フィギュアスケート

特集:フィギュアスケート×ギフティング

山本草太の人生に重ねた曲「イエスタデイ」 コーチから「草太に滑ってほしい」

グランプリ東海クラブに移籍した山本草太(すべて代表撮影)

フィギュアスケートの本格的なシーズンがまもなく開幕する。9月24~26日に名古屋市で行われる中部選手権に中京大学4年の山本草太(21)が出場する。今季から浅田真央さんや宇野昌磨(トヨタ自動車)らを育てた山田満知子、樋口美穂子の両コーチらに師事。移籍への思いや練習の様子、今季の目標について語った。

一人で練習する日々、つらかった

北京オリンピックプレシーズンは山本にとって悩みの日々だった。スケートに専念するため休学、拠点を大阪に移してコーチも変更した。だが結果に結びつかず苦しんだ。2020年12月の全日本選手権後、そのコーチの元を離れ、中京大学のリンクに拠点を戻した。移籍先を探しながら一人で練習する時間が続いた。

「昨シーズン中盤あたりまではわりと頑張れていたのですが、後半になるにつれて精神的に何か苦しいものがあったんじゃないかなと、いま振り返ると思います。心技体が全日本選手権の前から少しずつかみ合わなくなっていました。国体でもそれを引きずってしまったのかなと。孤独感ですごくつらい時期でした」

今年1月に名古屋市であった国体に愛知代表で出場するもショートプログラム(SP)でジャンプのミスが重なり、まさかの18位に沈んだ。それでもフリー2位と巻き返し、総合8位に。先輩の日野龍樹さん(中京大学卒、2020-21年シーズンで引退)とともに団体3位に貢献した。「日野選手には練習や試合でたくさん助けられました」と感謝する。

21年1月に行われた国体成年男子で都道府県3位となった愛知県の日野龍樹(左)と山本草太

半年間悩んだ末、グランプリ東海クラブへ

どこに移籍したらいいのか。答えが見つからないまま迷い、半年が過ぎた。シーズンに入った7月、ついに決断した。新たな拠点に選んだのはグランプリ東海クラブ。2010年バンクーバーオリンピック女子銀メダルの浅田真央さんや、2018年平昌オリンピック男子銀メダルの宇野昌磨らが在籍していた名門クラブだ。山田満知子コーチ、樋口美穂子コーチ、本郷裕子コーチの指導を受けることになった。

「美穂子先生に振り付けをしてもらいたいという思いがありました。最後は母の助言でした」。樋口コーチに指導を申し出ると、意外な答えが返ってきた。「『うちでいいの』って言われて。一人で練習しているときもいろんなクラブの方がやさしく声をかけてくれましたが、美穂子先生は自分から誘うことはなくて、お願いしたら引き受けるという形で、すごく素敵だなと思いました。それが第一印象ですね」

移籍を決めたものの最初は半信半疑。樋口コーチは振付に定評はあるが、クラブの練習環境やジャンプの指導方法に関してわからなかった。「自分ではあまりイメージがわかなかった」という。だがレッスンを重ねるうちに気持ちが変化していった。「美穂子先生は教え方が上手だなって。もっと早く来たらよかったというくらい」と顔をほころばす。

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21年国体ショートプログラムの演技

ジャンプや曲かけの練習では撮影した演技動画をその場で即チェックする。2大会オリンピック金メダリストの羽生結弦(ANA)やパトリック・チャンさん(カナダ、2017~18年シーズンで引退)、閻涵(ハン・ヤン、中国)らの演技、調子がいいときの山本自身の4回転の動画も参考にしながら改善点を伝えてくれる。

「美穂子先生は、羽生選手のジャンプを指導するジスランコーチから教え方や4回転の注意点などを学んできたらしく、僕に伝えてくれます。それをやったらめっちゃきれいに跳べます」。跳ぶ前の腰の位置や体の角度、踏み切ってからの軸の持っていき方を特に気をつけながら精度を上げている。

樋口コーチから贈られた特別な曲

SP、フリーともに振付は樋口コーチが手がける。SPはビートルズの名曲「イエスタデイ」で、樋口コーチが山本のために特別な思いを込めて用意した。

山本は15年世界ジュニア選手権銅メダル、16年ユースオリンピック金メダルとトップをひた走っていた。そこに突然試練が訪れた。16年世界ジュニア選手権の出発当日に足首を骨折。その後、幾度もけがに見舞われた。厳しいリハビリ生活を乗り越えて競技復帰、再びトップで戦っている。

「この曲はポール・マッカートニーさんが急に母を亡くし、その母を思って歌っているそうです。僕の人生も、昨日までジュニアトップで戦っていたのが急に途絶えて、そこから苦しい時期を過ごして、また前を向いて頑張っている最中。それが曲と重なって、『いまの草太に滑ってほしい』って美穂子先生から伝えられて、頑張ろうって思いました」

「今まで見たことがない僕」

フリーはイタリアのテノール歌手アンドレア・ボチェッリの「これからも僕はいるよ」。山本が用意した候補曲の中から選んだ。「美穂子先生からそれぞれの曲のどこが好きかと聞かれて、全部説明して。この曲はメロディが素敵で、ピアノ音楽は過去にも何度か使っていますが、自分の滑りと合うと感じています」。樋口コーチも好きな曲で思いが合致した。

カーニバル・オン・アイスで演技する山本草太(朝日新聞社撮影)

振付ではイーグル、イナバウアー、バタフライなど山本が得意とするダイナミックな技が盛り込まれている。演技後半のボーカルが盛り上がるコレオシークエンスがハイライトだ。「スケーティングで見せられるところがあり、美穂子先生の振り付けとうまく重なって、今まで見たことがない僕が見られるんじゃないかな」

フリーのお披露目は9月24日から始まる中部選手権。翌週のジャパンオープンでも披露する。

スケートカナダで来季につながる演技を

練習環境が新しくなった契機に、ファンから競技活動の支援金を募るスポーツギフティングサービス「Unlim」に登録した。「スケートはすごくお金がかかるし、正直たいへんな思いもしていました。大学4年生にもなり、アルバイトとかしなきゃいけないと思いますが時間をつくれないですし、僕の活動を通してファンの方に何かいい影響を与えていきたいなと思いました」。支援金は衣装代や振付代、トレーナーの滞在費などに充てたいと考えている。

今季の目標は、派遣予定のグランプリ(GP)シリーズスケートカナダで来季につながる順位やポイント、ランキングをとること、そしてオリンピックや世界選手権につながる演技をすることだ。「ピーキングは年末の全日本選手権に合わせていきますが、それまでにいろんな試合があるので、そのときの試合に集中してベストを目指して頑張りたいと思っています」

北京オリンピックまであと5カ月、そして2026年のオリンピックへ。樋口美穂子コーチと作り上げたプログラムはどんな化学反応を見せてくれるのか。新しい”山本草太”に注目だ。

 

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