大学陸上・駅伝

連載:4years.のつづき

結果だけでは注目されない、中距離が生きる道を照らしたい 横田真人5

4years.のつづき
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長距離と中距離、互いが発展することでよりよいランニングのカルチャーになると横田さんは考えている(撮影・藤井みさ)

今回の連載「4years.のつづき」は、男子800m元日本記録保持者で、ロンドンオリンピックで44年ぶりに同種目の日本代表として戦った横田真人さん(32)です。今年1月にプロチームTWOLAPS TCを立ち上げ、女子ハーフマラソン日本記録保持者である新谷仁美(積水化学)や東海大学時代に1500m日本選手権を連覇した館澤亨次(横浜DeNA)などを指導しています。5回連載の最終回は、指導者としての思い、中距離に対する思いです。

男子800mで44年ぶりの五輪、その先に新たな世界の扉を求めて 横田真人4

選手に寄り添い、一緒に作り上げていくのがコーチ

横田さんが2013年に渡米した際、現役引退後もそのままアメリカに残るつもりだった。米国公認会計士試験に合格し、競技のために帰国を決意するも、アメリカでスポーツマネージメントを学べる大学院に行く準備をしていたのは、メジャーリーグのエージェントになることを見すえていたから。NIKE TOKYO TCでチームマネジメントも担うヘッドコーチへの誘いで受けて方針は変わったが、16年10月に現役を引退してからは改めてアメリカで学ぶ予定だった。状況が変わって今は日本で指導をしているが、オンラインでフロリダ大学大学院で学び、このほど修士課程を終えた。

NIKE TOKYO TCは19年12月31日で解散し、20年1月1日からはTWOLAPS TCとして活動している。ヘッドコーチとして指導する際、横田さんは「なんでできないの?」という言葉は絶対使わないようにしている。自分がアメリカで指導を受けていた時、この言葉でコーチと衝突したからだ。「選手からしたら、それ(できない理由)を教わるためにここに来たんだって思っていました。ただ教わりたいからじゃなくて、一緒になってできなかったことをできるようにしていくためにコーチの元にいるわけで、それが自分でできるならコーチは必要ない」。だからこそ、横田さんは選手のコーチングを始める前に「自分の指導の元で何を目指したいのか」を選手に問い、対話を通じてその選手に合った方法を一緒に考えていく。

アメリカでコーチングを受けていた時の経験は、指導者になった今にも生きている(写真は本人提供)

中距離の存在価値

横田さん自身、競技を続ける中で「いくら中距離が活躍しても注目されることはない」という思いがずっとあった。だからこそ、変えていかないといけない。「日本の駅伝に見られる長距離カルチャーをよりよいものにするために、中距離をどう組み込むか。お互いの発展がよりよいランニングカルチャーになると思っています。そういった意味で中距離が存在感を出していくことが、日本の陸上界の中で大事なことじゃないかな」

世界を見てみると、例えば昨年の世界陸上でシファン・ハッサン(オランダ)は女子1500mと女子10000mで2冠を達成しており、アメリカのクラブチームでも1500mからマラソンまでの選手を指導するチームは増えている。言ってみれば中距離が生きる道もそこだと考えている。だからこそ、中距離の存在価値をきちんと定義づけたい。ただそれは、選手や指導者、チームだけでできることではない。「長距離は駅伝というプラットフォームがあるから、あれだけ注目されている。結果を出すだけではなく、応援したいと思う人が増えるようなプラットフォームが中距離にも必要だと思うんです」

横田さん(左から2人目)はまず、選手自身の「自分はこうなりたい」というモチベーションを明確にさせ、コミュニケーションをとりながらその選手に合ったコーチングをする(写真は本人提供)

「結果」に対しても希望はある。横田さんのロンドンオリンピックは予選5組4着でレースを終えたが、日本人でもその先の、新たな“世界の扉”は開けると確信している。「僕はすごく身体能力が高いわけじゃないし、自分のことを特別だと思っていないです。だからもっとすごい選手が出てきたら僕が開けなかった“世界の扉”を突破できるんじゃないかって純粋に思っていて、そういうのを見せてほしいです」。必要としてくれる人がいたから歩み始めた指導者の道だが、そんな夢を選手と一緒に追い続けている。

片時も見逃せない勝負

中3の夏、体操着と運動靴で800mに出走し、いきなり優勝。あれから18年の月日が流れた。改めて800mの魅力とは。

「分かりやすい勝負で、ずっと集中して見ていられるレースじゃないですかね。一番ドキドキハラハラできると僕は思っています。400mとかだと最終コーナーを抜けないと順位がよく見えないじゃないですか。でも800mはオープンになった瞬間から順位が分かるし、ちょっと見逃したり、選手もちょっと失敗したりするとすぐに順位が入れ替わって命取りになってしまう。できればスタンドよりももっとそばで見て、こんなにきつそうな顔をしているのにこんなに速いんだ、っていうのを体感してほしいです」

だからこそ、“あまのじゃく”は800mに向いていると横田さんは言う。先行する選手がきつそうな顔をしていれば仕掛けて前に出て、自分はさらに人の裏をかく。そしてちょっとの躊躇(ちゅうちょ)で勝負が決まる。「僕みたいなのが合っていたんだと思いますよ」と笑う。

トラック2周で競うレースには、そんな片時も見逃せない勝負の瞬間が息づいている。

4years.のつづき

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