中京大所属の山本草太 全日本で2年連続表彰台へ「1mmでも上にはい上がる」
全日本フィギュアスケート選手権が12月20日に大阪府門真市で開幕する。昨年3位に入った中京大学所属の山本草太(中京大卒)は2年連続の表彰台を狙う。2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ・オリンピックにつながっていく大事な1戦。「今年もしっかり練習してきたことを出したい」と飛躍を誓った。
宇野昌磨さんの引退「寂しい」
2023年12月に長野市で開催された全日本選手権で、山本は10度目の出場で初の表彰台となる3位に入った。「頑張ってきて良かった」。会心の演技を終え、感極まる姿に観客はスタンディングオベーションでたたえた。
あれから約1年。フランスでグランプリ(GP)ファイナル開催中の12月初旬、中京大学のリンクで黙々と練習する山本の姿があった。12月20日に開幕する全日本に向けて、4回転や3回転半(トリプルアクセル)ジャンプを入念に確認していた。
今年3月、休学を含め6年かけて中京大を卒業した。卒業式ではスポーツで優秀な成績を修めた学生に贈られる「中京大学創立者梅村清明体育会杯」を授与された。その後も中京大を主な拠点として練習を続けている。
5月には2大会連続オリンピックメダリストの宇野昌磨さんが現役を引退した。大阪から名古屋に拠点を移した中学1年生のころから、すぐ近くで追いかけてきた大きな背中だった。
「この中京大学のリンクで昌磨君と一緒に練習することが多かったので、お互い刺激を受けながら、いい練習を積むことができていました。練習を通して昌磨君からエネルギーをもらっていて、その当たり前だった存在がいなくなったというのは寂しい部分があります。でも今は(鍵山)優真君と一緒に練習することで刺激をもらえていて、すごくいい環境だなと思っています」
GPの悔しさを全日本にぶつける
1年2カ月後に迫るミラノ・コルティナダンペッツォ・オリンピックを見据え、今シーズンはフリーの演技後半に4回転を投入。3種類目の4回転となるフリップにも本格的に取り組んでいる。
今シーズンの初戦、ネーベルホルン杯(ドイツ)では、フリーで3本の4回転ジャンプを決め、自己ベストの183.72点をマーク。合計262.72点でSP3位から逆転優勝を飾った。
幸先のよいスタートを切ったが、GPシリーズは苦戦した。スケートカナダとフィンランド大会の2戦に出場したが、ジャンプで精彩を欠き、2戦とも4位。2年ぶりのGPファイナル進出を逃した。
悔しかった。だがすぐに前を向いた。「自分と向き合える時間ができたというか、何かふっきれたというか。全日本に向けてすぐ気持ちを切り替えて練習することができました」
振り返れば昨シーズンも似た状況だった。GPシリーズで満足いく演技ができずファイナル進出を逃した。その後奮起し、全日本で表彰台を勝ち取った。
「全日本まですごく苦しい日々だったんですけど、1日1日しっかり練習に費やすことができたので、なんか苦しい思いも無駄じゃなかったなって。やっと報われたような気がしました。全日本の舞台でショート、フリーともにノーミスの演技ができたのはすごくうれしかったので、今年もしっかり全日本で練習してきたことを出せたらと思っています。GPの悔しさをぶつけたいですし、1mmでも上にはい上がれるように全力を出していきたいです」
山本は2年連続の全日本表彰台を狙う。そしてシーズン終盤の四大陸選手権、世界選手権に出場し、来シーズンにつなげていきたいと考えている。
フリーに込めた「夢への飛行」
今シーズンは「洗練」をテーマに掲げ、技術だけでなく、表現力にも磨きをかけてきた。ショートプログラム(SP)はブノワ・リショー氏と、フリーはローリー・ニコル氏と、ともに世界的な振付師と初タッグを組んだ。
SPの曲は「Split, Postcards from Far Away」。孤独と友情と人間性を題材にしたプログラムだ。「ブノワさんが、『人々は孤独のようだけど、誰も一人ではなくて、みんなそれぞれつながっている』と話してくれて。そういったところを感じながら自分の気持ちをプログラムに落としていけたらなと思っています」
前半はピアノの音が静かに響き、孤独を感じさせる。後半に入るとガラッと曲調が変わり、そのコントラストが見どころだ。「ステップはもどかしさや葛藤、自分の感情全てをぶつけられるようなパートになっています。手で口をおさえ、その手をふっとどこかに持っていくような振り付けがあるんですが、誰かを追いかけているような、孤独ともとれるし、誰かとつながっているともとれます。変わった振り付けだと思うので見てほしいです」
フリーは2曲による編曲で、前半は「Melting(メルティング)」というロマンチックな音楽。指先まで柔らかく表現するように心がけているという。
後半は「The Dream of Flight(ザ・ドリーム・オブ・フライト)」という曲で、「夢への飛行」という壮大なイメージを表現している。ダイナミックな4回転トーループがプログラムのアクセントになっている。
山本にとっての「夢への飛行」。それはオリンピックにほかならない。
正確に言えば、夢ではなく「目標」だ。
「ずっとオリンピックは目標にしていたんですけど、今までのオリンピックシーズンはそのレベルに到達していないまま迎えていて、目標というよりは夢の方が近かったと思います。今は目標としてオリンピックを捉えられています。まだまだ、もっと成長できると思っているので、1つの目標として全力で日々頑張るだけかなと思っています」
日本男子は、宇野さんが引退しても鍵山を筆頭に群雄割拠で代表争いは熾烈(しれつ)だ。
「日本選手のレベルは高いんですけど、食らいついていけたらと思いますし、“番狂わせ”じゃないですけど、『やるやん』って思ってもらえるような演技ができたらな、と思っています。オリンピックに向けてまずは今シーズンの全日本で、『まだやれるぞ』というところを見せたいです」
自分の限界は決めない。目標実現に向けて日々成長し、進み続ける。
山本ならきっとたどり着くはずだ。そう信じている。
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