アメフト

キャプテン鶴留がつくったファイターズの集大成を 2017年関学主将・井若大知さん

3年前の甲子園ボウルでは関学がQB西野のTDで先行したが……(撮影・朝日新聞社)

アメリカンフットボールの第75回甲子園ボウルは12月13日、阪神甲子園球場でキックオフを迎える。関西代表の関西学院大学と関東代表の日本大学が甲子園で30回目の勝負に臨む。前回の対戦は2017年で、日大が23-17と関学を下し27年ぶりの学生王者となった。当時関学の主将でOL(オフェンスライン)だった井若大知(いわか・だいち、24、現・箕面自由学園高コーチ)さんが学生ラストゲームを振り返り、現役選手たちへのエールを送ってくれました。

3年前の甲子園ボウル前に、日大の山崎主将(左)と健闘を誓い合う井若さん(撮影・朝日新聞社)

今シーズンが始まったときから、関学と日大が甲子園に来るもんだと思ってました。もちろん関学のOBですし、「ファイターズ勝ってくれ」と思うんですけど、一番いろんなことを乗り越えてきたフットボールのチームが日大フェニックスだと思うんで、そこは素直に「日大頑張れ」とも思ってます。

「3年前、僕らは過信してました」

3年前、日大は若いチームだったし、僕らは完全に過信してました。絶対に勝てると思ってました。リーグ最終戦で立命(館大学)に負けて、そこから苦しんで必死で練習して、西日本代表決定戦で立命に勝って。いま思えば、関学ではあり得ないぐらい雰囲気が緩んでました。鳥内(秀晃)監督からは「お前ら、57対0で勝て」って言葉が出ました。甲子園ボウルの最多得失点差記録が、関学が日大に負けたときの56点差(1978年、関学7-63日大)だからなんですけど、ちょっとおかしいなと思って僕が監督に意見してもめてしまって。4年を中心に「日大は強い。このままやったら負ける」って言い続けて練習したんですけど……。

試合が始まって、最初のオフェンスの2プレー目でエースレシーバーの松井理己(現・富士通)がけがをしてしまったんですけど、そのシリーズで先制タッチダウン(TD)をとって、「いける、いける」ってなりました。僕は左のタックル(T)に入ってたんですけど、相手のLB(ラインバッカー)の楠井(涼)とDB(ディフェンスバック)のブロンソン(・ビーティー)の速さが想定通りだと思ったぐらいで、とくに日大のディフェンスには脅威を感じませんでした。

日大のQB林大希は1年生の時の甲子園ボウルで躍動。けががどこまで回復しているか(撮影・朝日新聞社)

ただ日大の最初のオフェンスで驚きました。ちょうど治療に行ってるときに見たんですけど、2プレー目に1年生のQB(クオーターバック)林大希がロングパスを投げたんです。ウチのDBがレシーバーに抜かれてて、でもボールはまだその奥まで飛んでて。パスは失敗でしたけど、ボールの伸び方がえぐかった。「まずい。これはパス通されるかもしれん」って思いました。

「まったく焦ってない」実は、焦っていた

日大に3点リードされて前半が終わりました。ハーフタイムにオフェンスコーディネーターだった大村(和輝)さん(現・監督)が僕のところに来て、「焦ってるか」と聞かれました。「まったく焦ってはないです」って返したんですけど、「勝たなあかん、勝たなあかん」ってのがあって、焦ってましたね。大村さんは「困ったら左サイドのランでいくからな」と言ってくれました。僕はほぼずっと、日大の2年生だったDL(ディフェンスライン)宮川(泰介、現・富士通)とマッチアップしてました。僕は宮川を完封したので、富士通でチームメートになって一緒に飲む機会があったときに「あの日は相手が悪かったな」って言って笑い合いました。

後半になるといよいよ焦る展開になってきました。第3クオーター(Q)に10点を追加されて10-23になりました。第4Qに入ってすぐ、RB(ランニングバック)山口(祐介、現IBM)のTDで6点差に追い上げました。まだ14分以上残ってたんですけど、焦ってましたね。まだディフェンスがいかれるやろ、と思って。(TDを)もう1本取られてオフェンスに回ってきて2本取らなあかんな、とか。それも時間をどんだけ使えるかやな、とか。

6点を追いかけて残り6分36秒、自陣1ydからのオフェンスが始まりました。時間を使いながら攻めて、敵陣に入ったんですけど、ゴール前35ydで第4ダウンに追い込まれました。残り時間は2分を切ったところで、フレッシュ(攻撃権更新)まで6yd。パスにいきました。左サイドからはコーナーバックブリッツが入って、僕はしっかり見えてたので対処しました。そしたら歓声が上がりました。「タッチダウン決まったんかな」と思ったら、沸いてるのは日大側のスタンドで。「まさか」と思って振り向いたらQBの西野(航輝)がコケてて、(パスをインターセプトした)日大の楠井が走ってて。「マジか」と思いました。

負けて、関学サイドの観客席からのヤジを聞いた後輩が泣いてて。「こいつらに申し訳ないな。何を残してあげられたんやろ」って考えてたときに、観戦に来てくれてた立命のヤツらが「ダイチー」って声をかけてくれました。一気に号泣してしまいました。

関学キーマンは奥野、繁治、海﨑

関学のオフェンスを引っ張るのはQB奥野(撮影・北川直樹)

関学のキーマンはオフェンスがQBの奥野(耕世、4年、関西学院)、ディフェンスがLBの繁治(しげじ、亮依、4年、関西学院)と海﨑(かいざき、悠、4年、追手門学院)だと思ってます。

奥野は1年のとき、かわいい弟のような存在でした。誰彼構わず近寄ってくるんで、「かわいいな」って頭をなでたりしてました(笑)。2年、3年と頭角を現してきて、こないだの立命戦前の練習に顔を出したら、しっかりオフェンスを引っ張ってました。たぶんキャプテンのRB鶴留輝斗(つるとめ・きらと、4年、啓明学院)がそんなに試合に出られない分、プレーでは自分が引っ張るという気持ちがあるんやと思います。こないだの立命戦みたいな展開になって、3年前にはできなかった逆転勝ちを奥野がやりきったら、カッコいいですね。

立命戦では不調だった海﨑(44)と繁治(40)の副将コンビにとっても最後の甲子園ボウルだ(撮影・北川直樹)

繁治と海﨑の二人は極端に負けず嫌いでマジメなところが似てます。繁治は一回やられたらすぐ頭に血が上るんで、ディフェンスの鑑(かがみ)みたいなヤツです。海﨑がいろいろ考えないで本能でプレーできたら、たぶん誰にもブロックされません。DLが頑張って押されないで、二人がマックスで動ける状態だったら日大のオフェンスも止められるはずです。

日大は変わった、必死にやって戻ってきた

こないだ鶴留と電話でしゃべりました。記者会見では「リベンジしたい」って何度も言ったみたいで。それはうれしいんですけど、「お前のチームやねんから、お前が1年かけてつくってきたファイターズとしてぶつかるのが大事やで」って話をしました。日大に対して言いたいのは、2年前の定期戦のあとからチームが変わって、必死にやって甲子園に戻ってきたと思うので、日本一になりたいという気持ちを素直にフィールドで出しまくってほしいということです。エースQBの林大希はけがをしたみたいですけど、性格上「ボロボロになってもやったる」というタイプやと思います。

当日は僕も甲子園に駆けつけます。しびれるゲームを目に焼き付けたいと思います!!