大学陸上・駅伝

神野大地から学生アスリートへ「最後まで諦めず、挑戦的な選択をしてほしい」

プロランナーとして挑戦し続ける神野大地。今だからこその思いを聞いた(2019年9月MGCレース前、撮影・佐伯航平)

青山学院大学時代に箱根駅伝で「山の神」として全国的に名前を知られ、今はプロランナーとして活動する神野大地(26、セルソース)。GW期間中、新型コロナウイルスの影響で大会開催の見通しが立たない学生に対して1対1のオンライン面談を行った。今の状況でのモチベーションの保ち方や、学生たちへのメッセージをオンライン取材で聞かせてもらった。

実業団選手も巻き込んだオンライン面談

神野は4月23日、Twitterに「最高学年(中3・高3・大4)の学生アスリートを対象に1対1のオンライン面談をさせて頂きます。」と投稿した。1人40分程度、5月2~6日の間に5人と面談するとして募集を始めたが、締め切りまでの6日間の間に予想を超える140人からの応募があったという。

この反響の大きさに、神野は「できるだけ多くの人に面談の機会を持ってほしい」と考え、知り合いの選手などに声をかけた。結果的に今年実業団に進んだ相澤晃(東洋大~旭化成)、鈴木塁人(青山学院大~SGH)ら男女合わせて12人のトップ選手が賛同。合計で60人の学生たちとの面談が実現した。これらはすべて無料で行われた。

プロランナーという立場だからこそ自由に動けて、新しい試みができたのでは? と聞くと「実業団に所属している選手たちも『なにかしたい』という気持ちはあったけど、なかなか自分たちが主導で動くのは立場上難しかったりすることもあります。でも自分がこうして声を上げたときに協力してくれた。陸上界としても初の試みだと思うし、やってよかったなと思います」と手応えをにじませた。

諦めないで今できる精一杯を

神野自身はゴールデンウィークの5日間で12人の学生と面談をした。「みんな真面目に質問を考えてくれていて、メモを取りながら聞いてくれました」。中、高、大まんべんなく、陸上だけでなくサッカー・カヌー・テニスなど他競技の選手もいた。競技の相談というよりは、人生、進路についての話題が多かった。

一人あたり40分。学生の悩みや迷いを正面から受け止めた(写真は本人提供)

「今はみんなが同じく厳しい環境で、しかもコントロールできない状況にあります。その中で自分自身がどう動くか、与えられた環境で精一杯の努力をすることが大事、ということを話しました」。コロナのせいでスポーツがだめになってしまった、となるのはもったいないという神野。こういう時期だからこそ「どう動いたか」が今後の人生の財産になると語る。

Twitterでも「いち早く立ち直って前を向いてほしい」と発信した。「悩むことがダメというわけではありません。でも悩んでいる間に、前に進んでいる人もいる。悩んで立ち止まっているだけでも時間が流れているので、それがもったいないと思います。どうしようもできないからこそ、前を向いていくしかないと思います」

今年2月の唐津10マイルで、トップと4秒差の4位となった(撮影・mamiko yamamoto)

面談を受けた学生たちからは「考えを整理できた」「モチベーションを上げられた」という声が多かったという。今だからこそのオンライン面談だったが、可能性を感じる機会ともなった。「普段イベントを開催して、会いに来て、といっても特に学生だとその地域に住んでいる人以外はなかなか難しい。オンラインならどこにいてもつながれるし、今後この状況が落ち着いてもいろんなことができるんじゃないかなと思います」

ワクワクする挑戦的な選択をしつづけて

前向きな言葉を発し続ける神野だが、落ち込んだりすることはないのだろうか。「結果が出なかったりしたら、落ち込むことはあります」という。そんなときは、親やトレーナー、コーチ、マネージャーなど、自分の目標に一緒についてきてくれるメンバーのことを考えるようにしている。「特に陸上は個人競技なので『自分だけで頑張る』っていう思考になりがちなんですけど、頑張る理由っていっぱいあっていいと思うんです。家族を喜ばせたい、あの人に笑顔になってもらいたいとか……。いっぱいあったほうが前を向けたり、もうひと踏ん張りできるんじゃないかなって思います」

今回は進路がかかる最終学年に絞っての面談だったが、競技継続の可能性がある中学生、高校生と、卒業とともに大半が競技をやめる大学生ではまた状況が異なってくる。大学生アスリートについてかける言葉を聞いてみると「試合がなかったとしても、やりきってほしい」という。「もしこの先試合がなくなってしまっても、練習を積み、『最後までやりきった』という事実は残ります。今ここで諦めてしまうと、今後、後悔してしまうのではないかと思う。目指してきたものを最後までやり遂げるということは、人生にも通じる部分があると思います」

ケニアでのトレーニングで己を鍛えるなど、ワクワクする挑戦を続けてきた(写真は本人提供)

そしてこう続ける。「人生の選択を迫られたときは、挑戦的な選択をしてほしいと思います。僕も実力はなかったけど、中学の時に挑戦して公立じゃなく、私立の強豪高校(中京大中京)に進んだ。大学選びもそうです。挑戦した先で努力して結果に結びつけてきました。若いときに挑戦しておけば、社会人になってからも挑戦することに対してのハードルが低くなります。ワクワクすると思ったらそちらに進んでみてほしい。それがダメでも『失敗』ではなく、『経験』になると思います」。それは実業団からプロランナーという選択をし、誰も先にいない道を歩いている神野自身が続けてきたことでもある。「プロになったのだって、『すごいね』って言われますけどすごいとは思ってないです。自分が後悔したくないからプロの道を選びました」

この状況下でも練習はある程度積めているという神野。練習以外の時間の過ごし方を聞いてみると、これまで苦手だった読書を始めたという。「これをきっかけにルーティンにしていければいいなと思います。これも新しい挑戦ですね」。YouTubeでエクササイズを配信するなど、家にいる時間を過ごす工夫も発信し続けている。

プロランナーとして結果を出し、競技以外でも陸上界を発展させていきたい。その思いでどんな状況でも神野は「挑戦」をつづけていく。