陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

駒澤大の後輩たちが流した涙 かなわなかった4年生への恩返しを誓う

ゴール後、石川は中村大成(左)と大坪桂一郎(右)に出迎えられた

第96回箱根駅伝

1月2、3日@大手町~箱根の10区間217.1km
8位 駒澤大 10時間57分44秒

今年度の駒澤大は、出雲駅伝2位、全日本駅伝3位と好調に進んできた。箱根駅伝の目標は往路優勝、総合3位以内だったが、結果は悔しさの残る8位。慰労会で4年生が優勝へ導けなかった責任や後悔を語る中、涙を流す後輩たちがいた。

少数精鋭の4年生が支えたチーム

「いまの4年生は正直、『弱い代』って言われてきました」と中村大聖(4年、埼玉栄)は苦笑いで振り返る。ラストイヤーを迎え、4年生の選手は5人と少ない中、それぞれが自分の役割を持って過ごしてきた。走りで引っ張るのは、駅伝主将の中村大聖をはじめ、山下り6区を2年連続で任された中村大成(4年、東北)、箱根の2区や、全日本のアンカーなど単独走を得意とする山下一貴(4年、瓊浦)。3人とも、大きく崩れることのない安定感が持ち味だ。さらに、チーム全体に気を配る主将・原嶋渓(4年、刈谷)、寮長として生活面で後輩のよき手本となってきた大坪桂一郎(4年、鳥栖工業)の5人で今年度はチームを支えてきた。

2019年3月末、当時主将に決まったばかりの原嶋は「学年間の縦の関係がもっと強くなっていかないと、チームとしてのまとまりも出ない。駅伝となると1年生から4年生、全体の力が大事になってくるので、そういうところを今年は意識してやっていきたい」と話していた。学年間のコミュニケーションを大切にしてきた結果、主将の言葉どおり学年を超えて仲が深まり、日常のジョギングから複数の学年が混ざって走る姿が見られた。

昨年12月の箱根駅伝事前取材で、和気あいあいとした選手たち

4年生への恩返しができず、涙

箱根駅伝後、3日に行われた慰労会では、出走した選手たちが応援してくれた方々へ向けてあいさつをする場が設けられた。そこで4年生からは、優勝へ導けなかった責任や後悔が語られた。その中で、5区の伊東颯汰(3年、大分東明)と10区の石川拓慎(2年、拓大紅陵)は涙を流していた。

伊東は明るく、部員からもムードメーカーと言われる存在だ。2年連続5区の山登りを任され、区間賞を目標にしていたが、結果は1時間13分50秒の区間13位。自身の走りに納得はいかなかった。慰労会で口にしたのは自身の走りの反省に加えて「ここまでチームをいい方向に持っていってくれた4年生たちに自分は甘えていた」ということだった。「本当はこの箱根駅伝で恩返ししたかったんですけど……」と涙を浮かべた。

慰労会で涙を浮かべ恩返しを誓った伊東

石川は今年度の出雲、全日本ともにエントリーするも出走はかなわず、今回の箱根が三大駅伝初出場となった。9位でタスキを受けたとき「もしかしたら自分がシード権を落としてしまうのではないか」と不安だったことを明かした。自身にとっては、今後につながる課題が見つかるなど、駅伝を経験してよかった点もあった。しかし、やはり「4年生や上級生が仲良くしてくれたり、コミュニケーションが取れていて、ちょっとでも恩返しがしたいと思って駅伝に臨んだのですごい悔しいです……」と声を震わせた。

屈辱の8位からの特別なスタート

少人数の4年生がチームを支えてきたこの1年間。「恩返ししたかった」と後輩たちから言われるのは、4年生が信頼されてきたことの証だ。中村大聖は「『どんな展開できても走れる』というような、一人ひとり強い気持ちを持ってこれからチームを立て直してほしいと思う」と個々の強化に期待を寄せた。

伊東は「来年自分たちが3位以上、優勝を狙うという気持ちで走って、それが現実になれば今回の4年生の気持ちというのは払拭できるんじゃないかなと思う」と力強く述べた。

今後最上級生となる3年生たちは学年間でコミュニケーションを取ることは引き継ぎ、さらに駄目なところは駄目と言えるように改善していきたいという。一人ひとりが戦える強いチームを作り、来年の箱根駅伝を優勝に導く。そうすることで今回の4年生の後悔を晴らし、今年果たせなかった恩返しができるのではないか。今年の8位から優勝へ、駒大は前を向いて走り始めている。