陸上・駅伝

横浜DeNA・館澤亨次 自粛期間もプラスに過ごし「いま、とても陸上が楽しい」

「いま、とても陸上が楽しい」という館澤。オリンピックを目指し勝ちグセをつける(撮影・藤井みさ)

館澤亨次は昨年度の1年間、東海大学陸上部の主将をつとめ、卒業後4月から横浜DeNAランニングクラブ(以下、横浜DeNA)に加入した。横浜DeNAは横田真人さんの主宰するプロチーム・TWOLAPSと業務委託契約を結び、館澤はTWOLAPS TCのメンバーとともに練習を積んでいる。館澤の現在と、これから目指すことについて聞いた。

より陸上競技に専念できる環境へ

「駅伝は好き」だという館澤。進路が横浜DeNAに決まった当初、トラックシーズンは1500mに取り組み、冬はニューイヤー駅伝に……と考えていたという。しかし、2018年秋に横浜DeNAは駅伝への出場を終了すると発表。はからずも1500mに専念することになり思案中、昨年4月のアジア大会で横田さんと話をする機会があった。

「お話していて、横田さんに『本気でもし来たかったらいつでも受け入れるよ』と言っていただいて。いろいろ考えて、やはり日本一(800mで日本選手権6度の優勝)になった横田さんに指導してもらうのが一番いいんじゃないかと。それで面接してもらって、一緒にやっていこうと言ってもらいました。それが4年生の途中なので、この形に決まったのはけっこう遅かったです」

横浜DeNAに所属する館澤は社員ではあるが、研修以外は社業はなく、陸上競技に専念できる環境だ。「だからこそこういう形もとれるし、自由にできる。とてもありがたく思っています」

じっくりとけがを治したリハビリ期間

年始の箱根駅伝で山下りの6区を担当した館澤。それまでのタイムを40秒も縮める驚異的な区間新は多くの駅伝ファンに鮮烈な印象を残した。だが、高速で山を下れば足にもダメージがある。それだけでなく、4年生になってから悩まされた不調の原因でもあったハムストリングスの故障が治りきっていなかった。

1月3日、箱根駅伝で驚異的な走りを見せ倒れ込む館澤(撮影・佐伯航平)

「だからまずは、けがをしっかり治そうというところから始まって、4月ぐらいまではリハビリとジョグの繰り返しでした。新型コロナウイルスの影響で試合がなかったので、ゆっくり治すことに専念できました」。最近はやっと調子も戻ってきて、以前のような感覚も戻ってきた。気がかりは先日胃腸炎になってしまったことだといい「それまでは本当に調子が良くて、自己ベスト(1500m3分40秒49)更新もできるかなと思ってたんですが、ちょっと調子が落ちてきてしまって。実業団になって初めての不調なので、正念場ですね」と気を引き締める。

学生と社会人の一番の違いを聞いてみると「管理されていないこと」という答えが返ってきた。大学ではまず練習前に集合し、動きづくり、ジョグなどメニューがある程度決まっていた。だが今では集まるのはポイント練習ぐらいで、それ以外はほとんど各自に練習が任されている。「自分次第でいいトレーニングもできますが、サボろうと思えばいくらでもサボれてしまう状況だと思います。でも競技に専念できる環境を求めて入社した会社なので、ここでアスリートとしてどうなっていくか、しっかり取り組んでいきたいと思います」

良くも悪くも任されている環境。だからこそ責任も感じる(撮影・松永早弥香)

4月になってから生活に慣れるのに時間がかかり、やっとリズムがつかめてきたという館澤。「休める時間が多いのでたるんでしまわないようにしないと、と思っています。今後はもうちょっと時間を有効に使えればと」。パソコンを新調し、まずは基本的なソフトの操作を勉強しているとも教えてくれた。

「日本一恵まれた環境」、陸上がすごく楽しい

TWOLAPS TCの練習では、阿見アスリートクラブ SHARKSに所属する楠康成、田母神一喜、飯島陸斗の3人のプロランナーとともに切磋琢磨している。この日取材の前に行われた練習では、楠、田母神とともに走るシーンが見られた。

