陸上・駅伝

連載:いけ!! 理系アスリート

東大目指すも、箱根を狙い 慶大・鈴木輝(上)

レースで初めて走った30kmはつらく、苦しかった(慶大競走部提供)

連載「いけ!! 理系アスリート」の第8弾は、発足2年目の「慶應箱根駅伝プロジェクト」メンバーの一人、慶應義塾大学理工学部1年の鈴木輝(ひかる、浦和)です。東大を目指していた浪人時代にプロジェクトの存在を知った鈴木。いま慶應で箱根を目指して走り、レポート作成のために徹夜することもあるそうです。

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サッカー部なのに区間2位

2月17日、鈴木は熊本市で開催された熊日30キロロードレースに出た。1時間38分11秒で23位。試合として初めて走った30kmは、長かった。「ハーフマラソンよりもさらに9km長いですし、ほとんど単独走だったので精神的にもキツかったです」と鈴木。それでも保科光作コーチが彼の持ち味だという「堅実な走り」は垣間見られた。将来的にはフルマラソンへの挑戦を見すえるだけに、クリアしなければならないハードルである。

鈴木はかつて埼玉県内の公立中学のサッカー部で、俊足のMFだった。その中学校では春の体力テストで持久走のタイムがいい生徒を選抜し、「臨時駅伝部」をつくって秋の駅伝に臨むことになっていた。もちろん鈴木も選ばれたが、その中でも別格だった。陸上部の生徒に混じって埼玉県中学駅伝に出場することになった。そして3.26㎞を9分45秒と区間2位の好タイムで駆け抜けた。「走るのって、面白いかも」。そう思った瞬間だった。

この経験があったから、進学校である埼玉県立浦和高校では迷わず陸上部に飛び込んだ。最も印象に残るレースは、高3の4月にあった学総埼玉県南部地区予選会の5000mだ。鈴木は高1の秋からずっと記録が伸びず、つらい時期が続いていた。それが、このレースで1年半ぶりに自己ベストを更新。14分台に突入した。「長く閉じこもった殻を打ち破ったような達成感で、本当にうれしかったのを覚えてます」と鈴木。「強いランナーの中で走り、雰囲気を味わい、いつかはチームで大きな大会に出たい」とも思うようになっていた。

浦和高校時代に「チームで走る」ことへの思いが強くなった(慶大競走部提供)

早稲田では駅伝に出られない

高校卒業後も走り続けるつもりだった。その上で「最高学府で生命化学の勉強を」という思いから、東京大学理科II類を目指して浪人したが、夢破れた。私立大学を考えたとき、三大駅伝常連校の早稲田に行っても自分が出る余地がない。そして慶應のプロジェクトを知った。「やるからには、本気で箱根を目指して頑張りたい。あの保科コーチの指導を受けられたら、自分も……」と考えた。

鈴木は一般受験で理工学部に入学し、競走部の門をたたいた。入部してすぐの長距離ブロックのリレーブログには「あれ、新入生なのに20歳、僕の高校は4年まであるのです」。5月3日と早めの誕生日を意識したネタを披露した。

同期には1500mでインターハイ8位の小野友生(東北)をはじめ、「慶應で箱根を走る」という強い意志で入部したメンバーがズラリ。切磋琢磨の日々に「いい刺激を受けてます。いい仲間です」と鈴木。細身ゆえに、小野からは「ガリガリスティック君」と呼ばれている。

慶大競走部長距離ブロックの1年生の仲間たちと。右列後方から2人目が鈴木(慶大競走部提供)

理工のLINEグループさまさま

鈴木が学ぶ理工学部は文系学部に比べて必修科目が多く、試験や課題も多い。夜遅くまで勉強し、睡眠時間を削らないといけない日もあった。実験の1週間後に提出するレポートの作成も、平日には練習で時間がとれず、週末にまとめてこなすことが多かった。しかし、土日には試合がある。そんなときは締め切り間際に徹夜で仕上げた。「自分が想像してたより何倍も忙しいです。理工学部だからかもしれませんが、その忙しさを言いわけにすることなく、しっかり結果を出せるように4年間頑張りたいです」。鈴木は頼もしい言葉を口にした。

プロジェクトメンバーで鈴木以外の“理系ランナー”は、同じ理工学部の森下衆太(2年、國學院久我山)だけ。ただ、競走部のほかのブロックには理工学部の同期もいる。「理工は勉強が大変なので、競走部の1年生理工のLINEグループを通じて、みんなで助け合ってます。部室で勉強の話をすることもあるし、理工の選手とは仲がいいです」。鈴木はうれしそうに話す。

プロジェクトメンバーは学年に関係なく、仲がいい。昨年、関東学生連合の一員として箱根駅伝の8区を走った根岸祐太(4年、慶應志木)からは、ことあるごとに箱根の素晴らしさを伝えてもらった。鈴木は「決して遠くない道のり。必ずいつか自分も」と感じた。その根岸と一緒に走った最後のレースは昨秋、立川で開催された箱根駅伝予選会。それは、鈴木がいままでに出たレースとはまったく異なる雰囲気に包まれていた。

鈴木輝後編「全身全霊で箱根にかける」はこちら

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