督の著作を手に(撮影・松尾誠悟)