陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

法政大で21年ぶり箱根駅伝1区区間賞獲得の鎌田航生 「オレンジエクスプレス」再来

鶴見中継所、トップで襷渡しをする鎌田(左、撮影・北川直樹)

第97回箱根駅伝

1月2、3日@大手町~箱根の10区間217.1km
法政大 総合17位 11時間13分30秒
1区区間賞 鎌田航生 1時間03分00秒

箱根路に新たな息吹をもたらす「オレンジエクスプレス」。法政大の1区を務めた鎌田航生(3年、法政二)が見せたスパートは衆目の度肝を抜いた。法政大が1区の区間賞を獲得したのは、実に21年ぶりのことだった。

頭に浮かんだ「区間賞」の文字

1区は戦前の予想とは裏腹に驚愕のスローペースから始まった。東海大の塩澤稀夕(4年、伊賀白鳳)や青山学院大の𠮷田圭太(4年、世羅)など有力選手がそろった中で、皆が牽制(けんせい)し合う展開に。他校のエースたちはこれでは意味がないといわんばかりに何度もスパートを仕掛けるがそう長続きはしない。

「ペース変化にいちいち対応するとリズムも崩れますし、脚も使ってしまう」。集団の後方で周囲を見渡していた鎌田は冷静だった。「例年、六郷橋の所で誰かが動くので、そこまでしっかり脚を残しておくことを意識していました」と振り返るように、小刻みなペース変化に動じず、じっくりと好機をうかがっていた。

大集団のままレースは後半戦に突入。勝負所として挙げていた六郷橋のポイントがいよいよやってきた。鎌田がにらんでいた通り、六郷橋の上りで東洋大の児玉悠輔(2年、東北)がまず仕掛ける。

集団から一人また一人とこぼれ落ちる選手が出てくるが鎌田にはまだ余裕があった。「自分から仕掛けてあわよくば逃げ切ることができれば」。このとき鎌田の頭に「区間賞」の文字が浮かんだ。

わずか数カ月で見せた進化

さかのぼれば、鎌田は今大会の出場権を得た10月の予選会では先頭集団に着いていく積極果敢なレースを見せることはなかった。坪田智夫駅伝監督は「力を発揮すればもう少し日本人トップを争えたのかなというところですが、レースを冷静に見ながら走る気持ち的な成長は彼には必要なのかなと思っています」と鎌田を評価していた。

そんな鎌田がわずか数カ月という期間で見せた進化はすさまじいものだった。名だたる選手たちに臆することなく一気に先頭へ。鎌田がこれまでの自分の殻を破った瞬間だった。

21年前の「オレンジエクスプレス」を再現

「残りは3kmしかなかったので、あそこで仕掛けても最後までスタミナが持つ自信はありました」と満を持してのスパート。鎌田の仕掛けで一気に集団がばらけ、東海大の塩澤との一騎打ちに。「ロングスパートに得意意識はなかったので正直、塩澤選手に負けるのかなと思っていました」。

最後の力を振り絞りスパートする鎌田(代表撮影)

追ってくるのは学生長距離界を代表する選手。抜かれるかもしれないという恐怖を感じながらも「トップに近いところで2区につなぐ」という一心で鶴見中継所を目指した。近づいてくる足音に対して二段、三段とスパートをかけて影を踏ませず、ラスト1km地点で区間賞を確信。そのままトップで中継所に飛び込んだ。

「終始冷静にレースを進めて素晴らしい走りだった」と坪田監督は教え子が見せた成長を称える。法大にとっては実に21年ぶりとなる1区の区間賞。第76回大会(2000年)で徳本一善(平13年度卒=現駿河台大駅伝部監督)が抜群のロケットスタートを決め、「オレンジエクスプレス」の愛称を世間に轟(とどろ)かせた当時の光景を見事に再現して見せた。

鎌田にとって大学駅伝の区間賞は今回のレースが初めて。誰もが憧れる箱根駅伝の1区でタイトルを手にした鎌田は「箱根だけではないというところを見せつけたい」とさらなる飛躍を誓った。

大学ラストイヤーとなる来季は「法政のエース」という看板を背負いながら「オレンジエクスプレス」の名のごとく、猛スピードで突き進んでいく。