陸上・駅伝

私の道は、私がつくる 慶應義塾大学・樺沢和佳奈

駅伝で育った樺沢の目はいま、トラックに向いている

皇后盃第37回全国都道府県対抗女子駅伝

1月13日@京都市西京極陸上競技場をスタート・フィニッシュとする9区間42.195km
2区(4km)区間4位 樺沢和佳奈(群馬、慶應義塾大2年) 12分46秒

郷土の中学生から社会人までがたすきをつなぐ「全国都道府県対抗女子駅伝」が1月13日、京都で開かれた。4years.編集部が注目したのは、群馬の2区を走った樺沢和佳奈。昨年暮れの富士山女子駅伝では全日本選抜の3区(3.3km)を走って区間賞をとった。慶大で学び、2020年の東京オリンピックを目指す19歳だ。

マラソン世界一の夢

樺沢にとって2区のコースは自分の庭のようなもの。常磐高校(群馬)時代から何度も駅伝で走ってきた。28位でたすきをもらうと、300mほどで3人を抜いた。「20位ぐらいで来るだろうから、10人以上は抜きたい」と話していた通り、大きなストライドで、グイグイと力強く駆け抜けた。14人を抜いて14位で3区につないだ。「攻める走りをしようと思って、最初から突っ込みました。なんとかラスト1kmを持ちこたえられてよかったです」。樺沢に笑顔が広がった。区間賞の二人に3秒遅れの区間4位。最終的に群馬は13位だった。

樺沢は富士見中学時代に全国中学駅伝で連覇を果たし、常磐高校2年のときに全国高校駅伝2位という輝かしい経歴を持っている。そんな彼女が実業団や駅伝の強い大学でなく、なぜ慶大に進んだのか。その理由が気になっていた。彼女はにっこり笑ってから話し始めた。

「中学、高校と駅伝がメインで、駅伝のために走ってきました。もちろん駅伝も嫌いじゃないんですけど、自分で考えて練習して、トラックで世界を目指したいって気持ちになったんです」。高3のとき、卒業後は実業団で走るという話が進みつつある中で、樺沢は慶大総合政策学部のAO入試に飛びついた。そして合格し、いまに至る。

全国女子駅伝では2区で14人を抜いた

自分で考えて練習する。そこに目を向けたのはなぜなのか。「中高のときに、ずっと疑問に思ってたんです。先生が全部考えてくれて、何もかも世話をしてくれて、私は走るだけ。これでいいのかな、って。それでいい結果を出し続けてプロになれるならいいんですけど、私はそこまでの選手じゃない。恵まれすぎてると思ったんです」。自分を見つめ直して、樺沢は決めた。「走り始めたときから、マラソンで世界一になるのが私の夢です。自分で考えて強くなれる環境の大学に進んで、大学での4年間は夢に向かう道のりを自分でつくる時間にしようと思いました」

超選手目線のコーチとともに

17年春、慶應義塾体育会競走部に所属し、同部の中距離コーチである横田真人さん(31)の指導を受け、トレーニングをする日々が始まった。横田さんは12年のロンドンオリンピックで、日本の選手として44年ぶりに男子800mに出場した人。800mの元日本記録保持者でもあり、現在はNIKE TOKYO TCで新谷仁美をはじめとしたトップ選手を指導している。

樺沢家は自営業を営む父が群馬に残り、樺沢と母と妹の3人で、東京都内の練習場所の近くに引っ越した。普段は朝5時45分に起きて練習。大学へ行って勉強して、夕方はまた都内に戻って走る。いろんなことを自分で考えて動く日々について「いままでより大変です」と、正直に言った。そして間髪入れず、「でも後悔してません」と充実の笑みで続けた。

横田さんは超選手目線のコーチで、ポイント練習でも引っ張ってくれる。「これまで監督と一緒に走ったことなんかなかったので、最初はビックリしました」と樺沢。慶大の先輩でもある横田さんからは、学ぶことが本当に多いという。「毎日頭がパンクしそうになるけど、楽しいし、充実してます」。いまの樺沢は、ほんとに笑顔がいい。

大学では周りの「慶應ガール」から、さまざまな刺激を受ける

大学では刺激も多い。これまでは陸上関係以外の友だちは少なめだったが、いま大学では、ほとんどが陸上に関係のない友だち。「慶應ガールはおしゃれですよ」と、ファッションの面でも影響を受ける。アクセサリーは光りものが好き。走るときもそのときどきの気分で選んだピアスをつける。月に1度は大学の友だちと食事に行く。その日が待ち遠しい。何でも食べるが、絶対にダメなのがタルタルソース。だからチキン南蛮はダメだそうだ。

大学の勉強では中国語を頑張っている。「なんとか話せるように、と思って」。そして思想や宗教の分野にも関心が出てきた。「まったく興味なかったんですけど、授業を受けてたらはまりました」。世界にはいろんな宗教や信じる対象があって、自分はどうしたら幸福になれるんだろうと思いを巡らせる。そして陸上に通じる部分もあると思い至った。「一神教はストイックにグッと競技に入っていく選手で、多神教はいろいろ見ながらやっていく選手かな。私はいまは多神教です。最後は一神教になっていけたらと思います」。面白い19歳だ。

全国女子駅伝のレース後の笑顔に、いまの充実ぶりがうかがえた

大学4年で迎える2020年の東京オリンピック。樺沢は5000mか10000mでの出場を見すえる。「いまの日本のトップの人たちとも、ラストまで一緒にいけたら勝てるはずなんです。でも、いまはそこまで着いていけない。スピードを保ちつつ、スタミナもつけていきたいんです」。目下の目標は3月17日の「まつえレディースハーフマラソン」。ここで優勝すれば、夏のユニバーシアード代表に内定する。「ハーフマラソンで持久力の面を強化して、10000mにつなげたいと思ってます。自分で決めた道だから、頑張れます」。樺沢の両目が、輝きに、輝いた。

私たち編集部はまた一つ、ずっと見守りたい4years.を見つけた。

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