「今まで、練習で自分がついていけずに周りの方が強いということは、あまりなかったんです。楠さんは本当に『強い』ランナーで、圧倒的にしっかり引っ張ってくれて追いかける状況です。田母神とスピード練習したときにはまったくついていけなくて『足速いな!』って。3人ともプロアスリートということで、やっぱりけっこうリスクも多くて安定していない環境だとは思うんです。その中で覚悟を持ってやっている選手と一緒にできているのがありがたい。そして横田さんに指導していただいて、中距離に取り組むには日本一恵まれている環境じゃないかなと思います。普段はみんなで笑い合って楽しく、でもやるときは刺激しあってメリハリをもってやる。本当になんの不満もないです。いま、陸上をすごく楽しくやれています」

勝ちグセをつけていきたい

次の試合は7月18日のホクレンディスタンスチャレンジ千歳大会、そして7月23日(予選)の東京選手権だ。10月には日本選手権も控えている。「(胃腸炎から)調子が戻ればうまくいくんじゃないかなと思ってます。千歳で(3分)30秒台の大台は狙えるかなと。ここらへんでしっかり勝っておかないと。去年が全然勝てなかったから、どうにかそろそろ強さを求めていきたいと思います」。勝ちグセをつけたい? との質問には「はい」ときっぱり答える。

東京オリンピックが1年延期になったことについては「ありがたくてしょうがない」と口にする。「延期になったおかげで、チャンスがあるんじゃないかと思えています。せっかく伸びたこの期間を有効に使いたい。本当にここから次第だなと思います」。頑張って責任を果たしたい、と話す館澤からは、社会人ランナーとしてのやる気が感じられた。

後輩たちに「焦らず気負わず、できることを」

大会の中止など、誰も経験したことのないこの状況下、後輩に声をかけるとしたら? と質問してみた。

「この状況になってしまったものはしょうがないので、とりあえず今できることはやってつなげてほしいです。自分でいうと、夏合宿に行けなくても箱根を走れたので、できない状況で無理するよりも、やれることをやって備えたら強いメンバーが残っているのでいけるんじゃないかなと思います。『コロナだからもういいや』とか思わずに、特に東海大は施設も充実しているので、工夫しながらやればいろんなことができると思います。焦らず気負わずできることをちょっとずつやってもらって、全日本大学駅伝連覇、箱根駅伝の優勝を目指してほしいですね」

昨年11月の全日本大学駅伝で、優勝のゴールテープを切る名取(撮影・藤井みさ)

駅伝シーズンの展望の話題になると館澤は「出雲駅伝はけっこうチャンスがあるんじゃないかな」という。東海大の4年生には昨年主力の一端を担った現主将の塩澤稀夕(きせき、伊賀白鳳)、西田壮志(たけし、九州学院)、名取燎太(佐久長聖)の3人がいる。さらに昨年関東インカレ1500m決勝で館澤に100分の1秒で先着した飯澤千翔(かずと、2年、山梨学院)の名前を上げた。「出雲、全日本と乗っていければ箱根も……と思います。期待したいです」。OBとして後輩たちの活躍を楽しみに応援するつもりだ。

昨年は「ずっと焦っていた」という館澤。新しい環境で飛躍の年となるか(撮影・藤井みさ)

陸上を始めてから初めて、この先駅伝の予定がない館澤だが「もし走れるなら、都道府県駅伝は走りたいですね」という。「5000mのタイム次第だとも言われているので、最低限呼んでもらえるようにはしたいです。チャンスがあればどんどん出たいです」。なぜ駅伝に惹かれるのか? 「自分1人で走ってるときにはわからない、妙な力みたいなのが出たり……粘れたりして楽しいなって。やれるのであればやりたいですね」

そう話す館澤の顔はとても穏やかだ。最高の環境で、競技者として責任を持って踏み出した年。どんな結果を残してくれるのか楽しみに見続けたい。

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