目指すべき「応援されるチーム」を作り上げた関大なでしこ主将・吉田絢香
「全員サッカーで日本一」。関西大学サッカー部の毎年変わることのないスローガンだ。240人を超える大所帯。女子サッカーチームの関大なでしこもこの大組織の一角を担う。DF吉田絢香(4年、追手門)はこの1年、関大なでしこの主将として目標達成に向け力を尽くした。誠実にチームと向き合い、ひたむきに走り続けた姿は印象的だった。
初戦の惜敗が悪夢の幕明けに
春に関西学生リーグ1部昇格を果たし、「全日本インカレ出場」を目標に掲げた秋。リーグ初戦は春季首位・大阪体育大に対し、前半はスコアレスと善戦を展開するも、後半にセットプレーから失点し、そのまま試合終了を迎えた。
惜しいゲームに悔しさはあったが、格上相手に手応えを感じた吉田絢は「1部の舞台でも戦える」と自信にもなった。しかし、これが悪夢の幕開けだった。
2節目の聖泉大にはドロー。その次は2試合連続で黒星がつき、中断期間を経たあとの明治国際医療大にも引き分けだった。
DF吉田絢を中心に守備は安定するも、得点が遠い。どの試合でも見せ場を作るが、あと一歩何かが足りなかった。「まだまだ甘い。もっと厳しさを」。吉田絢は主将として、勝てないことへの責任を感じた。そして誰より勝利への鍵を模索した。
DFとして得点を許さなかったら、負けることはない。体を張って堅守に努め、後ろからチャンスを作る。あとは仲間を信じるしかない。練習では、勝つために厳しい言葉もぶつけた。それでもほしかった勝ち点3。勝負の第6節、対追手門大戦を迎えた。
後輩のための大一番
勝利への気持ちは強く、関大ペースでの時間が多かった。だが、一瞬の隙をつかれ、失点。「大丈夫、大丈夫!」と吉田絢の声がチームを鼓舞するも、覆せずに試合は終わってしまった。
この敗北によりインカレ出場はおろか、2部へ降格の可能性さえも出てきた。「勝たないといけない試合で負けてしまった」。吉田絢の目には悔し涙があふれた。
4年生の夢が敗れた瞬間。「1部に残ることが最後に後輩に残せるものだと思う」と、残りの試合は後輩たちのために、リーグ最終節、負ければ降格そして引退の大一番、びわこ成蹊スポーツ大戦に挑んだ。
ようやく見せた笑顔
関大なでしこがピンチのときにはサッカー部全員で戦う。スタンドを埋め尽くすほどの男子部員の姿。アップの段階から声を枯らして応援歌を歌い、選手にとびっきりのエールを送った。そして思いは届いた。
前半から攻めの姿勢を見せ、ついにはFW大田萌(3年、FC大阪CRAVO)が先制点を決めた。ピッチとスタンドが一体となって盛り上がり、後半さらにFW大田が2点目の追加点。DF吉田絢を中心にDF陣も鉄壁の守りを見せる。
リーグ最終節にして初白星をあげた関大は、1部残留の望みをつないだ。ついに、暗闇に一筋の光が通る。「やっと勝てた」と吉田絢はようやく笑顔を見せた。
「うれしい気持ちはあるけど、次の入れ替え戦に気持ちはみんないってると思う」。興奮冷めやらぬ中、最後に関西学院大との入れ替え戦に全身全霊をかけて臨むことになった。
ライバル関学との最後の試合
何度目かの関学大との入れ替え戦。泣いても笑っても最後の試合。毎シーズンのキックオフは同校との定期戦で、長年の付き合いもある。しかし、ここは譲れない。
今回も関大側のスタンドにはたくさんの応援が駆けつけた。笑顔でピッチに入る選手たち。「絶対に勝てる」と吉田絢はどこか確信に近いものを感じていた。ライバルとの一戦は前半から競った展開に。そんな中、少しのチャンスから流れを作り、前半で2得点を奪う。
先制で少し心の余裕ができた。しかし後半、関学大の反撃が始まる。まずコーナーキックから得点を許すと、ギアを上げた攻撃陣が関大のゴールを脅かす。吉田絢は体を張ったプレーと声でチームを奮い立たせた。苦しい時間帯。
吉田絢は、追い詰められたときにスタンドを見上げた。「みんながいてくれる」。ホッと一息。まさに全員サッカーだった。相手の猛攻にも耐え抜き、試合終了間際にはFW大田が駄目押しの一発。見事に勝利を飾った。
目指すべきチームの形
思い描いた通りにはならなかった1年。男子トップチームもインカレ出場を逃す苦しいシーズンとなった。反省すべき点はある。しかし、間違いなく「全員サッカー」は関大が全国に誇れる部分だ。「こんなにも愛のあふれたチームは他にない」
吉田絢女子主将の見せた後輩や仲間への思い、4年生たちが作った「応援されるチーム」。次世代では結果を求めることを問われるが、チームの形として目指すべきはここかもしれない。