大学陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

中央大・田母神一喜 悩み苦しんで目指した箱根、主将として駆け抜ける

田母神は今年7月から長距離チームに加わり、最初で最後の箱根駅伝を目指してきた(撮影・松永早弥香)

箱根駅伝予選会をギリギリの10位で通過した中央大は、本戦で「シード圏内、8位」を目標に掲げている。その箱根駅伝に向けた合同取材が12月18日、中大多摩キャンパスであった。16人のエントリーメンバーが並ぶ先頭には、長距離ブロック主将の田母神(たもがみ)一喜(4年、学法石川)の姿があった。彼自身初めて臨んだこの記者会見に「新鮮で、改めて箱根の大きさを感じました」とつぶやいた。東京オリンピックを見ていた中距離ランナーの田母神が箱根駅伝を目指しだしたのは、今年7月のことだった。

中央大・舟津彰馬 「ばっちこい!」と挑む最後の箱根駅伝、念願のシード権を
中央大、実力出しきれず箱根駅伝予選会10位通過 舟津、田母神それぞれの思い

1500mで勝ちきれず、チームも全日本を逃した

藤原正和監督は田母神の“箱根宣言”を「うれしいサプライズ」と称したが、そこに至るまでにはさまざまな葛藤があった。

田母神は2年生の秋に退寮し、一人暮らしをしながら横田真人氏がコーチを務めるプロチームでトレーニングを重ねてきた。今年の箱根駅伝を終えて新体制へ移行するにあたり、田母神は寮に戻ると決意。そこで藤原監督は「最後の1年、キャプテンをやってもいいんじゃないか」と打診し、田母神は長距離ブロックの主将になった。当時は田母神が駅伝を目指すことを想定していなかったため、同期の舟津彰馬(福岡大大濠)が駅伝主将になった。

舟津も田母神と同じく、中距離を主戦場としてきたランナーだ。その舟津は1、2年生のときに長距離ブロック主将を務め、中距離を走りながら箱根駅伝も目指していた。ただ舟津は田母神に対して「お前が中距離で結果を出すことがみんなの刺激になる」と伝え、これまで通り中距離ランナーとして走り続けることを後押しした。

田母神は6月の日本選手権に向けて調整してきたが、1500m予選1組の最下位に沈んだ(撮影・藤井みさ)

田母神は主将として中大チームと練習をする一方で、横田コーチのチームでも練習を重ねていた。6月の日本選手権前には菅平合宿にも参加。前回3位だった1500mに挑んだが、結果は予選敗退。その直前にあった全日本大学駅伝の関東地区選考会で、中大は次点の6位と伊勢路行きの切符を逃した。田母神自身はこの選考会には出ていなかったが、このままではダメだということを思い知らされた。

長距離転向の覚悟を試され、けんかになった

藤原監督も横田コーチとともに田母神の苦悩に向き合った。藤原監督は言う。「私にも横田コーチにも、田母神には競技者としての覚悟が圧倒的に足りないんじゃないかという意識があって、その殻を破ってほしいと思ってました。もう一つ、学生時代にしかできないことを考えて、みんなと一緒に苦しんでやっていくことで、何かを得てほしいという願いもありました」

「チームをどうにかして強くしたい」。それは田母神が主将を任せられてから一貫して抱いてきた思いだ。ただ、言葉や中距離ランナーとしての走りでチームに示そうとしても、長距離の選手たちには響きにくい。「やっぱりみんなと同じ練習をして、同じ生活をして、それでこそのキャプテンじゃないかな」。そう考え、田母神は横田コーチのチームを離れ、箱根駅伝を目指すことにした。

舟津は田母神を止めた。「その難しさを、自分がいちばん知ってたと思うんです。いままでやってなかったことを4年目で田母神がやろうとしてて、来年には東京オリンピックも控えてる大事なときでもあったし。だから『間に合わないと思うし、ちゃんと考えた方がいい』って言ったんです」

舟津は田母神の頑固さも知っていたので「そうは言っても気持ちは変わらないだろう」とは思っていた。それでもあえて伝えることで、田母神の覚悟を試した。すると田母神はついつい「お前が走れてないから負けるんだよ! 」と舟津に口走ってしまい、けんかになったという。その結果、互いに負けられない気持ちが高まり、練習にいい影響をもたらした。

