野球

日体大・中村拓磨 チームの目標達成のために、学生監督として考えること

監督といっても裏方の仕事はなんでもやる(写真はすべて本人提供)

日本体育大学軟式野球部で学生監督を務める中村拓磨(2年、城北埼玉)。90人の部員をまとめるリーダーとして、どのように計画を立て、チームをまとめていくのか。今までの中村の経験も交えながら話を聞いた。

コーチングのおもしろさにハマって

中村は中学から本格的に野球をはじめ、高校の部活を引退した直後に監督に直訴し、学校史上初の「学生コーチ」となった。コーチングの面白さに目覚めてハマってしまい、受験勉強では一浪しました、と苦笑する。中学時代の監督と接し、「こんな人になりたい」と考えていた中村は、監督と同じように日体大の軟式野球部に入部した。

はじめは選手兼マネージャーだったが、裏方の面白さ、重要さを身にしみて感じ、当時の学生監督に「マネージャーに専念したい」と申し出る。そこで監督に「コーチとして関わったほうが、部にとってもメリットがある」と話をされ、1年生の1月から学生コーチに。スタッフが少ないため、いきなり2軍の60人をほぼ1人で見ることになった。

「はじめは本当にできるのか? と考えてしまったり、ネガティブな気持ちが出てしまったりして、チームがバラバラになりそうな時もありました」。しかし本を読んだり、人に相談したりなどして、「ポジティブな言葉を発しよう」と発想を転換。言い続けることで2軍チームはまとまり、「今はどこに出しても恥じないような立派なチームになりました」と胸を張る。

現実的な目標で意識づけ

新チームが始まり、中村は学生監督としてチーム全体を見る立場になった。新チームが始動するにあたり、学年間で目標を話し合い、その中でも目標を短期、中期、長期にわけて設定することを意識した。「まず長期のゴールとして現実的なものを設定し、そこから逆算してプロセスを考えていくようにしました」。今までのチームでは「全国制覇」と目標に掲げていたが、そこまでは至らず、ただ「言っているだけ」になってしまっていた。より意識を向けられる目標を長期で設定しようと決め、しっかりと話し合った。

「全国に出たとしても、全国で勝ち進めない、という状況でした。だから目標としてはまずはリーグ戦を勝ち抜く。全国で勝つには、能力と戦略、プラスなにかがないと上では勝てないんだなと思いました」。そのために中村が考えたのは、データを活用し、アナリスト的要素を取り入れることだ。

とはいえ、いままで日体大軟式野球部にはアナリストはいない。そのため中村は東大野球部でアナリストとして発信していた齋藤周さんにDMをして、実際に取ったデータをどう野球に生かすかなどを教わった。とりあえずはまず、1人で始めてみたいという。「なかなか選手兼アナリスト、となると難しいのかなとも思っています。本当は動画編集とかも含めてできるような、アナリストの部員を募集しようかなとも考えています」と計画を話す。

データの活用は今後ますます重要性を増してくる

軟式野球部には専用グラウンドはなく、ソフトボール部、ハンドボール部、ラクロス部、アメフト部と共用で使うことになっている。そのため毎日実戦形式の練習ができるわけではない。その中でできることを見つけるように、工夫する日々だ。練習メニューは投手、内野、外野それぞれのリーダーと、主将、副主将からなる「リーダーズ」と話し合って決めている。

中村は「よく『質』と『量』というワードが出ることが多いですが、自分的にはどっちも追求しないといけないと思っています」と話す。質だけではだめだし、量だけでもだめ。効率のいい練習とはなんだろうか? と考え、選手にも聞きながら練習方法を模索している。「コーチ、監督という役職はついてますが、学生同士ではあるので。そこは変に壁を作らず、意見を聞き、取り入れながらやっています」

「やってやるぞ」リーダーの自覚を持って

主力であった中村たちの上の代が引退し、「次の代から日体大は弱くなる」という声も聞こえてくる。しかし中村は「見てろよと思ってます。ある種、楽しみの方が大きいかもしれません」と笑う。自らは学生監督という立場になり、不安もあるが「やってやるぞ」という前向きな気持を持てている。初めて2軍をまとめた時のように、ポジティブな発想、発信を心がけたい。上に立つ自分でチームが変わる、という自覚はしっかりと持っている。

「まずはこういうチームにしたい、と思うことから考えないといけないと思います。今考えているのは、『最後のツメ』の大切さです。今シーズン、プロ野球を見ていたら阪神は前半戦盗塁が多かったのに、優勝争いが現実味を帯びてきた後半戦になったら、盗塁を仕掛ける回数がすごく減っていました。それを自分たちに置き換えた時に、例えばリーグ戦の優勝がかかったときに今まで通り盗塁を出せるかな? と。大きな目標に向かって、日々の小さなことを徹底していかないと、と思っています」。プロは決して遠いものではなく、参考になるものはなんでも取り入れていくつもりだ。

参考になるものはなんでも取り入れたい。思考を柔軟にして考え続ける

最後に中村自身の「人生の計画」について聞いてみた。もともと中学時代の恩師にあこがれ、同じ道を歩むつもりだったが、大学で視野がひろがることによっていろいろな可能性を考えるようになってきた。

「学部の先に、大学院への進学も考えています。小学校にボランティアで行って、『体育の重要性』について考えさせられることがあり、いずれは小学校の教員になって『運動の楽しさ』を伝えたいなという気持ちが大きいです。でも軟式野球を続けたいという気持ちもあって、市役所で市のスポーツ振興に携わりながら競技を続ける、という選択肢も考えています」。中村の前に、まだまだ可能性は無限に広がっている。