慶應大アメフト部主将・寺岡衆 後輩に託したチーム再建への思いと覚悟
慶應大アメフト部が、関東学生アメリカンフットボール1部BIG8を制した。活動自粛を乗り越え臨んだ昨季、慶大は攻守で他を寄せ付けず、プレーオフを含めた5試合を全勝で駆け抜けた。
約1年ぶりの公式戦を戦ったチームの精神的支柱となったのは、主将の寺岡衆(しゅう、4年、東京都立西)だ。LBとしてディフェンス陣を率いるだけでなく、サイドラインでも選手を鼓舞し、その声かけで、背中でチームを勢いづかせた。
模索し続けた「応援されるチーム」のあり方
毎試合後のインタビューで寺岡がたびたび口にしていたのが「圧倒」の二文字だ。昨季のチームスローガンでもあるこの言葉と向き合いながら、一戦一戦を勝ち抜いていった。「単純に勝てばいいのではない。点数でも内容でも相手を圧倒した。どうやって勝つのか、どんなプレーをするのかそこが重要」と語る彼が感じていたのは、強い責任感であろう。
練習すら思うようにできない環境の中、TOP8から降格して迎えたシーズンを前に寺岡は「応援されるチーム」のあり方を模索していた。試合に勝つだけでは、応援されるにふさわしいチームになれない。試合前、試合中、試合後その全てで完璧なチームであり続けることを求めた。
どれだけ点差のついたゲームでも最後まで厳しく他の選手を叱咤激励し、誰よりも目の前のプレーの重要性を説いた。アメフトは戦略がものを言うスポーツだ。味方が攻撃をしている間も次の守りに向けて、綿密な話し合いや直前のプレーの振り返りを行う。その中でも寺岡はフィールドから目を離さず、慶大アメフトに足りないものを探していた。
「アメフト部はどのように映っているか」
フィールド上でも彼の好守が光る。リーグ戦3試合の中で寺岡があげたQBサックはわずかに1回。それでも幅広い視野で様々なシチュエーションをカバーし、相手にロングゲインを許さない彼の姿勢はチーム全体の喪失ヤードの少なさにも現れている。強力なDLを擁する慶大に対し、フィールドを左右に駆け抜けるスイーププレーで対抗した駒澤大オフェンスなどに、素早い反応と正確なヒットで応戦する寺岡の活躍は、何度もチームのピンチを救った。
チームメートだけでなく、大学アメフトを取り巻く多くの人への気配りも欠かさない寺岡は、幾度となく報道陣である我々に「アメフト部はどのように映っているか」という客観的な感想を求めていた。チームのリーダーでありながら、常に周囲の声に耳を傾けようという姿勢が印象に残る。
どれだけ結果を出し続けても、どれだけ勝利の余韻に浸りたくても、応援されるチームに必要なものを探し続けているように見えた。「どんな言葉でも、生まれ変わった僕たちを証明することはできない。プレーの中で、普段の行動の中でしかチームの目指しているものを示すことはできないと思う」と、強い覚悟をにじませながら限られた公式戦の戦い方を考えていたに違いない。
後輩に伝えたかった思い
最高の結果を残した昨季は入れ替え戦が行われなかったため、残念ながら今季もTOP8に戻ることはできない。それでも寺岡をはじめとする4年生たちは、「後輩に何を残せるか」を考えながらプレーしていた。結果を出すだけでなく、どのようなアメフトをするのか。
一つ一つのハドルに込められていた思いは確実に次世代のユニコーンズに伝わっているはずだ。先輩に新たな歴史のバトンを手渡された今季の選手たち。彼らが戦い続ける道の先に、夢を叶える場所は待っている。応援するファンの姿もそこにはある。