11月の上尾ハーフで手応えをつかみ、すぐあとの日体大記録会では10000mで自己ベスト(撮影・藤井みさ)

田母神は当初、Bチームで長距離の練習に取り組んでいたが、蔵王での夏合宿からAチームに合流。10000m記録会にも臨み、箱根駅伝予選会に出る12人のメンバー入りも狙えるという確信があったが、疲労から調整が間に合わず、予選会は応援に回った。結果はギリギリ10位での通過。安堵(あんど)よりも、悔しさが勝った。11月17日には上尾シティマラソン(ハーフ男子大学生の部)で高校以来となるロードレースに出た。箱根駅伝のエントリーメンバー入りをかけた11月30日の日体大記録会10000mでは、29分30秒91と自己ベストを大きく更新。16人のエントリーメンバーに入った。

舟津も驚く長距離への順応ぶり

最終調整に入っていくこの時期、田母神には1km2分55秒~3分のペースに体が順応し始めた感覚があり、「ようやく夏合宿で我慢してきたことの成果が出た」と話す。「間に合わない」と言っていた舟津も、「でも、間に合わせてくると思ってはいましたよ。陸上にも才能っていうのはあって、集中して練習すれば人の倍以上の効果を出せる選手がいる。田母神もその一人で、自分がやると決めたことを最善の方法でやれる選手だと思ってますから。ただ正直、もうちょっとレベルが低い状態で(12月中旬に)入るのかなと思ってたのに、予想以上に合わせてやれてます。自分としてもびっくりで、あいつのポテンシャルを侮ってたところがあったな」と、盟友をたたえた。

田母神は舟津(左)について「中距離では最大のライバルで負けたくない。正直言って憎たらしい(笑)。お互いそう思ってるはず。でもチームではいちばん頼りになる存在で心強い」(撮影・藤井みさ)

田母神の走りについて藤原監督は「10人の中に入れるラインにきたと思います。いい意味で今年は非常にチーム内で競ってるので、悩ましいですね」と言う。田母神自身は長距離に移行してから一定のペースで走れる強さが備わったこともあり、平地の10区のアンカーで、自分の力を発揮できるのではと考えている。アンカーだと距離は23.1kmにもなる。「この長さにアジャストできるかどうか」と藤原監督は言ったが、「800mや1500mをやってた自分がハーフまできたんだから、23kmもいけるんじゃないかな」。田母神はこう言いきった。一方で藤原監督は「序盤の上りさえきっちりクリアできれば、下りに入ったときのスピードの乗せ方はうまい」と言い、6区も視野に入れている。

学法石川高時代の同期には、東洋大の相澤晃や明治大の阿部弘輝がいる。箱根駅伝はそういった仲間との“土俵”でもある。田母神は「正直言って彼らとは勝負にならない。レベルが違います。でもチームのキャプテンとして戦わないといけない相手です。とくに明治とはシード権を争うことになるかもしれないから、絶対に負けられない」と、決意を新たにした。

中大のエントリーメンバーには4人の4年生が選ばれた。全員で戦い、シード権獲得を狙う(撮影・松永早弥香)

夏前に田母神が急きょ長距離チームに加わり、いまでは舟津とともに練習を引っ張るまでになった。藤原監督が駅伝監督に就任した2016年に彼ら4年生たちが入部し、いきなり舟津が1年生主将に、田母神が副将になるという異例の体制を敷いた。いろんな思いを共有してきた4年生と臨む最後のレースが、間もなく始まる。さみしいと思うところもありますか? 藤原監督に尋ねると、ほほえみながらこう語った。

「そうですね。私は指導してきたというよりも、本当に一緒に走ってきたという思いです。あっという間だったなと思ってるんですけど、彼らは長かったと思ってるかもしれませんね。今年は田母神を中心とした、非常にいいチームができました」

藤原監督と4年生たちが一緒に走り抜けた先に、どんな結果が待っているのだろう。

【PR】ケガからの復活を目指す東海大学キャプテン・舘澤亨次に密着。
「Dream Challenger~夢に挑む者たち~SP」12月29日(日)23:15~24:15、テレビ朝日系列 全国24局ネットで放送