大学陸上・駅伝

慶應中距離「1点を全員で取りにいく」、横田真人コーチの支えでチームは変わった

慶應中距離ブロックは横田さん(左端)に願い出て、昨年11月より、週1の頻度で指導をしてもらっている(すべて撮影・慶應義塾大学体育会競走部、撮影は今年3月までのもの)

慶應義塾大学体育会競走部中距離ブロックは昨年11月より、OBで男子800m元日本記録保持者である横田真人さん(32)に指導をしてもらい、今、「結果を出す集団」へと変わろうとしています。どのような思いから指導の必要性を感じ、チームはどう変わってきたのか。慶應義塾体育会競走部103代中距離ブロック長の渕脇慶伍(ふちわき・けいご、4年、横須賀)が4years.につづってくれました。

全員でつかむ「1点」

昨秋、新体制に移行するにあたり、私は中距離ブロック長に立候補した。「結果を出す集団に変わりたい」という同期の言葉と同じ気持ちを感じていたからだ。ただ私には、関東や全国で結果を出せるような競技実績はなかった。同期の中にも「チームの結果を変えるためには、実力者が先頭に立った方がいいのではないか」という気持ちがあることはよく分かっていた。それでも「みんなの力を最大限に引き出して結果を出せるチームにしたい」と同期に伝え続け、私たちの代のチームが動き始めた。

慶應競走部は自由が特徴の組織。学生が主体となってメニューを組み、自分でコーチングをする。そのスタイルに魅力を感じてはいたが、自由度の高い環境で伸び悩んでしまう選手が多かったのも事実だ。現状を変えるには大きな変革が必要だ。新体制となるにあたり同期と議論し、「横田さんにコーチを頼めないか」という結論に達した。これまでは自分たちで考え、実行してきたものの、後押ししてくれる存在の必要性をみんなが感じていた。

基本は学生主体。指導してもらったエクササイズでも、自分たちで仲間に共有する

そして昨年10月、私はチームを代表して横田さんに初めて会った。慶應中距離を結果が出せる集団にしたい。その一心であったものの、「何を実現したいの?」「どんなことをしてほしいの?」という横田さんの質問に答えられなかった。明確なビジョンを描けていないことを痛感した。それでも最後には「2週間後に改めてミーティングをしよう」とチャンスをもらえた。

そこからは同期と顔を突き合わせ、自分たちは何を目指し、なぜ横田さんの力を借りたいのか、ということを何度も話し合った。その過程で出てきた数字がある。「9点」だ。関東インカレなどの対校戦では、1位が8点、2位が7点、そして8位が1点というように、順位によって点がつく。私たちが決めた9点は一人の力でなせるものではない。全員が当事者意識を持って結果を追い求める。そのためにこの数字を掲げた。

部を挙げて戦う関東インカレで9点を取る。慶應は昨シーズンに1部昇格を果たした。スポーツ推薦制度がない中、強豪校がそろう関東で戦うことを考えると、現実離れした目標だった。

横田さんとの再びのミーティングで、私は9点という目標とその目標を定めた経緯を説明した。そして横田さんは一言。「それは現実的なのか?」。横田さんの言う通り、掲げた目標は現実的ではなく、全員が必死に追えるものではないと思った。「ただ、9点と設定している意図は分かった。だったら言いたいのはこういうことじゃないのか。『1点を全員で取りにいく』。それだったら俺も協力するよ」。そこから私たちのチームは動いた。

みんながみんなを応援、一人ひとりが役割を果たす

昨年11月より、コーチの横田さんに加え、横田さんが立ち上げたTWOLAPS TCのメンバーから、ストレングスコーチとしてマロン航太さん、マネージャーとして山田はつみさんがチームを指導してくれることになった。横田さんたちが慶應グランドに来てくれるのは週に1回だけ。そのため、日々の部員全員の練習データを一覧化し、横田さんたちに共有できるオンライン上の練習日誌を作りあげた。

ストレングスコーチのマロンさん(右から2人目)も、学生たちと一緒に走りながら指導してくれた

その練習日誌は今、部員同士がコミュニケーションをとる場になっている。例えばけがをしている選手がいれば、同じようなけがをした経験がある選手がアドバイスを送る。選手一人ひとりの練習メニューだけではなく、ちょっとしたうれしいことも共有し、チームメートの成長をみんなが喜び、刺激にしていった。

また、この練習日誌には全員分の役割も明記している。各自が考えて定めた、チーム内における役割だ。自分はチームにどんな価値を提供できるかを考え、全員が果たすべき役割をまっとうする。タイム設定会議や週間MVPの選出、週ごとのパートナー制など、チームを成長させる新たな取り組みは、そんな一人ひとりの意識から生まれたものだ。

「全員で1点を取りにいく」という信念のもと、変化は普段の練習の中でも起きていた。けがで走れない選手も、走り終えて地面に倒れている選手も、練習する仲間を応援する。練習中にマネージャーが撮影してくれた動画を見返すと、音割れするほどの声援が入っている。チームとして全員で必死に取り組んでいるからこそ出る応援だろう。その変化を他ブロックの部員も感じ取ってくれていたようだった。

けがで走れない選手もタイムの読み上げなど、一人ひとりが今、自分にできることに取り組む

オンラインで練習も笑いも共有

3月のシーズンインに向け、2月には実践に近いメニューにも取り組んだ。エース三浦天道(4年、秋田)の力走にも刺激され、多くの選手がこれまでを超えるタイムを記録。チームとして盛り上がっていることを肌で感じた。しかしこの2月より、新型コロナウイルスの感染拡大は大きな影響を及ぼし始めた。チーム力向上のために学生主体で企画した沖縄春合宿は中止。3月28日には部としての活動が取りやめになった。公式戦や多くの記録会も中止となり、チームが最大の目標として定めていた関東インカレも、5月開催が中止となった。

冬に積んできた練習の成果を発揮できない悔しさを抱えながらも、今は来たるシーズンに向け、各自が家でできる練習に取り組んでいる。「1点を全員で取りにいく」という軸はぶれない。離れている中でもチームを感じられるよう、部員の提案で「リモートワークアウト」も実施。オンラインサービスを利用し、マロンさんの補強メニューに一緒に取り組む。

また、週に1度のミーティングもオンラインで続けている。このミーティングでは全員が発言する。真剣にチームの今とこれからを議論する一方で、今週の楽しかったことも一言ずつ共有しており、笑いが起こることも多い。先が見えない苦しさを全員が抱えている。それでもみんなが明るい部分を探し、それを仲間と共有できたらという思いで、このコーナーを設けている。

全員で一つの目標を追いかけ、互いに切磋琢磨(せっさたくま)し、成長していく

横田さんがコーチになってからの約7カ月で、私たちはチームの変化を実感している。チームの目指すべき姿を定め、それを共有できれば、やるべきことが明確になる。チームの全員が自らの役割を考え、その役割を状況に合わせて変化させる。情報を共有し、互いに指摘し合える環境をつくる。これらによってチームは大きく変わってきている。

ただ、私たちはまだ挑戦の途上だ。シーズンが始まった時、私たちのチームはどれだけ輝けるのか。全員で一つの目標を追って挑んできたこれまでの過程は、大きな変化をもたらしてくれた。だからこそ、大きな結果につなげていきたい。

「1点を全員で取りにいく」

私たちの強い思いが慶應中距離の歴史を動かすと信じ、これからも情熱を燃やしていく。

in Additionあわせて読みたい