陸上・駅伝

いまランニングで気をつけるべきことは? ポストコロナに向けて備えるために

ニューヨークのセントラルパークで、距離をとって走る人たち(2020年4月7日撮影・鵜飼啓)

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で全国に緊急事態宣言、外出自粛の要請が出される中、スポーツも苦しい状況に立たされている。そんな中、生涯スポーツとしてランニング・ジョギング・ウォーキングの普及に務めるランニング学会が4月25日に「外出自粛要請時のランニング愛好者の皆様へお願い」の提言を行った(4月29日一部改定)。提言の意図、いまスポーツができない学生たちをはじめとした競技者へのエールを、ランニング学会理事長の山内武さん(大阪学院大教授)に聞いた。

ランニング愛好者への7項目のお願い

ランニング学会から出された提言は以下の7項目だ。

1. 発熱や咳(せき)のある場合はもちろん、体調に不安のある方は外出をしないでください。

2. 走る前に手を洗いましょう。
走っている最中は、無意識のうちに手で顔を拭う行為などをしがちです。ウイルスのついた手が口や目に触れるおそれがありますので、走る前に手を洗うことが感染のリスクを減らします。

3. 密集・密接をつくらないよう、一人で走りましょう。
今は、同居している家族等と走る場合を除き、人と一緒に走ることはやめましょう。

4. ランニング中も感染拡大防止の対策を取りましょう。
周囲の人やランナーと距離を保ちましょう。
競技場や多くのランナーが集まる人気のコースや時間帯を避けましょう。
人とのすれ違いや追い抜きの際は、近づき過ぎないよう気を配りましょう。
ランニング中にツバを吐いたり、手鼻をかむのは止めましょう。

5. エチケットとして、マスクまたはフェイスガード等の着用をお勧めします。
口や鼻をマスク等で覆うことで、咳やくしゃみ、呼気による飛沫拡散の可能性を低くします。
汗を拭うために無意識に口や鼻、目を触らないよう気をつけてください。
マスク等をしても息苦しくないぐらいのゆっくりとしたペースで走ることを心がけましょう。

6. ランニングが体調不良やケガの原因にならないようにしましょう。
交通事故や転倒などの危険のないコースを選びましょう。
外出自粛要請時の「ジョギング」は、運動不足解消を目的として、頑張り過ぎないようにしましょう。無理に走り続けようとせず、歩いたり走ったりを繰り返す方法(間欠ジョギング)もお奨めです。

7. ランニングを終えて帰宅したら手洗い、うがいを行いましょう。また、十分に睡眠をとりましょう。
感染予防の基本は、こまめな手洗いです。そして、その順番も大切です。
まず手を洗い、次に顔を洗って、それからうがいをして下さい。
先にうがいをすると、かえって、ウイルスが口の中に入ってしまう恐れがあるからです。
疲労した状態では、一時的に免疫のはたらきが下がることがあります。

ランニング学会ホームページ「外出自粛要請時のランニング愛好者の皆様へのお願い」より

通常、学会からの「提言」は慎重になされることが多いが、この状況下にあって「なるべく迅速に、誤解を招かないように」とまとめられた。すでに健康維持のためにランニングをしている人たちに向け、こういう点に気をつければ大丈夫ということ、そして敢えてエチケットの点についても触れた。

大切なのは「社会的距離」

いま、SNS上でも「ランニング中にマスクをするべきか」が論争になることが多い。山内さんは「マスクをすることで、自分がもし潜在的(無症状)感染者だとした場合は、拡散を防げる効果があると思います」という。しかし、マスクをしたからといって完全に安全、うつらないという保障はどこにもない。「マスクをしさえすれば走ってもいい」という考えではなく、いちばん大事なのは社会的距離(ソーシャルディスタンス)だと強調する。

「とにかく人にうつさない、飛沫がかからないということが重要です」。最近では「ランニングの際は10m以上の距離が必要」という海外の論文もあるが、山内さんはこの論文についてはまだ査読が行われておらず、議論の余地、疑問の残るものであるとも教えてくれた。「2m以上の距離をあけるべき、というのははっきりしているので、そこをしっかりと守ってもらえればと思います」

わざわざ皇居のように有名スポットに走りに行くのは今は避けたい(2020年4月28日撮影・林敏行)

そして「この状況ではスポーツをやっているだけで批判を浴びることもあり、批判が過剰になりすぎていることには危惧を覚えています」と現状への懸念も口にする。「外出自粛要請が長期で続くとなると、長い目で見たら家にこもって何もしないでいることのほうが体にはよくありません。人混みを避けて、家の周りなどでコースや時間帯をよく考えて、ジョギングやウォーキングに取り組んで健康を維持してほしいなと思います」

会わないからこそ、コミュニケーションを

山内さんはかつて大阪学院大女子陸上部で監督を務め、高橋尚子さんの指導にもあたった。いまは現場からは離れているが、教授として日々学生に授業をしている。授業はzoomを使ったオンラインで行っているが、学生が孤立し始めていると感じることもあるという。「特に新入生は、大学に入ったばかりなのに他の人と全く会わない状況です。なんとか学生にしっかり話しかけていこうとは思っています」。しっかりとコミュニケーションを保つことの重要性を感じているという。

大会が延期・中止になり、どのスポーツも練習すらできていない状況だ。「できないではなく、いまできること、に頭を切り替えて。室内でできるストレッチや体幹トレーニング、屋外では人の少ない場所でのランニングなどで、基礎体力をきちんと維持していってほしいです。そうすれば再開してから早めにもとに戻れます。基礎をきちんとやりましょう」と学生アスリートたちにメッセージを送る。

視野を広く持ち、複数の手段を考えて

他方で、最終学年となる4年生がモチベーションを保ちにくいことに対しては、就活との両立もあり難題だと考えているという。「これだ、という解決策はないですが、今後は仕事も働き方改革で効率化が進まざるを得なく、変わっていくと思います。そうなった時に今よりも時間がたくさん生まれる。競技スポーツとしてはできなくなってしまうかもしれないけど、生涯スポーツとして一生できる、という考えにどこかで切り替えないといけないのかなとも思います」

その上で、「視野を広く持つこと」の大切さを訴える。「『これしかない』と思って極める人は稀にはいますが、ほとんどの人はそれだと早くに行き詰まり、挫折してしまいます。登山ルートに例えると、1本道しかしらなかったらそこががけ崩れになればだめになってしまう。あらかじめ複数のルートを持っていれば、1箇所がだめでも他、とリカバリーしていけると思います」

スポーツの中でも1人でできるものは再開が早いのではと山内さんはいう(2019年8月撮影・藤井みさ)

これは今の状況下に限らず、スポーツを続けていく上で持っていてほしい考え方だという。「誰でも『自分の限界』を感じることがあると思います。その時に基本に返り、いろんなルートを探してほしいです」。いつでもベストにしたいと考えていると辛くなってしまう。その時にできるベターなことを続けていくこと。「これしかできない、これが全てだと思っていると変わっていけません。いろんな可能性を考えながら続けていってほしいですね」

今後、段階的に活動が再開されていくにあたり、山内さんはスポーツも競技によって再開の時期に違いがあるのではないかと考えている。まずは接触が少ないものから。例えば陸上競技などだと、1人でのタイムトライアルなら現状でも可能だ。そこから徐々に複数になり、小規模な大会から再開していくだろう。「リスクが少ないものから徐々にやっていくのが現実的なところだと思います」

スポーツが再開されるその日に向けて、今は一人ひとりができることを。苦しみ考えたことは必ず未来の糧となるだろう。