陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

「東大で箱根」阿部飛雄馬、陸上人生第1章の終着点とリスタート

両手を広げ、苦しそうな表情の中にも笑顔を見せてゴールする阿部(撮影・藤井みさ)

第96回箱根駅伝

1月2、3日@大手町~箱根の10区間217.1km
関東学生連合 11時間12分34秒(参考記録)
10区 阿部飛雄馬(東京大学4年)1時間15分26秒(同)

1月3日の第96回箱根駅伝復路、最後にゴールに入ったのは関東学生連合から出場した東京大学の阿部飛雄馬(4年、盛岡一)だった。ゴールテープを切る時は少し笑顔を見せ、仲間に迎えられ涙をぬぐった。

最初で最後の箱根、一番は「悔しい」

阿部は鶴見中継所では21チーム中14番目に襷(たすき)を受け取ったが、7人に抜かされた。区間タイムは1時間15分26秒(参考記録)。率直に、走ってみた感想を聞いてみると「一番は悔しいですね」と返ってきた。「思い描いていた理想の走りができなかったです。復路も(みんなが)頑張っていい位置でつないでくれたのに、自分のところで抜かれてしまって。自分の実力が足りなくて、(順位を)落としてしまって悔しいです」。チームとして区間10位相当、個人としても区間10位以内を目標にしていたが、チームとしては総合19位相当、個人では区間最下位相当。目標からは遠くかけ離れてしまった。

山梨学院大の渡邊から笑顔で襷を受け取った(撮影・安本夏望)

何度も「悔しい」と口にした阿部だが、「これが実力なんだな」と受け入れる気持ちもあるという。「最後に夢の舞台、11年の集大成を箱根で終えられたのは素直に嬉しいです。ここまで長くやってきて、ここにたどり着けてよかった。いろいろ感情が混ざり合いました」

「学生連合」で走れてよかった、笑顔のゴール

悔しいといいつつも、ゴールテープを切る時は笑顔だった。そのことについて尋ねると「テープを切るのは自分だけど、自分ひとりのゴールではなく、ここまでつないできた全員のゴールなので。自分1人が申し訳ない、悲しい顔で手を合わせながらゴールするのは違うなと思いました。最後は全員分の思いを形にして、学生連合をしっかりアピールしていかなきゃと思って、自然に(笑顔が)出ました」という。実際、ゴールテープを切る直前にも襷に手をかけ、「学生連合」の文字を強調するような仕草もあった。

襷に手をかけ、学生連合をアピールした(撮影・藤井みさ)

非強化校で陸上に取り組む選手にとって、箱根駅伝に出られる手段が関東学生連合に選出されることだ。もちろん箱根を真剣に目指して取り組み、惜しくも出場がかなわなかった大学からの選出もあるが、阿部は「東大で箱根に出る」ことを価値に取り組んできて、最終学年でついにその目標がかなった。

学生連合チームのメンバー間のミーティングで主将に決まったが、「特に苦労とかはしていない」と教えてくれた。「みんなコミュニケーションを取って仲良くしてたし、状態もよかったので、自分がなにか積極的に働きかけなきゃってわけではなかったです。いいチームでした」と振り返る。

すべて発散し、新しいステージへ

東大の陸上部には監督もコーチもおらず、自主的に取り組む姿勢が求められる。阿部は教育学部に在籍しながら競技力を磨いてきた。10月の箱根駅伝予選会では全体64位に入り、関東学生連合に選出された。東大からの選出は昨年の近藤秀一につづき2年連続。阿部は「『東大=箱根』というイメージがつけばうれしい」と話していた。その近藤からはGPSウォッチのガーミンを譲り受けたが、その他のアドバイスは「全然ないです」という。「やりたいようにやれっていうことなんだと思います。そういうことなんだと勝手に解釈してます」と笑う。

仲間は阿部を笑顔で迎え入れた(撮影・藤井みさ)

箱根駅伝を走って得られたものは、何かあっただろうか。「得られたものというか、むしろ今まで走ってきて、箱根を目指して得てきたものをすべて発散した場だったと思います。何が得られたかは、これから人生を過ごしていく上でわかっていけたらいいと思います」とどこか客観的な目線でも自分を見ている。4月からは大学院に進み、競技も続けるという。

箱根駅伝で阿部の陸上人生の「第1章」は終わり、これから「第2章」が幕を開ける。その一歩として、3月にびわ湖毎日マラソンで初マラソンにチャレンジすると教えてくれた。目標は「市民ランナーとして長く競技を続けること」だという阿部。「ここを終着点として、また始めたい」という前向きな言葉が心に残った。