フィギュアスケート

連載:4years.のつづき

「できる」と「やりたい」の両立、女優の道へ挑戦 フィギュアスケート・高橋成美4

女優の道を進み始めた(撮影・遠藤啓生)

連載「4years.のつづき」から、慶應義塾大学総合政策学部4年の高橋成美(28)です。フィギュアスケートのペア選手として、2012年世界選手権銅メダル、2014年ソチオリンピック日本代表として活躍。2018年に現役を引退しました。先月、女優に転身し、新しいキャリアを歩み始めました。全4回連載の最終回は、ソチオリンピック後から引退、そして女優への挑戦について語ります。

慶應大からソチオリンピックへ、研究対象は自分自身 フィギュアスケート・高橋成美3

仲間を見つけて「一緒に」

2015年3月、ソチオリンピックでともに戦った木原龍一(27)とのペアを解消した。また一からのスタートだった。日本でペア競技を広めたい、その情熱だけが高橋を突き動かしていた。ロシア人ともペアを組んだが、資金難でまもなく解消。その後、高橋から声をかけたのが柴田嶺さん(明治大卒)だった。柴田さんはシングル選手として国際大会で活躍し、10年の現役引退後はプロのフィギュアスケーターとして欧州のアイスショーに出演していた。

高橋の猛アピールに柴田さんが応えてくれた。こうして大好きなスケートを再び続けることができた。柴田さんはペア選手として競技復帰し、一から体づくりを始めた。その姿に高橋の胸はいっぱいになった。「私はシングルも好きですが、なぜペアに燃えるのかというと、誰かと一緒に夢を持つことができるからなんです。少年漫画のように、主人公が仲間を見つけて協力しながら何かを成し遂げていくときに心が震えるんです。中国でニーハオ(こんにちは)の前に覚えたのはイーチー(一緒に)でした。英語なら”Let’s play together”、韓国語ならカッチです」

新しいパートナーがくれたチャンス

2016年5月、柴田さんとのペア結成を発表。少しずつできる技を増やしていきながら、2017年2月には札幌で開かれたアジア冬季大会にも出場した。翌シーズンには2度目のオリンピック出場のチャンスが巡ってきた。日本の出場枠は1。日本のペアをリードしていたのは須崎海羽、木原龍一組だった。

だが、現実は厳しかった。シーズン中、交互にけがをして練習ができない状態が続いていた。結局、2度目のオリンピック出場はかなわなかった。「ペアはどちらかがけがをしたら練習はできません。アイスダンス転向を打診したこともあります。私の体はボロボロで、大学卒業のために研究も進めないといけませんでした」。高橋はついに23年間打ち込んできたスケートに区切りをつけると決めた。「嶺くんは最終的には『なるちゃんの人生だから応援するよ』と言ってくれました」。ペアを続けるチャンスをくれた柴田さんにただただ感謝の気持ちだった。

ペアフリーで演技をする高橋成美、柴田嶺組(撮影・朝日新聞社)

現役引退、新しい夢

2018年3月、現役を引退した。その後は、大学の単位取得に追われた。ペア競技を日本に普及する夢は持ち続けていた。以前から興味があったアイスホッケーにも挑戦。スケート靴を脱いでもリンクから離れることはなかった。
卒業を目指す中で、その後のキャリアについても考え始めた。「大学で創造の実践という授業があって、自由な時代だから、みんながやってないことやるのもいい。失敗したとしても、やり直せばいいと。その授業を聞いているうちに、スケートを引退した後、自分にできることは何だろうと思い、ずっと探してきました」

その答えのひとつが役者だった。「『できること』と『やりたいこと』を切り離して、どちらかを選ぼうとしていたことに気づきました。人生は一度切り。『やりたい』役者を目指しつつ、『やりたい』『できる』スケートの普及活動をしてもいいのではないかと思うようになりました」

挑戦する過程に意義がある。それが信念だった。「躊躇(ちゅうちょ)する時間があるなら、やって失敗した方が次に進みやすいと。まさにそう決意した翌日に松竹芸能の方との出会いがありました。運命を感じました」

I’m the best の心意気で

大学は来春に卒業予定だ。研究テーマは言語学と脳科学から捉えたセルフトークが脳に及ぼす影響。選手時代もセルフトークをメンタルトレーニングに取り入れてきた。

“Who is the best? I’m the best.” ブルーノ・コーチが繰り返した魔法の言葉。「すごい自信満々になっていくのを体験していましたし、言葉の力ってすごいなって思っていた。それをスポーツ以外の世界でどう生かせるんだろうって。役者も台詞への感情の入れ方の違いで演技が変わる。これから大事な要素になってくると思うので極めておこうと思っています」

憧れの役者はオダギリジョーとふせえり。テレビ朝日系ドラマ「時効警察」で主演を務めるオダギリジョーについて「心がやすらぐ。試合のときも支えられてきた」と言う。ふせえりは細かいところまでこだわった演技が好きだという。「次に何をやってくれるのだろうと期待させてくれる」。高橋が目指す女優像だ。

持ち味の柔軟性を披露してくれた(撮影・遠藤啓生)

人を驚かせるのが大好きな少女は、ペア競技と出会い、自分で道を切り開いてきた。スケートが続けられなくなる苦難に何度ぶつかっても諦めなかった。世界選手権銅メダルという日本のペアの歴史を変える偉業も成し遂げた。挑戦を続けてきた高橋が新たに選んだ道は女優だった。「自分がやりたいことを一生懸命やって成し遂げて、みんなが驚いてくれる。私の姿を通してみなさんなりの道を開いていってくれたらうれしい。私は陰の努力が好きです。一番人を驚かせるから」と胸をときめかす。

「オーディションで、どうなるかわからないけれど小さな仕事から始めてみましょう、あなた次第ですよ、と言われました。できないとは言いたくない。自分次第、どんとこいですね」

そう語る満面の笑みがまぶしかった。

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4years.のつづき

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