駒澤大3年生エース・福山優希 ひたむきに努力し、その先の夢をつかむために
昨年、3人のプロ野球選手が誕生した駒澤大硬式野球部。今季は新主将の新田旬希(しゅんき、4年、市立呉)を中心にチーム一丸となって東都大学野球春季リーグを戦っている。新チームの中で、特に注目すべき選手はピッチャーの福山優希(3年、八戸学院光星)だろう。
衝撃を与えたルーキーイヤー
一昨年の東都大学野球春季リーグ、2部優勝の専修大との1部・2部入れ替え戦。1戦目を落として後がない状況で迎えた2戦目と残留を決めた3戦目の先発マウンドを任されたのは、当時入学して約3カ月の1年生、福山優希だった。
チームの命運がかかる入れ替え戦は、計り知れないプレッシャーや緊張感により「入れ替え戦の100球は200球と同じ」という言葉があるほど、心身ともに疲れると言われている。それでも「駒大の長い歴史の中でやっている以上は、1年生であることは関係なく任された試合はやるべきことをやらなければならない」と話したルーキーは堂々たるピッチングをやってのけた。
後がない2戦目では7回途中まで投げ、自責点2で粘りの投球を見せると、残留を決めた3戦目では1失点の完投勝利を収めた。試合終了後、元横浜DeNA監督で駒大硬式野球部OB会長である中畑清氏に「後光が差していた。リーグ戦なんて比にならないぐらいのプレッシャーの中で、2試合続けてこんなに投げ切る1年生がいるとは」とまで言わしめ、相手校、専修大の齋藤正直監督も「いいピッチャーになると思う」と福山を称賛した。
思うように投げられず、苦悩の日々
華々しい大学デビューを飾った福山。昨年はエースの竹本祐瑛(2021年卒、現JR東日本東北)との2枚看板で、さらなる活躍が期待されていたが、2年生の春に肩を負傷してボールを投げることができず悔しい思いをした。ただ、福山はそこで立ち止まるのではなく、この期間を使って自分にとって何ができるのか、有意義に時間を使うことができないかということを考えて行動し続けた。
そこで、大倉孝一監督をはじめいろいろな方からのアドバイスやサポートを受け、もう一度フォームについて見直した。また、併せて体重も1年時と比べて10kg以上意図的に落とし再起を図った。
迎えた昨年の東都大学野球秋季リーグ。しかし、そこでは本調子が出ない苦悩の日々を送っていた。昨季初登板となった対亜細亜大1回戦では、要所を抑えることができず3失点。1イニングを投げ切ることができずに降板しこの試合の負け投手となった。以降も調子が上がらず、昨季は一度も先発のマウンドに立つことはなかった。
「考えがないまま、その場しのぎのピッチングを毎試合続けていたような形だった。何を反省するのかというのも曖昧だったので、出た結果も本当に合っているのか疑問に感じた。すべてをまとめて自分に力がなかった」と福山は昨季のリーグ戦を振り返った。
いま自分の持っているもので勝負するために
シーズンオフの冬の期間は、スピードを上げていくことやコントロールを良くする、変化球の精度を上げるための技術面の取り組み以上に、頭の整理に時間を割いた。その理由は「技術面の取り組みは、野球を続けている以上ずっと取り組んでいることであるが、いざ試合になると、自分の持っているもので戦うしかない。なので、自分が求めているものとは別に、今自分ができる配球や試合をどう進めていくかを考える必要があると感じたから」だと言う。
一冬越えて迎えた春季オープン戦では「どんな調子であれ、この試合は何で勝負することができるのかということを自分で考えてキャッチャーと話をして、後からどういう意図でそのボールを投げたのかちゃんと説明できるようなピッチングを」ということを心掛けて日々の試合に臨んだ。
それは、昨季のリーグ戦でも身をもって感じた、調子はその日によって変化し、常に調子が良い状態で投げることができることはほとんどない、という経験が生きている。
3年生エース誕生
新型コロナウイルス感染拡大の影響で2年ぶりの開催となった東都大学野球春季リーグ。福山は3年生ながら駒澤大のエースナンバー「18」を背負って戦うことが決まった。
森田遥輝学生チーフコーチ(4年、京都外大西)は「3年生がエースナンバーをつけることに異論を唱える人は誰一人いなかった。福山のおかげで1部にいることができているということもあるが、福山の日頃の生活や野球に対する姿勢を誰しもが見ているから」と話し「福山が投げているのだから何としてでも勝たないといけないとメンバーが思うようになっている。福山は3年生でその空気感を出すことができている選手」と続けた。
4月5日の駒澤大にとってのリーグ初戦。相手は強豪校がしのぎを削る戦国東都1部で毎年上位に食い込んでいる國學院大。開幕戦のマウンドには3年生エースの福山が上がった。しかし初回に浮いた変化球を2番川村啓真に運ばれ、先制の本塁打を許した。その後も要所を抑えきれずに5回を投げて3失点。ほろ苦いリーグ戦のスタートを切った。
中3日で迎えたこのカードの2戦目。先発のマウンドには初戦と同じく福山が上がった。この日の福山は2年前の輝きを完全に取り戻したとも言えるようなピッチングを見せた。
自分の持ち味とも語る相手バッターの弱点を攻める強気の投球で、強打者がそろう國學院大打線を抑え込み、被安打4、与四死球2、奪三振5の1失点。挫折を乗り越え2019年春の入れ替え戦以来の完投勝利を収めた。
試合後のインタビューで、大倉監督は「福山はとにかく練習をする。考えて練習をする。すぐ結果が出る、ということは福山に限らず誰にもない。練習している態度が結果につながったのは、監督としてもうれしい」と頬を緩めた。
福山は春季リーグ戦で5月10日からの東洋大学戦を残し、ここまで全10試合に登板してきた。6、7日の青山学院大学戦では1回戦に七回途中まで111球を投げた後、翌日にも先発、137球で投げ切って初完封勝利を挙げた。
プロになるために
監督や日頃から練習や生活を共にしているチームメートが口にするように、福山は練習だけでなく、研究も熱心でとにかく野球に対する意識が高い。自分のルーティンを持っており、何時から試合や練習が始まろうが、グランドに入る時間やアップ内容に自分なりのこだわりを持ち、毎日同じ準備をし続けている。日々の食生活や私生活にも高い意識を持ち、まさにアスリートと呼ぶのがふさわしい選手だといえよう。
福山がここまで日々の練習や生活に真剣に向き合うのは、プロ野球選手になるという目標を達成するためだ。自分の現状の能力については「スピードや変化球といった技術はプロに行くためにはまだ全然足りない」と話した上で、「1日で急に150 キロが出たり、変化球のキレが良くなったりするわけではない。長い時間をかけて日々の練習にひたむきに取り組んでいきたい。また、相手バッターをしっかり見て、自分のボールでどう攻めていくかということを考えすぎるくらい考えていくなど、野球のIQも上げていきたい」と意気込んだ。
戦国東都を勝ち抜き、その先の夢をつかむため。酸いも甘いもかみ分けた3年生エースから今季、目が離せない。